諸外国における保育制度の現状及び課題に関する研究

文献情報

文献番号
199800347A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国における保育制度の現状及び課題に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
網野 武博(上智大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,670,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成10年度より改正後の児童福祉法に基づき、保育システムは新しい時代に向け、大幅な改正がなされた。保護者の選択性を強めた直接契約の形へと利用形態が変化し、保育料徴収のシステム、配置基準や施設設備の最低基準等も同時に見直しがなされている。また、保育所保育指針の見直し作業も進む中、保育サービスのあり方についての議論は活発になっている。就学前児童のケアのあり方は幼稚園との関係、地方分権化等多くの不確定要素を孕んでおり、サービス実施方法、形態、内容ともに大きく転換期を迎えている。我が国においては長い間、就学前児童のケアは保育所と幼稚園、家庭の三者で分担されてきた。今回の保育システムの改革とともに「子ども」と「家庭」にとって真の意味においてふさわしい就学前児童のケアとはどのようなものであるのかを検討する時期に来ている。0~5歳児を「就学前児童」として包括的に捉え、今後の少子社会における子育て・子育ち(健全育成)の社会的サポートのあり方を検討する場合、従来のような分断的な研究では政策への反映を十分に行うことが難しい。また、研究時点や方法、対象に大きくばらつきがなく一覧的な資料の作成を行うことは、政策立案の基礎資料として将来的な活用の視点からも意義あることである。以上のような問題意識と背景を踏まえ、本研究では就学前児童への社会的関わりが諸外国においてどのように設計、実施されているのかを捉え、我が国における今後の就学前児童ケアのあり方を検討することを目的とする。
研究方法
各国の保育制度についての特徴と概要を文献及び資料を通して基本的項目(保育の場所、根拠法、配置基準、専門職等)によって整理し、政策理念や考え方とともに考察する。初年度である1998年度は研究協力者ごとに国分担を決め、各国文献・統計から上記項目についてのサーベイを実施した。また、来年度に実施予定の諸外国への質問紙調査の項目案の事前検討として日本版の作成と英訳作業を行った。今年度は、以上のことから各国の特徴を把握し、我が国の就学前児童へのケアのあり方について研究協力者会議によって要点を整理した。
結果と考察
今年度、文献調査を行い政策の概観を把握したのは以下のとおりである。北米(アメリカ、カナダ)、欧州(ドイツ、フランス、オランダ、デンマーク、スウェーデン)、オセアニア(ニュージーランド、オーストラリア)である。基本的にはブリーフ(各国一覧表)の作成を行うための背景や制度の把握を中心とした。特に「保育」に対する政策立案理念の把握を中心に行った他、保育サービスの職員の資格、配置基準などをみた。その結果、いずれの国においても保育政策の重要性は高く、また家族政策的な視点及び労働政策の視点も関わっていることがわかった。州法による規定をベースとしたアメリカでは、伝統的に救貧対策の一部として扱ってきたという経緯があるものの、クリントン政権以降、保育サービス担当部局を創設するなど、連邦ベースの関与を強めながら「救貧対策」から「就労と子育ての両立支援」的な方向へとの向かっていることがわかった。ドイツでは、東西統一後とくに旧西ドイツの政策が普及する中で、3歳までの手当制度、育児休業制度の充実、年長幼児から学童期にかけての保育の充実が図られていることが明らかになり、理念を持ったサービス整備を目指していると言える。フランスは手当と税控除の施策を組み合わせながら、子どもを産み育てることを支えるシステムを整備しているとともに、就学前の保育と教育の機会を確保する方向を明瞭にしている。北欧諸国は早くから国民の生活を支える基本的な社会サービスとして保育サービスを公的財源で整備してきたが、最近はその運営を民間や企業
参加へ広げていく等の動きを見せながらも理念的は基盤は確固としたものを持ち続けている。オセアニアでは、保育と幼児教育の関係を見直す「エデュケア(edu-care)」的な視点での整備を進めていることに並び、ライセンス制度によって民間を中心とした保育所設置を促進している。以上のように、歴史や伝統をふまえつつ、今日の政党の動静、政策の展開が深く関わっている政策立案の視点からその動向を捉えるならば、全体として「就労支援の一環としての子ども持つ家庭のウエルビーイングを目指す」タイプ、「教育との連携による就学前児童ケア」タイプ、「ミックスタイプ」の三つにまとめることができよう。来年度は今年の文献調査結果から出されたポイントを項目として作成し、統合的に分析する発展させていくこととしたい。
結論
我が国における保育所改革は著しい動きを見せている。エンゼルプランの策定以降、特別保育事業を中心として、地域の社会資源として拡がりを見せている。保育所は長い間、働く母親を持つ子どもの福祉を保障することを目的に整備されてきたが、これは働く親への支援と子どもの育ちと双方の生活に大きく貢献してきた。しかし、昨今の保育制度改革での動向を見ると、就労している家庭の子どもだけを対象としてきた(いわゆる「保育に欠ける」子ども)保育所のサービスを見直す背景には、すべての子どもに保育サービスが必要であるとの認識があると言える。また、保育所による集団保育サービスだけでなく、家庭的保育サービスの重要性が子どもの発達・成長の視点からもその重要性が指摘されるなど、形態や方法も様々になってきており、多様な保育サービスの萌芽がみられる。これを牽引しているものの一つには、働く親への支援という視点からのサービス提供があり、労働省の育児休業制度やファミリーサポートセンター事業といった公的施策もそれを応援している。この二つの方向からの子育て支援が、我が国の子育て家庭のニーズに合致する方向へと充実していくためには、国として、社会としての一つの可能な限りの合意を伴うトータルな理念型を有することが求められている。この方向は今回の諸外国の調査を通じてとくに確かめられることである。共通理念のもとに、それを達成・実現していくために多方面からのアプローチが効果を発揮するということが、諸外国の文献調査から読みとれる。今、児童福祉から子ども家庭福祉という政策的な転換の過渡期にあると言われるが、それを実質的なものとして充実していくためにも、保育サービスを含む就学前児童へのケアのあり方の理念や方針を総合的に確立していくことが重要である。このため、来年度は、各国への実態調査を行いながら統計・文献資料による分析をさらに進めていくこととし、我が国における保育サービスの政策スタンスを提示することとしたい。

公開日・更新日

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