文献情報
文献番号
201411009A
報告書区分
総括
研究課題名
手術療法の標準化に向けた消化器外科専門医育成に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
今野 弘之(国立大学法人浜松医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 後藤 満一(福島県立医科大学 臓器再生外科学講座)
- 森 正樹(大阪大学大学院 消化器外科学)
- 宮田 裕章(東京大学大学院 医学系研究科 医療品質評価学講座)
- 太田 哲生(金沢大学 消化器・乳腺・移植再生外科)
- 若林 剛(岩手医科大学 外科学)
- 國土 典宏(東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻 臓器病態外科学講座 肝胆膵外科・人工臓器移植外科分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年のがん医療の進歩、特に薬物療法による治療成績向上により、集学的治療が固形がん治療の中心となっている。すなわち、これからの外科治療は集学的治療を前提とした根治性、安全性、機能性を担保した質の高い標準化された手術の提供が求められており、優れた外科医育成システムの構築が必要である。本研究の目的は、これまでのNational Clinical Database (NCD)に登録された情報を基に、本邦における消化器外科手術の治療成績を評価し、消化器外科専門医のパフォーマンスを把握することによって、より質の高い専門医育成のシステムを構築することである。
研究方法
本研究のデータ収集・分析においてはNCDのネットワークを活用する。NCDは専門医制度を支えるデータベース事業として臨床系学会が連携して2010年4月に設立され、2011年1月1日に症例登録を開始した。データは、インターネットを介したシステムを用いて日本全国の4,000を超える施設から収集し、NCDにて情報システム管理、データ管理、分析が行われている。
平成26年度は、平成23、24年に登録されたNCDデータを後ろ向きに解析を行い、わが国の消化器外科手術の概要を明らかにすることとした。データ解析はNCD(委託)ならびに宮田裕章特任准教授(研究分担者)が担当した。さらに、医療水準評価対象8術式について、約12万の登録症例を用いて死亡率に関するリスクモデルを構築し、専門医関与の有無による死亡率の総括的な解析、学会認定施設か否か等の施設の評価や各施設における専門医数等と死亡率の検討を行った。
平成26年度は、平成23、24年に登録されたNCDデータを後ろ向きに解析を行い、わが国の消化器外科手術の概要を明らかにすることとした。データ解析はNCD(委託)ならびに宮田裕章特任准教授(研究分担者)が担当した。さらに、医療水準評価対象8術式について、約12万の登録症例を用いて死亡率に関するリスクモデルを構築し、専門医関与の有無による死亡率の総括的な解析、学会認定施設か否か等の施設の評価や各施設における専門医数等と死亡率の検討を行った。
結果と考察
2014年9月現在、消化器外科専門医は6,050名登録されていた。2012年に消化器外科専門医術式のNCD登録が行われた施設は2,181施設であり、施設ごとの専門医在籍人数をみてみると、0名が552施設(25.3%)、1名が619施設(28.4%)、2~3名が592施設(27.1%)、4名以上が418施設(19.2%)であった。専門医が不在または1名で消化器外科専門医術式を行っている施設が半数以上を占めているのが現状である。
2011~2012年の2年間で登録された医療水準評価対象8術式は、計250,012症例である。これら8術式の術後30日死亡率とそれぞれの手術における専門医の関与を検討すると、術者が専門医の場合は肝切除において、手術チームに専門医を含む場合は胃切除と膵頭十二指腸切除において治療成績は有意に良好であったが、他の術式では差を認めなかった。この結果は、専門医の関与に関しては単純に個々の手術における関与の有無だけではなく、hospital volume や施設ごとの専門医数などについてより詳細に検討する必要があることを示唆するものと考えられた。そこで、症例数による影響を除外した上で施設ごとの専門医数による治療成績を検討すると、低位前方切除以外の7術式において、専門医数が2名以上(胃全摘、膵頭十二指腸切除)、3名以上(胃切除、右半結腸切除)、4名以上(食道切除、肝切除、急性汎発性腹膜炎手術)在籍する施設で行われた手術成績が有意に良好であった。
消化器外科専門医は本邦において、外科医療のみならず、がん医療、緩和医療等を含め、地域の医療全般に渡り、中心的な役割を担っている。消化器外科医の「実力」が本邦の医療レベル、地域医療に大きく影響するといっても過言ではないと思われるが、これまでその「実力」が十分検討されることはなかった。本研究により、今まで不明確であった消化器外科専門医の実態がビッグデータを基にした実証的解析により明らかにされ、専門医の質の評価や専門医制度の妥当性、問題点を専門医育成プログラムに直接feed backすることにより、国民の視点に立ったわかりやすい制度の構築が提示できるものと考えられる。
2011~2012年の2年間で登録された医療水準評価対象8術式は、計250,012症例である。これら8術式の術後30日死亡率とそれぞれの手術における専門医の関与を検討すると、術者が専門医の場合は肝切除において、手術チームに専門医を含む場合は胃切除と膵頭十二指腸切除において治療成績は有意に良好であったが、他の術式では差を認めなかった。この結果は、専門医の関与に関しては単純に個々の手術における関与の有無だけではなく、hospital volume や施設ごとの専門医数などについてより詳細に検討する必要があることを示唆するものと考えられた。そこで、症例数による影響を除外した上で施設ごとの専門医数による治療成績を検討すると、低位前方切除以外の7術式において、専門医数が2名以上(胃全摘、膵頭十二指腸切除)、3名以上(胃切除、右半結腸切除)、4名以上(食道切除、肝切除、急性汎発性腹膜炎手術)在籍する施設で行われた手術成績が有意に良好であった。
消化器外科専門医は本邦において、外科医療のみならず、がん医療、緩和医療等を含め、地域の医療全般に渡り、中心的な役割を担っている。消化器外科医の「実力」が本邦の医療レベル、地域医療に大きく影響するといっても過言ではないと思われるが、これまでその「実力」が十分検討されることはなかった。本研究により、今まで不明確であった消化器外科専門医の実態がビッグデータを基にした実証的解析により明らかにされ、専門医の質の評価や専門医制度の妥当性、問題点を専門医育成プログラムに直接feed backすることにより、国民の視点に立ったわかりやすい制度の構築が提示できるものと考えられる。
結論
NCDデータより、食道切除術、胃全摘術、胃切除術、右半結腸切除術、肝切除術、膵頭十二指腸切除術、急性汎発性腹膜炎手術においては、消化器外科専門医が複数名在籍する施設における治療成績が良好であることが示された。これらの施設は消化器外科認定施設が多数を占めており、今回の検討により専門医制度における施設認定の妥当性が示されたと同時に、施設における専門医数は予想以上に大きな影響を及ぼす因子と考えられた。今後、死亡率リスクモデル、さらには合併症リスクモデルを用いた専門医制度全般の検証を深め、専門医制度の前向きな客観的評価とその結果に基づいた改善を繰り返すことで、より質の高い専門医制度へとブラッシュアップされることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2015-09-07
更新日
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