児童福祉施設の情報開示及び権利擁護の在り方に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800344A
報告書区分
総括
研究課題名
児童福祉施設の情報開示及び権利擁護の在り方に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
古川 孝順(東洋大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成9年に児童福祉法が改正され、都道府県知事(児童相談所長)が児童福祉施設に入所の措置等を行う際には児童及びその保護者の意向を調査しなければならないことになった。しかし、保護者のいない児童、虐待されている児童や非行児童等の保護を要する児童を対象とする児童養護施設、児童自立支援施設等では、これらの施設を利用している子どもの及びその保護者にたいしても、また住民にたいしても開示・提供している情報は大変少ないのが現状である。しかし、子ども・保護者、住民に対して適切にサービス内容に関わる情報を提供し、その意向を尊重していくことは、しばしば閉鎖的と指摘されているこれらの施設におけるサービスの透明性の確保と質の向上ならびに利用児童の権利を護ることに資するものである。
この研究は、そのような課題に応えるため、まず児童相談所や児童福祉施設とそのサービスを利用する子どもや保護者の視点から情報の開示・提供ならびに権利擁護に関わる実態の把握を試み、児童福祉サービスの向上に寄与することを目的としている。
研究方法
この研究では、①子どもの権利擁護に関する調査、②児童相談所の施設紹介に関する調査、③情報提供に関するヒアリング調査、の3通りの調査を実施した。
①子どもの権利擁護に関する調査:児童養護施設の利用者に対する情報提供、施設利用希望者や地域住民に対する情報開示、施設利用者の権利擁護の取り組みについて、すぐれた実践を把握するとともに、関係者の考えを聞くことを目的に、全国児童養護施設協議会協議院62名を対象として郵送による質問紙法により1998年9~10月中旬に実施した。
②児童相談所の施設紹介に関する調査:児童福祉施設等への措置を検討するに際し、(1)現在どのような情報提供が行われているか、(2)今後どのように情報提供が行われるべきかについて、各児童相談所のベテラン児童福祉司の考え方を調べることを目的に、都道府県ならびに指定都市等の児童相談所59ヶ所を対象として郵送による質問紙法により1998年9~10月に実施した。
③情報提供に関するヒアリング調査:関係者によってどのような内容の情報がどのように提供されているのか、またそれが利用者にどのように受けとめられているのかを、具体的なケースについて個別に確認し、情報提供の在り方について検討することを目的に、養護ケース11ケースについて1998年9~10月に担当児童福祉司、措置先施設長、利用者(ケースにより児童と保護者もしくはいずれかの一方)に面接調査を実施した。
結果と考察
①利用者への情報提供・説明方法 (1)児童相談所とは別に施設も積極的に児童や保護者に情報提供をするべきであると考えている者が多い。(2)子どもに提供すべき情報の内容は、施設での生活や援助方法に関することが多い。(3)説明の方法としては、施設の見学、パンフレットの作成などより具体的な方法の導入を支持する者が多い。
②地域住民や一般市民への情報開示・提供 (1)情報開示については6割以上が積極的であり、条件付きを含めると9割以上が必要と回答。(2)情報の種類では、施設活動の内容に関わる情報については積極的、制度的側面に関する情報についてもかなり積極的。法人関係に関する情報については消極的、個人に関わる情報については否定的。(3)情報開示・提供の方法としては、広報誌が望ましいとする者6割、行政による一括公開を支持する者3割、公開を求めた者にのみ提供すればよいとする者4割弱。
③利用者の権利擁護 (1)権利擁護については児童福祉司の対応がよいとする者が多い。権利擁護センターなど第三者機関を支持する者もかなりある。(2)施設内の職員や外部からの職員派遣による対応がよいと考える者も多い。(3)権利擁護は本来施設職員の役割であり、特別な制度は必要ないとする者も3分の1以上ある。
④児童相談所による施設紹介 (1)選択可能な施設のすべてを紹介しているとする回答が6割、一ヶ所のみ紹介が4割である。(2)施設を紹介するにあたって考慮する要因としては約6割が施設の力量、児童や保護者の希望、家庭からの距離の順で重視されている。児童や保護者の希望を第1順位とする回答も1割存在した。(3)一部定員割れ施設への措置を優先することがあるとする回答が8割あった。(4)里親制度の紹介については実施するという回答が5割であった。
⑤ヒアリングによる知見 (1)児童福祉司による児童本人、保護者、施設長に対する入所理由の説明がそれぞれ異なる場合がある。(2)児童福祉司による施設紹介は一時保護所との比較で提供されがちである。(3)小学校低学年に対する施設紹介は施設生活の実体験、高学年になるとパンフレットを利用するなど口頭による説明が可能となる。
児童養護施設の場合、情報の開示・提供に対してはかなり肯定的であると言えよう。
ただし、積極的なのは施設の援助活動の実際や制度的な側面についてであり、法人関係の情報については消極的である。これはアカウンタビリティという観点からは問題であるといえよう。個人情報に否定的なのは当然であろう。権利擁護の問題にたいする施設の反応は必ずしも積極的とはいえないようである。児童相談所と施設の範囲で退所したいという姿勢が強い。外部からの介入に否定的な施設もみられる。
児童相談所による情報提供の現状は必ずしも利用者による選択を積極的に支持するものではない。都道府県によって利用しうる児童養護施設の数に限りがあるという側面もある。利用者の希望というよりも施設の援助力量が重視されている。この傾向は児童養護施設の目的や利用者の特性に照らして当然のことともいえるが、定員割れ施設への子どもの配分を肯定する傾向が見られることは問題であろう。
児童相談所と施設によって提供する情報に違いがあり、また子どもと保護者では提供を受ける情報に違いがでているが、これは援助上の理由による場合があり一概に問題視することはできないであろう。
結論
児童養護施設にとっても情報の開示・提供は不可欠であるが、その内容や方法は、情報を開示・提供する主体と利用者の属性によって異なり、一般論では処理し得ない部分が多い。きめの細やかな議論が必要とされる。選択についてはサービスのメニュー自体が少ないうえに、利用者の希望よりも施設の提供しうる援助の内容が優先される場合があることに留意しておきたい。権利擁護については施設の側の意識改革が必要であろう。

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