小児の事故とその防止に関する研究

文献情報

文献番号
199800342A
報告書区分
総括
研究課題名
小児の事故とその防止に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 衞藤隆(東京大学)
  • 浅井聡(日本大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子化対策に適合する母子保健対策のひとつとして、小児の事故防止に関する
具体的方法を開発し広く啓発することで、子どもの安全に関する社会の認識を高め、先進諸国に比べて高率であるわが国の小児の不慮の事故による死亡率を低下させること。  
研究方法
田中班においては、昨年度収集された約1万5千の事故症例の詳細な分析を行い、事故防止マニュアルを作成する。また、全国保健所における小児事故防止事業の実態を把握するため質問紙調査を行い、次年度の事故防止対策実行に向けて情報を得る。同時に、インターネットによる事故や応急手当の情報提供と事故例収集のため、ホームページ開設に向けて他研究所などを参考に準備を行う。この他、主任研究者として研究の総括を行い、わが国におけるより効果的な事故情報の提供と収集について検討する。衞藤班においては、諸外国における事故防止啓発普及の現状を文献、既存資料、インターネットなどを利用して調査し、それらを参考に地域における小児事故防止啓発活動のあり方を検討する。浅井班においては、最近、誤飲事故が増加している小型乾電池について、とくに起電力の強い電池が食道狭窄部に停留した場合の病態生理や合併症などについて、動物実験を行い明らかにする。
結果と考察
14,612の事故症例を、年齢別、場所別に分析したところ、年齢別では、従来の研究結果通り、発育段階によって起こり得る事故に特徴があることが明らかになった。さらに場所別に分類すると、家庭内では台所、浴室、階段、玄関、居間・子ども部屋、ベランダで、家庭外では公園において事故が多発していることが明らかになった。そこで、これらの結果に基づいて、事故防止のための「安全チェックリスト」を作成した。年齢は、健診月齢に合わせた1カ月健診用、3~4カ月健診用、6カ月健診用、9カ月健診用、1歳健診用、1歳6カ月健診用、3歳健診用の7つに分類した。また、場所別の安全チェックリストについても、分析結果に基づき上記の家庭内と家庭外併せて7箇所について作成した。さらに、事故防止の効果を高めるため、その月齢や年齢に多く発生する事故について指導する内容のパンフレットを作成し、安全チェックリストと併用することにした。チェックリストは米国小児科学会でも採用されており、健康診査の受診率の高いわが国において、この機会を利用して子どもの事故防止の指導を行うことは効率的な方法であると思われる。
また、小児事故防止の教育および啓発活動を全国展開していく上で、各地域における活動拠点として保健所の可能性について検討した。主な調査内容は、保健所における小児事故防止事業の①現状、②今後の展望、③実施の必要条件、の3点である。調査は、全国の支所を除く660箇所の保健所に調査用紙を配布、496箇所から回答を得た。これより、①小児事故防止事業は、都道府県部で4割弱、政令指定都市部では8割を越える保健所で、主に乳幼児健診時に指導という形で実施されている、②今後の事業を計画している保健所は少数であったが、約6割の保健所が小児事故防止事業の必要性については認めている、③必要条件としては、指導マニュアルや職員の研修を挙げる保健所が多い、などのことが明らかになった。また「小児事故防止センター」等の支援機関の必要性に関しても、全体の7割以上の保健所が必要であると答え、事故情報の提供、指導者の派遣、指導媒体の提供等を期待していた。
インターネットを利用した子どもの事故症例の収集と応急手当の啓発については、今年度は基本的構想を立て、次年度早々にホームページを開設する段階まで到達した。概念としては、子どもの事故に関する情報の掲載と応急手当の紹介、さらに、子どもの事故例をアンケート形式で収集し、この結果を定期的に掲載することなどを考えているが、今後の情報提供や収集の方法として、インターネットの活用は有用であろうと思われる。
事故防止啓発方法に関する研究では、事故防止対策に早期より取り組んでいるスウェーデン等の国においては、事故のサーベイランスを行うと共に、各種事故に対する防止のための介入を組織的に実施し、それらの中に啓発活動が位置づけられていること、および組織的、計画的な取り組みにより介入の評価も可能となっていることなどが明らかになった。
また、わが国の市区町村において実施されている母子保健事業の中で、小児事故防止のための啓発がどのように位置づけ可能であるかを東京都北区において検討したところ、母子健康手帳、両親(母親)学級、新生児訪問、乳幼児健康診査、育児教室等数多くの活用場面があること、このほか児童館、地域の集まり、健康まつり等、関連する事業等の活用も可能であることが把握された。各種事業、行事の有機的関連を見通して、計画的および組織的に健康政策としての小児事故防止対策を位置づけていくことが課題である。
乳幼児小型乾電池誤飲事故による傷害および合併症の治療に関する研究においては、電池誤飲による食道粘膜障害は、持続的に流れる電流により二次的に陽極と陰極に各々別の化学反応が起こり、それぞれに産生された酸とアルカリに起因するものであることが判明した。とくに陰極のアルカリ側が危険であり、合併症の主な原因であることが明らかになったことから、電池による食道異物除去後の経過観察の重要性と初期治療の必要性が示唆された。この結果から、現在、小型乾電池誤飲事故はそれ程危険ではないという見解が一部に存在することから、保護者や医師等に改めて注意を促す必要があると思われる。また、今後は、アルカリ残留による進行性の合併症の病態解析、その早期予防および治療法の確立が肝要である。
以上より、これらの小児事故に関する情報を正確に迅速に伝えるためには、アメリカCDC内の国立事故防止センターのような中心的役割を果たす機関が必要になることが見込まれ、今後も引き続き検討する必要が認められた。
結論
小児の事故防止に関する効果的対策を講ずるため、事故防止マニュアルとして年齢別、場所別の安全チェックリストや、事故情報を掲載したパンフレット等を実際の事故症例の分析に基づいて作成し、次年度より全国保健所の健診時や、医療機関および保育園等に協力を求めて活用することとなった。また、インターネットを利用した事故情報の提供と収集を行う準備を整えた。さらに、先進諸国の事故防止教育プログラムやその方法を参考にして、地域における啓発方法も検討された。一方で、小型乾電池誤飲事故の病態生理と合併症について実験を行い、食道に停留した際にはアルカリ側が危険であることが判明したことから、電池による食道異物除去後の経過観察の重要性と初期治療の必要性が示唆された。
また、小児事故の防止に向けて中心となるべき機関の設立が必要であるとの要望が高いことも判明したため、継続して検討することとなった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-