臨床研究に関する欧米諸国と我が国の規制・法制度の比較研究

文献情報

文献番号
201409045A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床研究に関する欧米諸国と我が国の規制・法制度の比較研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-医療技術-指定-019
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 哲(慶應義塾大学 大学院法務研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、高血圧症治療薬の臨床研究事案により信頼が損なわれた我が国の臨床研究に対し、1)アカデミアの臨床試験規制の概要、2)データの信頼性確保、3)被験者保護、4)利益相反、5)研究不正、6)広告規制の6点について、諸外国の制度及び運用に関する情報の収集及び整理検討を行い、我が国の臨床研究に対する信頼回復のための法制度に係る検討材料の提供を行うことを目的とする。
研究方法
 欧米諸国の臨床研究規制制度に関する国内外の関連文献・資料を体系的に収集・分析するとともに、臨床試験規制政策において国際的に強い影響力を有するアメリカの行政機関及び研究機関等を訪問し、規制状況に関するヒアリングおよび資料収集を実施した。訪問に先立って詳細な質問項目を作成し訪問先に送付するとともに、訪問調査後も、電子メール等による追加調査を行った。また、このほか、FDAの行政処分のdebarの解釈について、英米法の専門家より助言および情報提供を受けた。
結果と考察
1)医薬品臨床試験のIND規制では、アカデミアの臨床試験であっても、食品医薬品局(FDA)が法令に基づき関与する一方で、市販薬の臨床試験については一定の条件下で規制を免除する仕組みがあり、特に営利目的のないアカデミアの臨床試験については一律に規制対象とせず、リスクに応じた対応を行うなどの工夫をしている点が注目される。
2)データの信頼性確保、特にモニタリングと監査については、スポンサーの責務として「モニタリング」を課すが、詳細は法令上規定されず、「監査」についてはそもそも規定が存在しない。そのため、各研究者、研究機関において実情に応じた対応が可能である。
3)被験者保護については、医薬品の臨床試験と連邦省庁の助成による臨床研究に対して、それぞれ別の規則が存在しているものの(FDA規則とコモン・ルール)、概ね内容はハーモナイズされており、多くの研究はこれらの規則に従って実施されており、近時はさらに適用範囲の拡大が検討されている。他方、日本と同様に基本的には施設型の倫理審査委員会を有する米国でも、近時は審査の質の向上や標準化とともに、その非効率性が大きな課題となっている。多施設共同研究の1回審査の義務化および迅速審査と審査免除の範囲の拡大等が提案されている。
4)利益相反に関する米国の取り組みは、研究者個人が有する金銭的な利益関係を念頭に置いており、近時は、研究者による利益関係の申告・公開要件は一段と強化される方向にある。公衆衛生局の規制は、利益相反関係の性質や影響の度合いに注目し、またこうした点の検討に当たる要員を配備する取り組みを行っており注目に値する。
5)研究不正については、FDAが監督する医薬品の臨床試験については、申請に用いられるデータの不正に関連する行政処分があるほか、一部について当該個人の刑事責任が追及されうる。研究活動が公的助成を受けている場合には、研究助成の停止など、助成資格に関する処分が検討される。また、研究不正を扱う専門の部局として研究公正局(ORI)があり、研究機関の調査の支援・監督及び教育資材の提供を行う。英仏では見られなかった活動であり、注目に値する。
6)広告規制については、英仏と同様、規制当局内部に医療者向けの広告規制を担当部局があり、企業のプロモーション活動を監視している。あらゆる広告資材の提出と一部の医薬品に関する事前相談が義務化され、積極的な監視活動がされている。規制対象たる広告概念の外延についても慎重な見極めをしようとする運用も含め、注目に値する。
 欧米諸国の臨床研究に関する規制制度に関する体系的な情報収集を行い、日本の現状と比較考察した結果、1)規制当局の関与、2)データの信頼性確保、3)被験者保護、4)利益相反、5)研究不正、6)広告規制の6点について、今後対応が必要だと考えられる論点が抽出された。そのため、臨床研究全般に関する法制度の検討においても、これらの論点を踏まえた検討が必要であると考えられる。
結論
「結果と考察」記載の通り

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201409045B
報告書区分
総合
研究課題名
臨床研究に関する欧米諸国と我が国の規制・法制度の比較研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-医療技術-指定-019
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 哲(慶應義塾大学 大学院法務研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田代 志門(昭和大学 研究推進室)
  • 山本 精一郎(独立行政法人国立がんセンター がん予防・検診研究センター保健政策研究部)
  • 井上 悠輔(東京大学医科学研究所)
  • 成川 衛(北里大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、高血圧症治療薬の臨床研究事案により信頼が損なわれた我が国の臨床研究に対し、1)アカデミアの臨床試験規制の概要、2)データの信頼性確保、3)被験者保護、4)利益相反、5)研究不正、6)広告規制の6点について、諸外国の制度及び運用に関する情報の収集及び整理検討を行い、わが国の臨床研究に対する信頼回復のための法制度に係る検討材料の提供を行うことを目的とする。
研究方法
欧米諸国の臨床研究規制制度に関する国内外の関連文献・資料を体系的に収集・分析するとともに、臨床試験規制政策において国際的に強い影響力を有する英仏米国の行政機関及び研究機関等を訪問し、規制状況に関するヒアリングおよび資料収集を実施した。訪問に先立って詳細な質問項目を作成し訪問先に送付するとともに、訪問調査後も、電子メール等による追加調査を行った。フランス生命倫理及び英米法の専門家等から助言および情報提供を受けた。
結果と考察
1)規制の枠組み・規制当局の関与:英仏ともに販売承認目的の有無を問わず、医薬品の臨床試験を規制する。倫理審査委員会の承認に加え規制当局の関与を必須としている点が重要な特徴である。米国でも同様に、販売承認目的の有無を問わず、医薬品の臨床試験を規制する制度がある(「新薬」の臨床試験に対するIND規制)。ただし、市販薬の臨床試験については、一定の条件下で規制を免除する仕組みがある(営利目的が無く、リスクが低い場合)。
2)データの信頼性確保:英仏では、法令上はモニタリングや監査について詳細を規定せず(研究に応じた多様性を許容)、研究者の判断を事後的にチェックする仕組みを重視する(特に当局の査察可能性が実効性を担保する)。米国では、IND申請が必要な場合は「モニタリング」は必須である(ただし詳細は規定せず、研究に応じた多様性を許容)。「監査」については法令化されていない。
3)被験者保護:英仏では、倫理審査を求める法的根拠が存在する。地域に公的機関としての倫理審査委員会があり、その運営や質の標準化に関しては国による積極的な関与がある。米国では、医薬品の臨床試験(FDA規則)においても、連邦省庁の助成による臨床研究(コモンルール)においても、ICと倫理審査に関する類似の連邦規則が存在している。現在、施設IRBから中央/共同IRBへの移行が進行中である。
4)利益相反:英仏では、医薬品の臨床試験に関しては法的拘束力のある規定が存在する(それ以外はガイダンス)。研究者のCOI管理に加え、規制当局や倫理審査委員会のCOI管理が重視されている。米国では、医薬品・医療機器の臨床試験(FDA規則)及び公的助成を受ける医学研究(PHS規則)に関してそれぞれ連邦規則が存在する。PHS規則の改正により施設の責任を重視する方向が示されている。
5)研究不正:英仏では、医薬品の臨床試験に関しては、データねつ造禁止やデータの保存義務に関する法的規制が存在する。その他の実質的なペナルティとしては、医療資格と連動した懲戒処分が機能している。米国では、FDAが監督する臨床試験における研究不正は主に行政処分で対応し、場合により刑事告発も検討するという。公的助成を受けた医学研究に関しても、研究不正に関する連邦規則が存在し、専門の部局が対応支援する。
6)広告規制:英仏では、規制当局内部に、医療者向けの広告規制を担当する部局があり、広告の内容をチェックしている(仏国は事前チェックに切り替えたばかり)。米国では、規制当局内部に、医療者向けの広告規制を担当する部局があり、企業のプロモーション活動を監視する。すべての広告資材の提出と一部の医薬品に関する事前相談が義務化されている。
結論
我が国の医薬品の臨床試験に対する規制体系は、国際調和の観点から見直す余地がある。その際、諸外国の規制・運用状況を踏まえれば、画一的かつ詳細な規律を及ぼすことは現実的ではなく、研究者の自主自律的な対応を基盤としながらそれを適切な第三者が判断できるようにするなど、個々の研究の特徴やリスクに応じた合理的な規制体系を展望する必要がある。法令による規律、倫理審査委員会や行政機関等の関与のあり方をめぐっても、制度全体の一貫性を維持する一方で、一律かつ強度の規制を及ぼす場合の弊害に留意するなど、バランスを堅持することが重要である。さらに、規制の実効性の担保のため、関係諸制度にも視野を広げた検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201409045C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国の臨床研究に対する信頼回復のための法制度に係る検討材料の提供を行うため、英仏米国の制度及び運用状況に関する情報の収集及び整理検討を行った。学際的な考究体制を確保すること、関係機関の協力を得て最新の現況を網羅的に調査することで、医学研究規制に関する体系的な比較研究の成果を得ることができた。
臨床的観点からの成果
本研究では主に、1)アカデミアの臨床試験規制の概要、2)データの信頼性確保、3)被験者保護、4)利益相反、5)研究不正、6)広告規制、の6点について調査した。例えばデータの信頼性確保や広告規制に関して、諸外国の病院や研究機関等が取り入れている手法等を具体的に紹介した点は、関係各所の取組みの改善にも示唆的であり参考になると思われる。
ガイドライン等の開発
厚生労働省・臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会第3回(平成26年6月25日)で英仏、同第5回(同年8月27日)で米国について研究成果を報告した。同検討会「報告書」(同年12月11日)に本研究成果概要が資料として所収される。また、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年12月22日)の策定に際して、モニタリング・監査に関する規定のあり方に関して知見を提供した。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省・臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会「報告書」(平成26年12月11日)において、今後の臨床研究に係る制度の見直しの方向性、具体的な規制や対策の内容等について、本研究成果を踏まえた提言がなされるに至った。「臨床研究法」(平成29年法律第16号)の制定過程においても参考にされた。
その他のインパクト
第52回日本癌治療学会学術集会シンポジウム「日本における臨床研究の現状と信頼回復の取組」(於 パシフィコ横浜、平成26年8月30日)、第4回がん新薬開発合同シンポジウム「日本からのグローバルエビデンス発信を目指して」(於日経カンファレンスルーム、平成26年11月28日)等で、本研究成果を報告する機会を得た。製薬協広報委員会「製薬協メディアフォーラム」(平成26年10月30日)基調講演等でも取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
磯部 哲
医薬品関連分野での利益相反問題と「透明性」に関する覚書
慶應法学 ,  (31) , 191-205  (2015)
原著論文2
磯部 哲
欧州での研究者主導臨床試験法制化と運用の実際
腫瘍内科 , 15 (3) , 334-337  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201409045Z