小児慢性特定疾患の効果的養育支援のあり方と治療の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800341A
報告書区分
総括
研究課題名
小児慢性特定疾患の効果的養育支援のあり方と治療の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 齊(国立療養所三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 湯沢布矢子(宮城大学)
  • 古川正強(国立療養所香川小児病院)
  • 富沢修一(国立療養所西小千谷病院)
  • 竹内浩視(国立療養所天竜病院)
  • 友岡裕治(福岡県遠賀保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児慢性特定疾患の効果的養育支援をし、かつ治療を評価するため、我々は平成9年に実施した療育の実態に関する全国アンケートに基づき、以下の研究を実施することを目的とした。すなわち小児慢性疾患児に配布されている手帳の活用程度と評価並びに今後のあり方、長期医療が必要な患者の医療の実態を調査し問題点を明確にする、小児慢性特定疾患に対する効果的保健婦活動とその支援マニュアルの完成を目指す等である。
研究方法
主任研究者の他5名の分担研究者により担当した方法の詳細はそれぞれの分担研究報告にゆずるが6人の研究者で分担し、それぞれ研究協力者をもって課題に取り組んだ。データーの収集は主にアンケート方式によった。
結果と考察
湯沢らは、小児医療における保健婦活動に関して研究した。平成9年に保健所保健婦の活動について調査を実施していたため、本年は市町村保健婦の患児に対する援助の実態を調査し比較した。アンケートの回収率は55.5%で保健所の38.5%を上回った。保健婦になるまでに臨床経験を持ったことのある保健婦は32.4%(保健所15.6%)で、いずれも1/3以下であった。現場での患児への援助経験は48.7%(保健所92.2%)であった。援助した疾患としては先天奇形、染色体異常、神経系疾患が主であった。また援助に至る情報源として、病院関係からの連絡は12%程度(保健所39.2%)で、病院との連携はあまりとられていないことがわかった。援助を実施した内容は家族へのカウンセリングが中心であった。保健婦が援助してゆく上での困った点としては、知識の不足が主で、したがって自信があると答える人も少なかった。
友岡らは平成9年に作製した保健婦用小児慢性特定疾患療育指導マニュアルの使用状況について、三重県、佐賀県、福岡県の3県で、保健所に対するアンケート方式で調査した。その結果、訪問した疾患は気管支喘息、先天代謝異常症、悪性腫瘍、インスリン依存型糖尿病、ネフローゼ、先天性心疾患、てんかん、低身長等人数は少ないが多枝にわたっていた。医療機関の依頼で実施したのは14.4%であった。またマニュアルについては少し改善の余地はあるが、有用であるとする者がほとんどであった。
古川らは小児喘息、心疾患、膠原病で16歳以上に達した児についてその問題点を検討した。小児喘息は45名中36名(80.0%)が解答した。最終学歴は中卒から4年生大学までいろいろであった。就職については病気のことを知らせたら不合格になった者がいた。小児心疾患では根治術まで出来た例は9名中3名(33.3%)であった。また普通生活が出来ている者は5名で、学校では友人、教師の無理解を訴える者もいた。膠原病については6名ですべて学生であった。全体としてみた場合、医療側から学校への連絡があまりよくないようである。
竹内らは糖尿病、内分泌疾患を持つ児について調査した。前者は26例、後者は9例であった。糖尿病はインスリン使用例のみ今回は調査されたが、全例自己注射を行っているが、血糖管理は不十分という結果であった。また学校でのインスリン注射や血糖測定に問題ありと答えた者が約半数あり、不登校につながっている者もいた。内分泌疾患については、4疾患であったが、まだ対象児の年齢が若く十分分析が出来ないが、学校では同級生、養護教諭が無理解とした者が多かった。
富沢らは小児慢性腎疾患につき16歳以上の症例に対して、学校生活、現在の悩み、状況などについてアンケート調査を行った。回答者は57名で疾患内容はIgA腎症、紫斑病性腎炎、急速進行性腎炎ネフローゼ症候群、アルポート症候群等であった。このうち、心の問題に直面した症例は34.7%、部活動に制約を受けた症例49.1%、就職に障害を来した症例は18.5%であった。結婚については11.4%が、腎臓病のため考えていないと解答した。また現在も小児科に係っている例は92.7%に見られ、成育医療としての体制は出来上がっているように思われた。更に症例を増やして我が国の現状を浮き彫りにしたい。
神谷らは二つのテーマを共同研究者と共に検討した。一つは、平成8年より使用されている小児慢性特定疾患手帳について、その利用頻度と問題点を検討した。今年度は班員の属している県について調査した。その結果手帳の使用状況には多くの問題点が見られた。交付率は新潟県9.4%、静岡県25.2%、三重県9.6%であった。主治医が手帳の存在を知っていたのは数名で、医療関係者に対しても、手帳の存在、活用法などが、周知徹底していないことがわかった。また患者も受診時に持参する例はほとんどなかった。これが全国の実態であれば大きな問題であり、利用頻度の高いところの実態調査が必要と考えられた。
また、もう一つのテーマとして小児慢性特定疾患に対する効果的保健婦活動について昨年我々の班で作製した保健婦のためのマニュアルにしたがって、在宅支援の取り組みがどのように行われているかについて、福岡県、佐賀県、三重県に於いて調査した。少ない予算、人的資源の中で事業を推進して行くことは大変であるが、少なくとも研修の充実、関係機関との連携が大切と思われるので、もう少し広い範囲での実態をよく把握して、検討したいと考えている。
結論
小児慢性疾患の介護的側面を検討し、保健所、市町村の保健婦の役割をどのように調査して行くかのヒントを得た。また、成人に持ち越す疾患における治療とケアーの面から調査し、問題点検討の手がかりを小範囲で得ることを目指した。次年度は詳細に検討し、今後の厚生行政に積極的に反映する事を目指したい。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-