小児難治性腎尿路疾患の病因・病態の解明、早期発見、管理・治療に関する研究

文献情報

文献番号
199800340A
報告書区分
総括
研究課題名
小児難治性腎尿路疾患の病因・病態の解明、早期発見、管理・治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 拓(国立小児病院)
研究分担者(所属機関)
  • 村上睦美(日本医大北総病院小児科)
  • 本田雅敬(都立清瀬小児病院小児科)
  • 吉川徳茂(神戸大学医学部保健学科)
  • 五十嵐隆(東大分院小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児難治性腎疾患の予後改善を目的として、腎不全の予防・治療上特に重要な課題である以下の4分野について研究を行った。
早期診断法の研究は未解決である天性腎尿路奇形早期診断スクリーニング法とし、治療研究は最も重症な病態である末期腎不全と、小児期腎疾患の中で最も頻度が高く、難治で至急の治療法確立が必要なIgA 腎症に絞り、有効な治療法を研究することとした。病因・病態研究の対象は臨床に結びつく基礎的研究に絞り、小児科領域に特徴的な先天性腎・尿細管疾患のDNA診断と、腎障害機転に関与する遺伝子異常について研究した。以上の費用効率の高い研究を行う事により上述の目標の達成を目指した。
研究方法
有用な天性腎尿路奇形のスクリーニングシステムを確立するため、本研究班員が行って来た超音波(ECHO)スクリーニングの成績を解析し、スクリーニング基を検索した。更にECHOによる膀胱尿管逆流(VUR)スクリーニングのの有用性も検討した。
小児期腎不全のデータベースを作成するため、集計項目表の検討を行った。既にデータベースが蓄積されつつある PD 患者についてはモデルケースとして解析を行った。
小児期 IgA 腎症に対するカクテル治療の共同試験結果を解析し、短期のみならず長期予後についても分析した。
特発性尿細管性蛋白尿症、純系永続性近位尿細管性アシドーシス、腎性尿崩症などの先天性腎尿細管機能異常の原因遺伝子の解析、Drash症候群、IgA腎症、ネフローゼ症候群などの糸球体障害機転への遺伝子異常の関与を解明するため分子生物学的検討による研究を行った。
結果と考察
現在までのデータ分析から ECHOスクリーニング基準として時期は生後6カ月以内に行うこと,測定は,①腎の大きさ(±3SD),②中心部エコーの異常(8mm以上),③エコー輝度の異常,④その他の異常(腫瘍性病変,腎実質の菲薄化など),を基準とすることとした。次年度はこの基準による共同研究を開始し、その有用性を確認し、更に異常を発見された患児に対する治療方針についても検討する。ECHO によるVUR早期診断の有用性については一定の結論を得る事が出来ず、継続して次年度での研究が必要である。 小児期腎不全のデータベースを作成するため、研究協力者の竹林から統計処理上の指導を受け第一次、第二次調査表を作成し、現在全国の各該当施設へ発送中である。既にデータベース作成が先行している小児 PD 症例807例について原病、予後、合併症、死因について検索し、欧米に比し良好な透析成績を維持していることを明らかにした。しかし、小児の中でも低年齢時(乳幼児)は腹膜炎を含め合併症の頻度が高く、長期の透析維持もより困難であり、また、透析の長期化により小児でも硬化性腹膜炎が問題となりつつあることが明らかになった。この問題を解決するため、次年度より PD 効率の適切な評価法、硬化性腹膜炎の予防、治療について研究を行う予定である。
びまん性増殖性病変を示す重症 IgA 腎症にプレドニゾロン、アザチオプリン、ヘパリン/ワーファリン、ジピリダモールのカクテル治療を2年間投与し、尿所見と腎組織所見の改善を得る事が出来た。本研究においてこれらの患児を治療終了後長期にわたる経過観察を行った結果、9年後の腎生存率で有意の改善を得る事が出来た。しかし、本治療法は成長障害、骨障害などの副作用が問題となるため、より安全で有用な治療法を探るために現在ス剤単独使用、ス剤+他の免疫抑制剤治療などの検討を進めている。
特発性尿細管性蛋白尿症家系に英国のDent病患者で異常が報告されているCLCN5遺伝子にmutationを検出した。純型永続性近位尿細管性アシドーシス患者末梢血Na+/HCO3- cotransporter cDNAにmutationを検出した。腎性尿崩症についてクロライドチャネルClC-K1のノックアウトマウスを作成し、ClC-K1が細いヘンレ上行脚のクロライド輸送の大半を占めることとこの障害により重篤な腎性尿崩症が発症することを明らかにした。これらの知見は極めて基礎的な成果であるが、知見が蓄積することによりヒト腎尿細管の働きがより明らかになれば、これらの難病に悩む子ども達を苦しみから救うことも可能となる。
Drash症候群におけるWilms腫瘍摘出後の残存腎でのWT1 遺伝子による糸球体硬化機転を検索することが出来た。また、angiotensin converting enzyme(ACE)遺伝子多型や
platelet-activating acetylhydrase(PAF)遺伝子多型がIgA腎症の組織障害や蛋白尿の程度、ネフローゼ症候群の再発の頻度に影響を与えることを明らかにした。この知見は当該遺伝子の形成蛋白の補充、拮抗物質の投与が治療に結びつくことを示唆しており、次の段階での薬剤試験の可能性を探りたい。
結論
研究の第一年度における4分野での目標をほぼ達成する事が出来た。即ち、先天性腎尿路奇形の早期スクリーニング基準(案)を完成し、次年度よりその有用性についての共同研究を進める事が出来る。小児腎不全データベースの調査表を作成し、次年度よりデータの集積を進める。IgA 腎症カクテル治療の長期効果を確認出来たので、次年度よりより副作用の少ない薬剤の組み合わせを検討する。先天性尿細管疾患の遺伝子異常について新知見と、種々の腎炎の組織障害機転における遺伝子の関与を明らかにした。

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