難治性SLEに対するボルテゾミブ療法の有効性・安全性検証試験

文献情報

文献番号
201409015A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性SLEに対するボルテゾミブ療法の有効性・安全性検証試験
課題番号
H24-被災地域-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
張替 秀郎(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 良哉(産業医科大学 医学部)
  • 川上 純(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 齋藤 和義(産業医科大学 医学部)
  • 山口 拓洋(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 石井 智徳(東北大学病院)
  • 井上 彰(東北大学病院)
  • 石澤 賢一(山形大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
42,750,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 石澤賢一 東北大学病院(平成24年4月1日~平成26年11月30日)→山形大学(平成26年12月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
全身性エリテマトーデス(SLE) は,全身性の臓器障害を呈する自己免疫疾患であり、若年女性が主体となる疾患である。根本的治療がない難治性疾患であり、治療の選択肢が限られていることから、新たな治療薬の開発が望まれている。ボルテゾミブは、抗体産生細胞である形質細胞が腫瘍化した多発性骨髄腫に対して有効な分子標的薬である。その作用機序から、SLEをはじめとする抗体関連良性疾患に対してもボルテゾミブが有効であることが予想される。本研究の目的は、難治性SLEに対するボルテゾミブ療法の確立を目指した医師主導治験の実施であり、平成26年は最終年度に当たる。
研究方法
難治性SLEに対するボルテゾミブの有効性・安全性探索試験(第II相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験)を実施し、難治性SLEに対するボルテゾミブの有効性・安全性を確認する。対象はステロイドホルモンに加え免疫抑制剤を使用しても、十分な疾患活動性の制御ができず、ステロイドホルモン剤の減量が困難となっている中等度の活動性をもった難治性SLEであり、目標症例数は14例である。治療プロトコールは、治験薬(被験薬:ボルテゾミブ1.3mg/m2またはプラセボ)を投与1、4、8、11日目(1サイクル目)および投与29、32、36、39日目(2サイクル目)に皮下注射にて投与し、24週まで観察する。主要評価項目は、投与開始より24週後におけるdsDNA抗体価の低下であり、副次評価項目は12週後、24週後における抗dsDNA抗体の低下、補体の上昇、治療反応率 SLEDAI response index(SRI)、BILAG AまたはBの臓器障害スコアの改善度、SLICC/ACR damage indexによる臓器障害度の変化、プレドニン投与量の変化率である。本治験の実施施設は東北大学、産業医科大学、長崎大学3施設である。また、付随研究としてボルテゾミブの有効性をモデルマウスを用いて確認する。
結果と考察
最終年の本年度で目標症例数のエントリーを達成し、総括報告書を作成することができた。有効性は、主要評価項目および副次評価項目のいずれにおいても両群間に有意差は認められず、ボルテゾミブ群の効果は確認されなかった。ただし、有効性副次評価項目に関する追加解析で、ボルテゾミブ群で12週のSELENA-SLEDAIスコアが0週と比べ有意に低下し、疾患活動性の低下が認められた。また、SLICC/ACR damage indexによる臓器障害度は両群間に有意差はみられなかったが、ボルテゾミブ群では投与24週で0週と比較して低下した。安全性に関しては、プラセボ群に比しボルテゾミブ群で有害事象の発現件数が多く、重篤な有害事象発現例数も多かった。ほとんどの有害事象はボルテゾミブ製剤(ベルケイド®注射用3 mg)でみられる事象であった。
モデルマウスを用いてのSLEにおけるボルテゾミブの治療効果の検証結果であるが、糸球体腎炎スコアはコントロール群に比べて、シクロフォスファミド、ボルテゾミブ投与群で有意な改善を示し、血中抗dsDNA抗体値と脾臓の形質細胞数は、ボルテゾミブ群のみにおいて有意な低下を示した。
結論
医師主導治験である「難治性全身性エリテマトーデスに対するボルテゾミブの有効性・安全性探索試験:第II相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験」を実施した。難治性SLEに対するボルテゾミブ療法については、その有効性を示唆する所見が得られたが、一方で多くの有害事象が認められた。有害事象については投与法の変更により対処できる可能性があり、今後主要評価項目や投与スケジュールを見直すことで次の治験ステップに進み得るかどうか検討する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201409015B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性SLEに対するボルテゾミブ療法の有効性・安全性検証試験
課題番号
H24-被災地域-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
張替 秀郎(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 良哉(産業医科大学 医学部)
  • 川上 純(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 齋藤 和義(産業医科大学 医学部)
  • 山口 拓洋(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 石井 智徳(東北大学病院)
  • 井上 彰(東北大学病院)
  • 石澤 賢一(山形大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 石澤賢一 東北大学病院(平成24年4月1日~平成26年11月30日)→山形大学(平成26年12月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
膠原病の代表的疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)は、20~40歳代の女性に発症のピークがある若年女性が主体となる疾患である。その症状は皮膚病変、粘膜病変、関節炎、血球減少、漿膜炎、臓器障害等多様であり、生命を脅かす重篤な状態を起こす症例も存在する。原因は不明であり、根本的治療もなく、一生涯継続的な診察、治療を必要とされる難治性疾患である。治療としては、炎症の病態に合わせてステロイドホルモン剤を中心とした免疫抑制療法が行われるが、その選択肢は限られており新たな治療法の開発が切望されている。ボルテゾミブは可逆的かつ特異的なプロテアソーム阻害薬であり、形質細胞の腫瘍である多発性骨髄腫に対する有効性が確立している。SLEの病態形成には抗dsDNA抗体をはじめとした病原性自己抗体を産生する形質細胞が主要な役割を果たしていることから、ボルテゾミブはSLEに対しても有効である可能性が高い。そこで、今回、難治性SLEに対する新規免疫抑制療法としてのボルテゾミブ療法の有効性、安全性の確認のために医師主導治験を計画した。
研究方法
平成24年度は、東北大学、産業医科大学、長崎大学を治験実施施設として治験体制を確立し、PMDAと複数回面談の上プロトコールを確定した。難治性SLEに対するボルテゾミブの有効性・安全性探索試験(第II相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験)である。対象はステロイドホルモンに加え免疫抑制剤を使用しても、十分な疾患活動性の制御ができず、ステロイドホルモン剤の減量が困難となっている中等度の活動性をもった難治性SLEであり、目標症例数は14例とした。治療プロトコールは、治験薬(被験薬:ボルテゾミブ1.3mg/m2またはプラセボ)を投与1、4、8、11日目(1サイクル目)および投与29、32、36、39日目(2サイクル目)に皮下注射にて投与し、24週まで観察する。主要評価項目は、投与開始より24週後におけるdsDNA抗体価の低下であり、副次評価項目は12週後、24週後における抗dsDNA抗体の低下、補体の上昇、治療反応率 SLEDAI response index(SRI)、BILAG AまたはBの臓器障害スコアの改善度、SLICC/ACR damage indexによる臓器障害度の変化、プレドニン投与量の変化率である。平成25年度から治験を実施し、26年度に目標症例数のエントリーを達成し、治験総括報告書を完成させる。また、付随研究としてボルテゾミブの有効性をモデルマウスを用いて確認することとした。
結果と考察
平成25年9月に第一例の同意書を取得し、11月に治験薬の投与を開始した。平成26年11月に最終症例の観察が終了した。治験の結果であるが、予定症例数である14例をボルテゾミブ群に8例、プラセボ群に6例無作為に割り付けた。結果として、有効性は、主要評価項目および副次評価項目のいずれにおいても両群間に有意差は認められず、ボルテゾミブ群の効果は確認されなかった。ただし、有効性副次評価項目に関する追加解析で、ボルテゾミブ群で12週のSELENA-SLEDAIスコアが0週と比べ有意に低下し、疾患活動性の低下が認められた。また、SLICC/ACR damage indexによる臓器障害度はボルテゾミブ群では投与24週で0週と比較して低下した。再燃(SELENA-SLEDAI SLE Flare Index)では、24週においてプラセボ群で軽度または中等度の再燃例が2例(50%)認められたが、ボルテゾミブ群には再燃例はなかった。これらの結果はボルテゾミブが臨床症状を改善させる可能性を示している。安全性に関しては、プラセボ群に比しボルテゾミブ群で有害事象の発現件数が多く、重篤な有害事象発現例数も多かった。ほとんどの有害事象はボルテゾミブ製剤でみられる事象であった。モデルマウスを用いてのSLEにおけるボルテゾミブの治療効果の検証については、ボルテゾミブ投与により、糸球体腎炎スコア、血中抗dsDNA抗体値と脾臓の形質細胞数は、有意な低下を示した。
結論
医師主導治験である「難治性全身性エリテマトーデスに対するボルテゾミブの有効性・安全性探索試験:第II相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験」を完遂することができた。治験結果としては、臨床的にボルテゾミブ療法の有効性を示唆する所見が得られたが、多くの有害事象が認められた。主要評価項目では優位性が見いだせなかったが、探索試験で症例数が少なかったことも影響していると思われる。次の治験ステップについては症例数、プロトコールなどを慎重に検討したうえで考慮する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201409015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
難治性SLEに対するボルテゾミブ療法の確立を目指した医師主導治験(難治性SLEに対するボルテゾミブの有効性・安全性探索試験:第II相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験)を実施することができた。また、付随研究であるSLEモデルマウスを用いたボルテゾミブの薬効試験においてもボルテゾミブの有効性を確認することができた。このデータは、今後の治験プロトコールの設定の基礎となるデータである。
臨床的観点からの成果
SLEは皮膚、中枢神経、腎臓など多臓器障害を伴う代表的自己免疫疾患で、発症ピークが20-30歳代であることから長期のステロイド剤による治療を余儀なくされ、感染症・動脈硬化・骨粗鬆症等合併症によりその長期的予後は不良である。現時点では治療の選択肢が乏しく新規治療法の開発が強く望まれている。本治験によりボルテゾミブが難治性SLEに対する有効性・安全性が確認できれば、臨床的に患者にとって大きな福音となる。
ガイドライン等の開発
該当無し。
その他行政的観点からの成果
本治験は東北大学病院、長崎大学病院、産業医科大学病院の3施設による多施設共同医師主導治験である。医師主導治験は企業治験と異なり、手順書の作成、CRCの配置等高いレベルの治験が自ら行える体制が必要であり、医師主導治験を多施設で行うことは日本の臨床試験・治験の基盤整備・底上げに大きく寄与すると考えられる。また、本研究は医師主導治験を推進するというまさに国の施策に沿った研究であるといえる。
その他のインパクト
該当無し。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
中枢神経ループス(NPSLE)診断用バイオマーカー
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2013-055543
発明者名: 一瀬邦弘、大山要、川上純、黒田直敬、中嶋秀樹、岸川直哉、馬場雅子
出願年月日: 20130318

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishii T, Tanaka Y, Kawakami A, et al.
Multicenter double-blind randomized controlled trial to evaluate the effectiveness and safety of bortezomib as a treatment for refractory systemic lupus erythematosus.
Mod Rheumatol. , 15 , 1-7  (2018)
doi: 10.1080/14397595.2018.1432331.

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2019-05-29

収支報告書

文献番号
201409015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
55,575,000円
(2)補助金確定額
55,575,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,995,960円
人件費・謝金 867,000円
旅費 50,000円
その他 33,837,040円
間接経費 12,825,000円
合計 55,575,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
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