ヒト生体由来多能性幹細胞(Muse細胞)の再生医療への応用に向けた安全性・有効性の検証

文献情報

文献番号
201409002A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト生体由来多能性幹細胞(Muse細胞)の再生医療への応用に向けた安全性・有効性の検証
課題番号
H24-臨研推-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
出沢 真理(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅田 隆太(名古屋医療センター 臨床研究センター)
  • 清水 忍(名古屋大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究支援センター)
  • 吉田 正順(株式会社Clio)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
28,420,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 Muse細胞は多能性幹細胞としての特性を備えているが腫瘍性が無いところが最大の利点である。誘導せずにそのまま生体内に投与すると損傷部位に生着し、機能的細胞に分化して様々な組織再生をもたらす。幾つかの利用方法が想定できるが、迅速に臨床試験を実現する為には誘導しないそのままのMuse細胞懸濁液を疾患部位に投与する「医薬品」として開発が最も現実的であると考えられる。Muse細胞は既にヒトに移植されている骨髄や間葉系細胞に含まれているとはいえ、精製した細胞を投与する際の安全性・有効性評価は必須である。ターゲット臓器として肝臓を選択する。血中アルブミンやビリルビンなどの機能改善や有効性を計る為の客観的指標があり、有効性・安全性を計る為のパラメーター設定が明確である為である。本研究では、1.有効性検証の指標設定、2.非臨床有効性試験(急性と慢性の肝疾患モデルを用いた有効性検証、用量探索、投与速度の最適化)、3.細胞調製の最適化、4.Muse細胞製剤の規格の設定、5.非臨床安全性評価を実施する。
研究方法
1.SCIDマウスに四塩化炭素0.5mg/kgを3~4日毎に8週まで腹腔内投与し慢性モデルを作成する。ヒト骨髄間葉系幹細胞由来のMuse細胞と非Muse細胞をSSEA-3を指標に分収し尾静脈から投与する群と、更に同量のリン酸バッファー(PBS)の投与群の3群を作成し、移植細胞数を2万と5万に絞り、単発投与と複数回投与における有効性の比較検討を行う。8週をエンドポイントとし形態学的・機能的評価を行う。
2.Muse細胞率を上昇させる条件を検討し更には組織修復における機能性を解析する。
3.H26年には治験デザイン、Muse細胞製剤の品質等について対面助言面談を目指す。
結果と考察
1.1mm2肝臓組織中の全細胞における比率がMuse群では~5%であり、非Muse群は~0.2%であった。両者の間に統計的有意差があり(p<0.001)、Muse群は非Muse群よりも~21倍高い生着効率が認められた。血中総ビリルビンは統計的有意差をもってMuse群がvehicle、非Muse群よりも改善していた。血中アルブミンも同様の傾向を示した。Muse群では統計的有意差をもって顕著に線維化が減少することが確認された。Muse群における線維化面積は1%以下でありvehicle群(~3%)や非Muse群 (~1.8%)よりも遙かに低い値を示し統計的有意差(p<0.001)が確認された。Muse群はvehicle群に比べ~75%もの線維化抑制をもたらしていた。組織学的解析により肝臓に生着したMuse細胞は肝細胞に分化していることが示唆された。Muse細胞のうちHepPar-1は~70%、human albuminは~54%、human anti-trypsinは~47%が陽性を示した。FISH解析によって生着したMuse細胞のうちホストのマウス肝細胞とfusionしていることが示唆されたのは数%であった。このことから大半の生着したMuse細胞はfusionすることなしに肝細胞に分化していることが示唆された。RT-PCRにおいてMuse群の肝臓ではヒトアルブミン、ヒトCYP1A2、ヒトGlu-6-Paseがヒトbeta-actinと同様に検出された。一方非Muse群ではこれら4つのシグナルはいずれも検出されなかった。このことからRT-PCRレベルにおいてもヒトのシグナルが非Muse群で検出されないことから、細胞は8週の段階でほとんど肝臓内に残っていないことが裏付けられる。
2.振盪などのストレス条件を与えることで一定の比率を超えるMuse比率を有する細胞群を得る事が分かった。
3.2014年12月に対面助言第一回目をPMDAで実施した。
4.Muse細胞の最大の特徴は、ES、iPS細胞では必須とされる移植前の分化誘導を必要とせず、上述のソースから分収しそのまま血中に投与するだけで有効な再生治療効果をもたらすことができることである。これはMuse細胞に備わる特異な性質、傷害部位への遊走と傷害組織から出されるシグナルに応じて自発的に組織にマッチする細胞への分化能力が備わっている為である。この為にコストと時間がかかり、ハードルが高いとされてきた再生医療を大きく変えることができると期待されている。
結論
 慢性肝障害モデルを用いて、血管から投与されたMuse細胞が傷害組織に遊走、生着し、更に機能的な肝細胞に自発的に分化すること統計的有意差を持った機能回復がもたらされることが示唆された。Muse細胞は現在世界中で患者へ投与されている間葉系幹細胞の数パーセントに相当するが、この細胞を有効に活用することで、安全で再生効果の高い治療が低コスト、短時間で提供できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201409002B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト生体由来多能性幹細胞(Muse細胞)の再生医療への応用に向けた安全性・有効性の検証
課題番号
H24-臨研推-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
出沢 真理(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅田 隆太(名古屋医療センター 臨床研究センター)
  • 清水 忍(名古屋大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究支援センター)
  • 藤澤 浩一(山口大学医学部 修復医学教育研究センター)
  • 吉田 正順(株式会社Clio)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 Muse細胞は多能性幹細胞としての特性を備えているが腫瘍性が無いところが最大の利点である。誘導せずにそのまま生体内に投与すると損傷部位に生着し、機能的細胞に分化して様々な組織再生をもたらす。幾つかの利用方法が想定できるが、迅速に臨床試験を実現する為には誘導しないそのままのMuse細胞懸濁液を疾患部位に投与する「医薬品」として開発が最も現実的であると考えられる。Muse細胞は既ににヒトに移植されている骨髄や間葉系細胞に含まれているとはいえ精製した細胞を投与する際の安全性・有効性評価は必須である。ターゲット臓器として肝臓を選択する。血中アルブミンやビリルビンなどの機能改善や有効性を計る為の客観的指標があり、有効性・安全性を計る為のパラメーター設定が明確である為である。本研究では、1.有効性検証の指標設定、2.非臨床有効性試験(急性と慢性の肝疾患モデルを用いた有効性検証、用量探索、投与速度の最適化)、3.細胞調製の最適化、4.Muse細胞製剤の規格の設定、5.非臨床安全性評価を実施する。
研究方法
 四塩化炭素の腹腔内投与によって急性・慢性肝障害モデルを作成し、ヒトMuse細胞の投与速度の最適化、および慢性肝障害モデルでのヒトMuse細胞の有効性評価、用量探索試験、投与速度の最適化を検証する。細胞調製の最適化、Muse細胞製剤の規格の設定、核型分析試験、単回静脈内投与毒性試験及び体内分布試験を行い、PMDAでの対面助言面談を目指す。
結果と考察
1.投与速度の最適化をヌードマウスとヒト線維芽細胞を用いて行った。呼吸不全・肺塞栓などの有害事象を検討したところ9匹のヌードマウス全てにおいて、2万細胞を30秒、5分、20分かけて尾静脈から投与してもいずれもmorbidityとmortalityはみられなかった。
2.1mm2肝臓組織中の全細胞における比率がMuse群では~5%であり非Muse群は~0.2%であった。両者の間に統計的有意差があり(p<0.001)、Muse群は非Muse群よりも~21倍高い生着効率が認められた。血中総ビリルビン、血中アルブミンは統計的有意差をもってMuse群がvehicle、非Muse群よりも改善していた。Muse群では統計的有意差をもって顕著に線維化が減少することが確認された。Muse群における線維化面積は1%以下であり、vehicle群に比べ~75%もの線維化抑制をもたらしていた。組織学的解析により肝臓に生着したMuse細胞はHepPar-1、human albumin、human anti-trypsinを発現していた。FISH解析により生着したMuse細胞のうちホストのマウス肝細胞とfusionしていることが示唆されたのは数%であった。このことから大半の生着したMuse細胞はfusionすることなしに肝細胞に分化していることが示唆された。RT-PCRにおいてMuse群の肝臓ではヒトアルブミン、ヒトCYP1A2、ヒトGlu-6-Paseがヒトbeta-actinと同様に検出された。
3.振盪などのストレス条件を与えることで一定比率を超えるMuse比率を有する細胞群を得る事が分かった。
4.核型分析試験では、観察した100核板のうちに構造異常が観察されたものは無かった。
5.Muse細胞の単回静脈内投与毒性試験及び体内分布試験の結果、いずれの動物においても死亡は認められず、一般状態の変化においてヒトMuse細胞投与に関連した変化は認められなかった。体内分布に関しては、投与後4週の検査では、1例の大動脈で総DNA量あたりのヒトDNA量が0.09237pg/ngであったが、その他投与後2週、4週、8週時の試料ではヒトDNAは検出されなかった。
6.2014年12月に対面助言第一回目をPMDAで実施した。
7. Muse細胞の最大の特徴は、ES、iPS細胞では必須とされる移植前の分化誘導を必要とせず、上述のソースから分収しそのまま血中に投与するだけで有効な再生治療効果をもたらすことができることである。これはMuse細胞に備わる特異な性質、傷害部位への遊走と傷害組織から出されるシグナルに応じて自発的に組織にマッチする細胞への分化能力が備わっている為である。この為にコストと時間がかかり、ハードルが高いとされてきた再生医療を大きく変えることができると期待されている。
結論
 慢性肝障害モデルを用いて、血管から投与されたMuse細胞が傷害組織に遊走、生着し、更に機能的な肝細胞に自発的に分化すること統計的有意差を持った機能回復がもたらされることが示唆された。Muse細胞は現在世界中で患者へ投与されている間葉系幹細胞の数パーセントに相当するが、この細胞を有効に活用することで、安全で再生効果の高い治療が低コスト、短時間で提供できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201409002C

収支報告書

文献番号
201409002Z