気管・喉頭再生治療法の実用化推進研究

文献情報

文献番号
201408013A
報告書区分
総括
研究課題名
気管・喉頭再生治療法の実用化推進研究
課題番号
H24-被災地域-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大森 孝一(福島県立医科大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 達雄(京都大学 再生医科学研究所)
  • 川上 浩司(京都大学 大学院医学研究科薬剤疫学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
31,587,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気管や喉頭は呼吸、発声、嚥下という生命維持に重要な機能を担っている。悪性腫瘍や狭窄症などの炎症性疾患で気管や喉頭を切除されると重大な機能障害を来し、生活の質(Quality of Life: QOL)が著しく低下する。
われわれは既に、ポリプロピレンメッシュとブタコラーゲンスポンジを用いた気管・喉頭の再生治療法を開発した(Nakamura: Int J Artif Organs 2000, Omori: Ann Otol Rhinol Laryngol 2004)。動物実験で最長 5年間の観察で安全性、有効性を検証し、施設内倫理委員会の承認のもと成人10例の気管・喉頭再建に使用し良好な結果を得ている。本研究の目的は、気管・喉頭病変に対して、QOLの低下を来さない質の高い治療法を確立し、実用化につなげることにある。
研究方法
医薬品・医療機器の実用化のためには臨床試験(治験)は必ずクリアしなければならない。治験申請で必要な生物学的安全性試験については、平成24年3月1日に通知された「医療機器の製造販売承認申請等について必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(薬食機発 0301第20号)が定められている。人工気管の性質を考慮し、試験を選択、実施する。各種試験では京都大学再生医学研究所内に設置された医療機器クリーンルーム内で作製した試験検体を使用する。
また、医療機器としての薬事申請を行うには、アカデミアでは困難であり、ベンチャー企業立ち上げか製造販売業許可を有する企業への技術移転が必要である。平成25年度まで技術の導出先で有り、協力してくれる企業との折衝を行い、協力企業が決定したことから、平成26年度は、治験に向けた体制の準備を進める。その一環としてGMP/QMS準拠した製造や管理に関する文書作成が必要と考えられ、各種文書の作成を行う。
臨床試験を実施するに当たり必要な項目は多岐にわたり、それに応じた書類も多数必要になる。治験計画の確定に向けてPMDAとの対面助言を実施し治験実施計画書を作成する。医療機器の開発についての薬事制度の調査に引き続き国内の臨床研究の実施環境についても調査検討を行う。
結果と考察
医療機器はその種類・性質毎に生体との接触部位や接触期間が異なる。「医療機器の製造販売承認申請等について必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」に準じると医療機器の接触部位による分類では非接触機器、表面接触機器、体内と体外とを連結する機器、体内植込み機器に分類され、接触期間による分類では一時的接触、短・中期的接触、長期的接触に分類される。平成25年度から安全性試験を継続し、PMDAとの対面助言にて充足度を確認しつつ、人工気管の性質から、細胞毒性、感作性、刺激性/皮内反応、急性全身毒性、遺伝毒性試験が実施された。試験検体は京都大学再生医学研究所内に設置された医療機器クリーンルーム内で作製された。
薬事の申請、承認については医療機器の製造販売業許可が必要であるので、企業の協力かベンチャー企業の創設が必要になる。今後の薬事申請などを見据え、企業への技術導出を円滑に行うためにも、製造や管理に関してGMP/QMS準拠にて製品標準書や品質マニュアルをはじめ各種文書の作成を行った。
医薬品・医療機器の製造販売のためにはまず臨床試験(治験)は必ずクリアしなければならない。臨床試験を実施するに当たり必要な項目は多岐にわたり、それに応じた書類も多数必要になる。必要な書類としては、臨床試験概要、説明書、同意書などが挙げられる。本年度PMDAとの対面助言にて治験実施にあたり症例数や観察期間、観察項目等について助言を受けた。それらを基に治験実施計画書を作成した。
さらに医療機器の開発についての薬事制度の調査、国内の臨床研究の実施環境についての調査に引き続き、実際に医療機器を用いた臨床研究を実施するための実施計画書に必要な項目についての検討を行った。
結論
研究対象である人工気管を医療機器として実用化するには薬事法に基づく承認が必要となり、その申請のためには治験が必要である。治験実施準備として、平成26年度は多くの生物学的安全性試験を行い安全であることを確認した。人工気管作製に関連した製品標準書や品質マニュアルなどの各種文書を作成し、ただちに生産体制に入る準備を整えた。また、対象症例の選択、評価項目などについて検討し治験実施計画書を作成した。治験実施にはさらに安全性を確認するために一部の試験や治験実施体制の確立など行うべき事柄が存在するが、着実に試験や体制を確立し安全第一を念頭に治験実施に向けた取り組みが行われ、治験実施に近づいたと考える。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201408013B
報告書区分
総合
研究課題名
気管・喉頭再生治療法の実用化推進研究
課題番号
H24-被災地域-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大森 孝一(福島県立医科大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 達雄(京都大学 再生医科学研究所)
  • 川上 浩司(京都大学 大学院医学研究科薬剤疫学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気管や喉頭は呼吸、発声、嚥下という生命維持に重要な機能を担っている。悪性腫瘍や狭窄症などの炎症性疾患で気管や喉頭を切除されると重大な機能障害を来し、生活の質(Quality of Life: QOL)が著しく低下する。
われわれは既に、ポリプロピレンメッシュとブタコラーゲンスポンジを用いた気管・喉頭の再生治療法を開発した(Nakamura: Int J Artif Organs 2000, Omori: Ann Otol Rhinol Laryngol 2004)。動物実験で最長 5年間の観察で安全性、有効性を検証し、施設内倫理委員会の承認のもと成人10例の気管・喉頭再建に使用し良好な結果を得ている。本研究の目的は、気管・喉頭病変に対して、QOLの低下を来さない質の高い治療法を確立し、実用化につなげることにある。
研究方法
本研究ではこの人工気管の実用化を推進し、医療機器として認可を受けることで一般の施設で治療が選択されることを目標としている。人工気管のような高リスク医療機器においては臨床試験(治験)実施が必要であることから、治験実施に必要な項目について検討し実施する。安全性を確認するための非臨床試験、製造や管理方法など生産体制の樹立、医療機器の治験実施の国内における状況の調査、治験実施計画などの準備に取りかかる。
結果と考察
製造や管理方法など生産体制の樹立については、常に画一された医療機器が生産できるよう医療機器クリーンルームの設計設置を行った後、サニテーション、バリデーションを施行し清浄度を担保した。設置した生産ラインを稼働させて、生物学的安全性試験で使用する試験検体の作製を行った。また、GMP/QMS準拠すべく人工気管の医療機器としての性質を考慮しながら、医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理および品質管理の基準に関する省令第2章医療機器等の製造管理および品質管理の係わる基本的要求事項に基づき、品質マニュアル、製品標準書(人工気管)、製造管理基準書、衛生管理基準書、品質管理基準書など各種文書を作成した。
非臨床試験では、医療機器の安全性を確認するために平成24年3月1日に通知された「医療機器の製造販売承認申請等について必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(薬食機発 0301第20号)が定められている。PMDAとの対面助言により人工気管の性質から必要と考えられる細胞毒性、感作性、刺激性/皮内反応、急性全身毒性、遺伝毒性試験を実施し安全性を確認した。先に述べた医療機器クリーンルーム内で試験用検体を作製し試験を実施した。
医療機器の臨床試験制度については、医療機器は、新規性の程度による製造販売の承認申請区分によって、「新医療機器」、「改良医療機器」、または「後発医療機器」に分類される。この中で、「新医療機器」は臨床試験の試験成績を添付して有効性と安全性を示すことが求められる。これまで、未承認医療機器の臨床研究への提供が薬事法違反になるかどうかの基準が明確ではなかったため、医療機器産業界は未承認医療機器の提供に関しては慎重であった。一方、厚生労働省は2010年以降様々な通知を発出し、未承認医療機器の提供等に係る薬事法適用の基本的な考え方を示した。日本においてこれらの通知により、未承認医療機器を用いた臨床研究の実施要件が明確になりつつある。
治験実施についてであるが、医薬品・医療機器の製造販売のためには臨床試験(治験)は必ずクリアしなければならない。PMDAの対面助言を実施し治験計画書を作成したが、治験を実施するに当たり必要な項目は多岐にわたり、それに応じた書類も多数必要になる。書類作成から実際に治験を行う上で、医師主導治験であっても、実際に医師だけが他施設を管理し書類を作成することは困難であるので他職種との連携や実施体制の構築が必要である。
結論
本研究の目的は人工気管の医療機器としての実用化を推進することにある。人工気管は薬事法に基づく承認が必要となり、その申請のためには治験が必要となる。本研究においては、PMDAの対面助言を受けて、生物学的安全性試験を行い、人工気管の性質を考慮し選択された試験の多くで毒性を有さないなど安全性が確認された。
人工気管作製に関連した製品標準書や品質マニュアルなどの各種文書を作成し、ただちに生産体制に入る準備を整えた。また、対象症例の選択、評価項目などについて検討し治験実施計画書を作成した。
治験実施にはさらに安全性を確認するための一部の試験や治験実施体制の確立など行うべき事柄が存在するが、着実に試験や体制を確立し安全第一を念頭に治験実施に向けた取り組みが行われておおむね準備が整い、治験実施に近づいたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201408013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究代表者らは人工気管を開発し動物実験で安全性、有効性を検証し、成人の気管・喉頭再建に使用し良好な成績を上げた。本研究ではこれを実用化するためにGMP/QMS準拠にて製品標準書など文書を作成した。PMDAとの事前面談、対面助言を受け、医療機器製造クリーンルーム内で作製した試験検体を用い生物学的安全性試験を行い、治験計画書案を作成した。その後、日本医療研究開発機構(AMED)平成27年度医工連携事業化推進事業「世界初の人工気管の製品化事業」に採択され、非臨床試験および臨床治験を行った。
臨床的観点からの成果
気管や喉頭は呼吸、発声、嚥下という生命維持に重要な機能を担っている。甲状腺癌進行例などの悪性腫瘍や狭窄症などの炎症性疾患で気管や喉頭を切除されると重大な機能障害を来し、QOLが著しく低下する。医療機器として安全性、有効性が確認され薬事承認されれば、これらの患者に人工気管を使用することによりQOLの改善が見込まれる。本研究の取り組みにより人工気管を使用した治験実施体制が整い、平成29年度に人工気管の有効性および安全性を確認するため多施設共同医師主導治験を行った。
ガイドライン等の開発
国立医薬品食品衛生研究所を事務局とした、平成26年度次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業に参画した。再生医療審査ワーキンググループ(WG)平成26年度第1回会議(平成26年9月19日)、第3回会議(平成26年12月5日)、第4回会議(平成27年1月29日)に参加し気管・喉頭再生の臨床についてWG内で講演した。WGでの議論及び評価指標の詳細な検討、修正を通して次世代医療機器評価指標の作成に貢献した。
その他行政的観点からの成果
わが国の甲状腺癌の年間推定罹患数は約8,000例で死亡数は約1,500例である。福島県では原子力発電所の過酷事故により放射性ヨウ素などが飛散した。チェルノブイリ周辺では百万人に一人という稀な小児甲状腺癌が激増し、25年間で6,000例近く発症し手術を受けた。福島県では甲状腺癌の増加が懸念されており、進行例の治療法を準備しておく必要がある。甲状腺癌進行例に対する人工気管による治療方法を準備することで、放射線被曝に対する住民の不安解消に繋がる事が期待される。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
31件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
平成26年度次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業 再生医療審査WG報告書
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
大森孝一, 多田靖宏, 野本幸男, 他
生体内組織再生誘導型の人工気管
Surgery Frontier , 21 (1) , 31-35  (2014)
原著論文2
仲江川雄太,大森孝一,多田靖宏
医療機器としての人工気管:実用化への課題
日本気管食道科学会会報 , 66 (2) , 68-70  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-06-28

収支報告書

文献番号
201408013Z