幼児のライフスタイルに対応し「食事」を指標とする食教育の枠組みに関する研究

文献情報

文献番号
199800336A
報告書区分
総括
研究課題名
幼児のライフスタイルに対応し「食事」を指標とする食教育の枠組みに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
足立 己幸(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 杉原茂孝(東京女子医科大学付属病院)
  • 坂本元子(和洋女子大学)
  • 鈴木久乃(女子栄養大学)
  • 本田真美(就実短期大学)
  • 酒井治子(山梨県立女子短期大学)
  • 足立己幸(女子栄養大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
100,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
幼児のライフスタイルに対応し、心身の健康づくりや健全な食習慣の形成に貢献できる「食教育の枠組み」を、日常の食事状況並びに発育・発達の実態をふまえて構築し、その必要性と有効性を明らかにする。本年度は次の2面より検討する。A研究:1日の食事を単位とし,栄養素等選択の指標となる「給与エネルギー・栄養素の質と量」並びに食品(食材)選択の指標となる「食品構成」について、幼児にとっての適正値の検討。B研究:1食の食事を単位とし、料理選択の指標となる「食事の料理構成と主要料理のポーションサイズ」の検討。A研究は昨年度に現地調査を終了しているので、本年度で研究目的をほぼ完成する。B研究は主要料理約100種類を選定し、次年度からのポーションサイズの検討資料を得る。
研究方法
A研究:1998年11月に実施した食物摂取状況調査(全国8ブロック、20保育所の通所児799名(1~6歳)の通所日と自宅日の各1日の計2日間に喫食した食物の秤量調査)対象のうち、調査日に保育所を欠席した18名,身長・体重の未記入および肥満度±15以上の56名を除外した725名について解析した。B研究: 1999年11月に 1)3歳前後の幼児3名についての連続した約4週間の食事別、料理別食事秤量調査 2)首都圏と山梨県の保育所通所児406名(3~6歳)について、通所日1日の食事別,料理別食事秤量調査並びに養育者の食事量に関する質問紙調査 3)保育所の通所児305名と幼稚園児150名について、食事別、料理別食事秤量調査並びに食器使用調査 4)食器販売状況等食環境調査、等。
結果と考察
(1)1歳から6歳児の平均エネルギー摂取量は、通所日が1320±312kcal, 自宅日が1256±434kcal,たんぱく質摂取量が同じく49.5±12.9gと42.4±19.0gであり、通所日が自宅日を上回っていた。他の栄養素においても同様の傾向であり、かつ1歳、2~3歳、4~5歳のグループにおいて、各特徴が見られた。(2)第5次改定日本人の栄養所要量を参考にして、新たに幼児の年齢別、性別、身長別の標準体重にそったエネルギー及びたんぱく質所要量を算出した。これは本対象児の栄養素等摂取状態と大きく矛盾しないことが確かめられた。例えば、3~6歳の男子、身長95~100㎝の場合はエネルギー所要量1420kcal,たんぱく質45g、(調査結果では、1280kcal,45g)と推奨された。(3)前項について、上記(1)の実態を踏まえて、幼児1日の食品構成案を作成した。この時、たんぱく質エネルギー比は12~14%、動物たんぱく質比は46~54%、穀物エネルギー比は40~45%とそれぞれ適正比率に近づけるように配慮した。例えば、3~6歳の男子、身長95~100cmの場合、穀類320、いも類40、砂糖類10、菓子類30、油脂類18、豆・豆製品30、果実類100、緑黄色野菜60、その他の野菜120、海草類3、嗜好飲料100、魚介類30、獣鳥肉類30、卵類30、乳・乳製品250、調味料17、総合計1188g( PE比12.7、FE比28.6、CE比57.6、穀類E比40.0、AP比50.9)を推奨した。(4)保育所給食の1ヶ月間の献立記録により把握した実給与量をふまえて、保育所給食の1日の食品構成案(主食を含む昼食、間食について乳児は午前・午後、幼児は午後のみ)を作成した。(5)保育所通所児406名の家庭で食べた朝・夕食計806食に出現した料理は延べ、3451料理、295種類であった。「主食・主菜・副菜とその組み合わせを基礎とする料理の枠組み」を用いて、全料理を位置づけし、児の発育・発達の視点から重要と考えられ、かつ、日常性の高い(出現頻度が7回以上)料理等を108種類抽出した。これらの1ポーションについ
て総重量、食材の構成、エネルギー・栄養素構成等とそれらの分布状態を明らかにした。(6)3~6歳児350名が朝・夕食延べ700食で使用した食器は3028件、その43.3%は盛り皿であり、めし椀、汁椀、カレーやシチュー皿等は各10%台であった。1ポーションサイズは食器の種類、サイズ(径や高さ)、料理の盛り付けタイプ、料理の形態と密接な関連がみられた。(7)約4週間の期間で測定すると、幼児の1日の総摂食量や料理別摂食量は日変動が大きいものの、各児の特徴が把握できた。しかし、生活活動量との関係は必ずしも明らかではなかった。次年度にむけて1ポーションサイズとその成立要因の検討のための基礎データーが得られた。(8)近年、幼児の健康、食生活、生活習慣等の乱れや問題点が多々指摘されている中、これらの解決に有効な、実践可能な栄養・食教育について家庭の養育者や保育所・幼稚園の保育関係者等のニーズは高いが、実践へのセルフエフェカシーは低い。そこで本研究では幼児の食生活の実態を適切に把握し、査定することが重要であると考えた。A研究では、幼児の食事内容について食品(食材)、栄養素等摂取について、全国レベルのデーターを収集し、B調査では食事・料理・食材・栄養素等摂取、食器の使用、摂食行動、食事への態度、食事環境、ライフスタイル、養育者の食事観等とこれらの関連について、データーベース化をすすめてきた。調査はいずれもきわめて難航した。養育者等の食事への関心が著しく低く、自分の子どもの食事状況を把握していない、食物の種類を知らない、計量ができない等、予想を超えて食への関心が低いことに起因していた。適切なアセスメントなしに幼児へのきめ細かな対応や、食教育からの支援やシステムづくりは不可能である。本研究成果はアセスメントや調査法の簡便化への提案になる。たとえば身長をポイントにする健康チェックは、外見から、むずかしい計器を使用しないでも可能な方法であるといえよう。
結論
幼児のライフスタイルに対応し,心身の健康づくりや健全な食習慣の形成に貢献できる新しい「食教育の枠組み」を日常の食事状況や発育・発達の実態を踏まえて構築する目的で、次のAB両面から研究をすすめた。A研究(主として1日を単位とする栄養素、食品レベルからのアプローチ)は平成9年度に実施した全国8ブロックの保育所通所児725名の食事調査結果を分析し、幼児の栄養素等摂取状況と食品群別摂取量の通所日、自宅日別の実態を明らかにした。これらに基づき年齢別、性別、身長別に1日のエネルギー、たんぱく質所要量案と、それを実現する1日の食品構成案、並びに保育所給食の食品構成案を作成した。B研究(主として、1食を単位とする料理・食事レベルからのアプローチ)は3名の幼児について各4週間の食事の秤量調査、並びに保育所通所児406名と幼稚園児150名(3~6歳)について食事の秤量調査,食器使用状況、及び食器の販売を中心とする食環境調査等を実施し、食事別、料理別摂食量(1ポーション)を分析した。「主食・主菜・副菜とその組み合わせを基礎とする料理の枠組」による各料理の位置付けの上、出現頻度の高い料理を幼児にとって家庭での「身近な料理」108 料理を選定し次年度のポーションサイズ検討の基礎データーを得た。

公開日・更新日

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