小児期からの総合的な健康づくりに関する研究

文献情報

文献番号
199800335A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期からの総合的な健康づくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
村田 光範(東京女子医科大学附属第二病院)
研究分担者(所属機関)
  • 福渡靖(順天堂大学医学部)
  • 鏡森定信(富山医科薬科大学)
  • 清野佳紀(岡山大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「小児期からの総合的な健康づくり」を基本的な目的としている。コホート研究については肥満、高脂血症、高血圧などの危険因子について成人に至る疫学的な研究を目的にしているが、残された研究年度内に高血圧、高脂血症についての小児期のガイドラインを作成する。これらのコホート調査の基本項目と危険因子の関係を検討するために資料を保存し、それらを関連づけるコンピュータソフトを開発することにより、行政的調査の標準化を行いたい。富山県下で平成元年生まれの95.1%に当たる9674人の追跡調査を行っており、これらの追跡調査により生活習慣の形成過程を明らかにし、これと成長発育期の健康との関係を分析し、行政面でも活用できる幼児期からの望ましい生活習慣形成についての資料を提供する。
現在の子どもの運動不足はきわめて深刻である。子どもの身体活動の量的、質的評価法を確立するとともに、日常の生活状況の中で、幼児の運動量の増減に関係する因子を分析する。「鬼ごっこ」や「サッカー練習」などを遊びとして普及させ、幼児や学童がいかにして自発的に運動の量と質を増加させるかを研究し、保育所、幼稚園のみならず、家庭も含めて子どもの体力向上に役立つ運動の実践を図る。
従来行ってきた小児期の骨発育の研究により小児期の適正なカルシウム摂取量、運動負荷量を提示してきた。さらに未熟児、低体重出生児、重症心身障害児などの長期臥床児、やせた子、肥満児などを対象にして骨密度を効果的に増加させる方法を検討する。
研究方法
福渡 靖分担研究者:平成4年に設定した全国9地区、総計約8,000名についてのコホート調査を引き続き行い、身長、体重、生活習慣、食生活習慣等を調査した。平成10年度は、これまでに得られた調査結果を解析して、トラッキング、生活習慣と身体状況の関係をみた。肥満判定基準としての学齢期のBMIについて検討した。また、このコホート調査を介して、最終研究年度までに肥満、高脂血症、高血圧などの危険因子対策、ならびに健康的な生活習慣に対する効果的なガイドラインを作成する。
鏡森定信分担研究者:富山県でのコホート調査対象者(平成元年生まれの小児9674名、全出生者10177名の95.1%)は現在小学校3年生になっている。この3年生を対象に生活習慣と健康の主要なテーマである肥満について自律神経動態を心拍スペクトル解析により検討し、また唾液中の副腎皮質ホルモン(コルチゾール)やナトリウム・カリウム比など内分泌・生化学的指標と生活習慣との関連を検討した。富山県教育委員会が作成した小学校1~3年生用と小学校4~6年生用資料を用いて心理社会的側面と健康との関連を検討するための調査を実施した。平成11年度に小学校4年生になるこの調査対象に対する第3回目の生活習慣に関するアンケート調査の内容について必要な追補を行った。
清野佳紀分担研究者:同意の得られた6歳から9歳までの健常ボランティアを対象に食事指導と同時に1日1000mg以上のカルシウム摂取を指導した群と非指導非補充群との間の骨量の差について第2-4腰椎を対象にDXA法で検討した。カルシウム摂取量と骨量の関係を検討するために岡山市内の健常人1676名(男性862名、女性814名:年齢7~19歳)を対象に脛骨前面の超音波伝播速度(speed of sound; SOS)を測定した。カルシウム摂取量については主なカルシウムの摂取源である乳製品の一週間の摂取量を質問紙により調査した。また、低出生体重児、重傷心身障害児骨折危険因子を検討した。
村田光範主任研究者:生活状況調査に基づいた幼児の運動量の増減に関係する要因の検討、幼児の日常的な運動量の評価手段として歩数計の有用性と保護者や保育者の主観的評価(自分の子どもあるいは担当の子どもが日常的によく体を動かしている、動かしていない等)の妥当性を検討した。幼児が自ら好んで体を動かすようにする方策として「ボール遊び」や「遊び-鬼ごっこ」について、ボールの形状や「遊び」と「スポーツ」の関係が幼児の自主的な身体活動に与える影響を検討した。
結果と考察
6歳から15歳にかけて肥満、脂質異常、動脈硬化指数、左房/大動脈径、左室拡張末期径、左室心筋容積係数などのトラッキング現象が明らかとなった。早食い、運動ぎらい、運動をあまりしない、起床時間が遅い、食品摂取バランスが悪い、野菜摂取量が少ない、朝・夕食の状況などが肥満、軽体重などとの関係していることが明らかとなった。小児肥満判定方法については、BMIよりも肥満度によることが望ましいことが示された。このことは平成10年度から母子健康手帳に採用された幼児の身長体重曲線が有用性であることを示唆するものである。
富山のコホート(現在小学校3年生)調査で、肥満児の心臓自律神経活動は対照に比較して副交感神経活動の低下と交感神経活動の相対的亢進がみられた。起床時刻が早い児童では起床時刻の遅い児童に比べて、唾液中のコルチゾール濃度およびNa/K比がピークを示す時刻が早くなっていた。これらは朝起きの生活習慣調査の指標になりうる。小学校低学年の肥満には母親の常勤という今日的な社会的要因が関連していた。児童の生活習慣には心理社会的要因も強く関連していた。このため、第3回目の調査(対象;小学校4年生)は心理社会的要因を加えて行うこととした。
1日1000mg以上のカルシウム摂取を指導した群の腰椎骨密度と腰椎骨密度の年間増加率は対照群に比し2年目終了時には統計的に有意に高値を示した。踵骨の超音波測定はDXA法で求めた腰椎の骨塩量と良好な相関を示し、小児においても超音波による骨塩量の評価が可能である。正常群の乳製品からのカルシウム摂取量は大半の例が400mgを下回っていた。その他骨塩量に影響する因子は性ホルモンをはじめとする内分泌環境、運動をはじめとする力学的負荷が重要である。女性における月経の発来の有無は脛骨の計測値に重要な因子であり、10~12歳の集団においては、初経発来例が初経未発来例に比して有意に高値であった。重症心身障害者及び低出生体重児の多くは低骨塩量であり、栄養管理・運動療法で骨塩量増加への介入を行う必要があることを示した。
幼児の運動量を評価する方法として歩数(万歩)計が実用的である。また、保護者や保育者が子どもについて主観的に評価した日常的身体活動量には妥当性があった。日常的に運動量が多い子どもは、運動能力や心肺機能の点でも優れていた。このことから幼児期に運動習慣をつけることは生活習慣病の予防につながるといえる。早起き群、昼寝なし群、保護者の運動嗜好群に幼児の運動量が多かった点も注目すべきである。家庭に比べて幼稚園や保育所での生活時間帯で運動量が少ないことは問題であり、幼稚園や保育所におけるカリキュラムを見直す必要がある。幼児自らが積極的に運動するように仕向けるには、「遊び」、中でも「ごっこ遊び」を工夫することが重要である。
結論
現在の子どもたちは食事、運動、休養といった生活習慣にいろいろな問題を抱えている。この結果として子どもの時期から肥満、高脂血症、高血圧、運動不足などの動脈硬化促進危険因子の増加が見られ、また、カルシウム摂取と運動の不足が将来の骨粗鬆症の原因として心配されている。これらの問題を解決するために小児期からの生活習慣形成や動脈硬化促進危険因子の動態について長期にわたるコホート調査研究が必要であり、とくに子どもの日常的身体活動が減少してきている今日、幼児期から適切な運動習慣をつける方策の研究が重要である。

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