要観察児等いわゆるハイリスク児の育児支援及び療育体制の確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800334A
報告書区分
総括
研究課題名
要観察児等いわゆるハイリスク児の育児支援及び療育体制の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
前川 喜平(東京慈恵会医科大学小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 前川喜平(東京慈恵会医科大学小児科)
  • 小西行郎(福井医科大学小児科)
  • 二瓶健次(国立小児病院神経科)
  • 日暮真(東京家政大児童)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
周産期医療の進歩により、ハイリスク児の広域的システムケアが問題となっている。ハイリスク児については保健所、医療機関、市町村、福祉施設、児童相談所等多機関が関与し、包括的、広域的なケアシステムの構築を図ることが必要である。ところが、従来はハイリスク児の支援から療育までが個々に論じられてきた事が多い。そこでハイリスク児全体を統合し、包括的、広域的に保健所、市町村、医療機関、福祉などが連携した支援から療育までのトータルケアシステムを作成するとともに、保健サイドよりみたこのためのマニュアル、ガイドライン、事例集などを作成することを本研究の目的とする。
研究方法
次の4っの分担課題についておこなう。1)ハイリスク児の発達支援トータルケアのシステム化に関する研究(前川)発達支援トータルケアシステムを構築するための予備調査として初年度は以下の研究を行った。・ハイリスク児の子育てについての調査=親の不安とニーズを把握するため全国7施設で出生した0ー就学前までの極低出生体重児の親に調査をおこなった。保育園児を正常対象とした。・ハイリスク児事例の収集・保健所のハイリスク児の係わりに関するアンケート調査・ハイリスク児発達支援トータルケアシステムの地域モデルの作成。

2)発達からみた療育相談の在り方に関する研究(小西)=初年度は協力班員よりの問題点の列挙と、全国調査に向けての資料作りを行った。保健所における学童期の療育指導の在り方、軽度脳性麻痺の学童期の心理的問題などの各個研究をおこなった。
3)小児運動系疾患児の介護等に関する研究(二瓶)=無痛・無汗症における排尿・排便の実態調査、歯列成長・発育の問題と対策、骨形成不全症の整形外科的問題と治療、電動車椅子利用の障害時の実態調査、ムコ多塘症理解のためのガイドラインの作成などを行った。
4)障害児の家族を含めた保健・医療ケアに関する研究(日暮)=障害児を持つ家族、とくに父親・母親における育児不安、育児環境の現状把握を行い、障害児をめぐる育児環境整備のための施策立案に資する目的で以下の調査を行った。障害児学童保育に関する調査研究を40施設を対象にパイロットスタデイを行った、障害児ケアに関する質的分析のための方法論の検討のほかに2ー3の各個研究を行った
結果と考察
1)前川班これまでのハイリスク児、極低出生体重児への早期介入、支援研究を基礎に、支援の在り方を年齢を拡大し、家族をも視野に入れると共に、地域での実践を可能にする方策を探るために、極低出生体重児の6歳までの親にアンケート調査を行った。その結果、ハイリスク群は発育・発達への不安が高い事と、親がハイリスク児の兄弟への配慮、親類の理解が得られるような支援が望まれ、ハイリスク児と親だけでなく、その周囲の人たちをも視野に入れた支援システムの構築が必要であることが判明した。ハイリスク支援事業の中心である全国保健所にハイリスク児との係わりについての調査をおこない、2月現在57.4%の保健所より解答を得た。その結果、保健所の支援体制には非常に幅があり、個々の保健所の特性と個々の児や家庭のニーズに合ったトータルケアシステムの構築が必要であることが判った。ハイリスク児事例の収集もおこなっている。事例は支援が困難なものばかりでなく、普通の事例も収集する。2年度はさらにこれらのアンケート調査を進め、解析することと、事例を収集し、支援を行う場合の個々の問題、地域の問題を明らかにし、3年度はこれらの結果をもとにして保健婦に役立つ家族、周囲をも含めたハイリスク児発達支援のトータルケアマニュアルと事例集を作成する。その他市町村保健婦を巻き込んだ保健所の支援システムなどの各個研究をおこなった。

2)小西班=初年度は学童期の療育支援の在り方、学校・通所施設などにおける医療的ケアの在り方、養護学校などにおける医療的ケアの現状と問題点を抽出した。養護学校等における医療的ケアの現状は肢体不自由養護学校生徒の10ー20%が日常的に医療ケアを必要とし、5ー19%は学校において医療ケアが必要である。肢体不自由養護学校202校中60校で326名の障害児に対し重大な事故なしに学校において医療的ケアを実施している。障害児の早期発見・療育の今のシステムは必ずしもうまく作働していない。現状では早期診断しても療育がついてこない。それによって引き起こされる弊害がある。障害を越えた共通した前言語的療育が必要である。2年度はさらにこ2、3年度はこれらを基にして、障害児の早期発見と療育、療育法の見直し、学童期以降の障害児医療の在り方、重症障害児の医療の在り方などを検討し、障害児のライフサイクルに合わせた医療、教育、福祉の在り方をまとめ、保健婦教育のための療育マニュアルを作成する。

3)二瓶班=初年度は無痛・無汗症における排尿、排便の実態調査、歯列成長・発育の問題とその対策、骨形成不全症の整形外科的問題、ムコ多塘症理解のためのガイドラインの作成などをおこなった。難病のこども支援全国ネットワークを通して難病の理解のための小冊子やカイド、相談の有無を調査し各難病の支援のための表を作成した。患者数は少数でも難病毎に問題があり、各難病のガイドラインが必要なことが判明した。2ー3年度は無痛・無汗症、レット症候群、骨形成不全症などの小児患者と成人化した患者の実態を調査し、各種疾患の問題点を明らかにすると共に、家庭、学校、園における生活指導、教育指導などのガイドラインを作成する。またそれぞれの病気を持つ子供のベストの成人期の生活とはなにかのガイドラインを」作成する。・日暮班=障害児を持つ家族(父親、母親)に対するアンケート調査、FGD(Focus Group Discussion)を実施し、受ける側の視点からの障害児医療、療育、福祉の連携と包括化について研究をおこなう。初年度は障害児学童保育の実態調査のパイロット調査などを行った。その結果、障害児学童保育は少数であり、受入のための条件整備が必要なことが示唆された。障害児ケアの質的分析の方法としてFGDについて文献的研究をおこない、障害児ケアに対する応用可能性について討論した。2年度は障害児の家族に対し、アンケート調査とFGD調査をおこなう。3年度はこれらの結果をもとにして障害児をめぐる育児環境整備のための施策立案をおこなう。
考察では前川班の時間軸、生活軸による発達生態学的視点よりみた、リスク児の親のアンケート調査では、ハイリスク児の親のニーズと不安は比較群とは異なり、このための適切な支援システムが必要であることが判明した。またハイリスク児支援の中心となる保健所のアンケート調査では地域の保健所により内容が非常にまちまちであることが判明した。トータルケアシステムを構築する場合に、個々の親のニーズと、地域の特性をどのように結びつけて行うかが問題となるであろう。地域毎に対応したシステムを作成しても、個々のニードの組み合わせを考えると総てに当てはまるモデルを作成することは不可能と考えられる。これを補うために、たくさんのモデルとたくさんの事例がトタルケアシステムを構築していく上で役立つのではないかと思われる。我々はこの研究を行っている内に、地域におけるキイパーソンの重要性と保健婦の教育・意識改革の重要性に気付いた。ハイリスク児発達支援トータルケアシステムを地域において推進する場合に、中心となるキイパーソンの存在が絶対に必要である。石川県の未熟児総合ケア推進事業にしろ、埼玉県の保健所と市町村保健婦の連携による支援システムにしろ、久留米筑後地区の支援システムにしろ1ー2名のキイパーソンにより推進されている。今後はトータルケアシステム作りと共に、地域におけるキイパーソンの育成がより重要と考えられる。発達からみた療育相談の在り方では早期診断・療育、就学前適正就学、養護学校における医療ケア等種々の問題がある事が判った。今後、保健、医療、福祉、教育が連携そてこれらの問題を解決していく必要がある。小児運動系の介護等の研究では、難病は患者数は少ないが各難病により介護の問題点は異なっている。専門店のように一つ一つの難病の介護ガイドラインが必要である。障害児に関する保健医療ケアに関しては、ハードの面での整備はかなり充足されているが、障害児をもつ家族の不安、ニーズの調査は殆ど行われていない。FGDをもとにして障害児ケアの施策の提言をおこなう必要が」あろう。
結論
要観察等いわゆるハイリスク児の育児支援及び療育体制の確立を図るため4分担研究に分かれて研究を行った。次年度はこれらの調査、研究をさらに発展させる予定である。

公開日・更新日

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