rasがん遺伝子産物の新規立体構造情報に基づくがん分子標的治療薬の開発

文献情報

文献番号
201407006A
報告書区分
総括
研究課題名
rasがん遺伝子産物の新規立体構造情報に基づくがん分子標的治療薬の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
片岡 徹(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 島 扶美(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 閨 正博(神戸天然物化学株式会社)
  • 熊坂 崇(公益財団法人高輝度光科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
51,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
rasがん遺伝子産物Rasは、低分子量G蛋白質ファミリーの一員であり、細胞増殖・分化など数多くの細胞内シグナル伝達に関与する。我々は、Rasの新規立体構造の解析を通じて、薬剤開発のターゲットとなりうる特異的ポケット構造が存在することを独自に発見し、このポケット構造情報に基づくコンピュータ (インシリコ)・ドッキングシミュレーションと生化学・細胞生物学的検証試験を駆使した独自の大規模Ras機能阻害物質探索研究を行った結果、担がん動物において強力な腫瘍増殖抑制効果を示し、低毒性かつ経口薬適性に優れたリード化合物KMR084の同定に成功した。本研究では、背景となる研究で獲得・保有するリード化合物から医薬品開発候補獲得のための構造最適化を重点的に行う(先行開発)。また、最近決定した新規ポケット構造情報を用いた新たなインシリコスクリーニングと一連の検証試験も行い、前臨床試験に入る候補品を創出する(後行開発)。
研究方法
先行開発では、KMR084について、フラグメント法・フラグメントマージング法ならびに有機合成科学的知見を活用した構造展開を実施した。また、活性型H-Rasを有するヒト膀胱がん細胞を用いた担がんモデル動物においてKMR084の腫瘍増殖抑制作用の評価を行うとともに、がん細胞パネルを用いた薬効評価により、同化合物の適応がん腫の拡大を図った。また、KMR084の併用薬としてのポテンシャル評価を行うために、ヒト大腸がん細胞株を用いた担がんモデル動物において、既存薬であるマルチキナーゼ阻害剤sorafenibとの併用による薬効評価を行った。後行開発では、ELISA法による薬効結合評価システムを新たに構築して保有ライブラリーから新規ヒット化合物のスクリーニングを実施した。また、野生型H-Rasとビルディングブロック化合物との複合体のX線結晶構造構造解析を行った。
結果と考察
先行開発において、フラグメントリンク法、フラグメントマージング法の活用により、チオキソチアゾリジン構造を有するリード化合物KMR084の母核構造を大きく変更した誘導体の合成展開が可能になった。また、部分構造を繋ぐリンカーの長さ、部分構造の配向、リンカーとRasとの結合様式と合成展開の可能性を考慮した、誘導体の効率的なデザインが可能になった。実合成が完了した化合物数が現時点ではまだ少なく、KMR084の活性を大きく上回る誘導体の獲得には至っていないが、ELISA法によるRas/Raf結合阻害活性評価の効率化が本年度より可能になったことから、今後、実合成のスピードアップを図り、活性の高い誘導体の迅速な獲得を目指す。
KMR084についてはこれまで、適応がん腫をK-RasG12Vを有する大腸がんに絞って開発研究を行ってきたが、本年度実施した担がんモデル動物での腫瘍増殖抑制試験の結果から、H-RasG12Vを有するヒト膀胱がんにも一定の有効性を示すことが明らかになった。既存薬であるマルチキナーゼ阻害剤sorafenibとの併用による薬効について、K-RasG12Vを有するヒト大腸がん細胞株を用いた担がんモデル動物システムでは、有意な増強効果は認められなかった。
後行開発においては、ELISA法による保有ライブラリーの再スクリーニングによって、新規ヒット化合物の獲得に成功した。今回得られたヒット化合物には、Rasのカルボキシ末端が関与するRas/Raf結合認識を阻害するという、既知ヒット化合物にはない新規の作用メカニズムが確認された。一部の化合物(Kobe1268)については、細胞増殖抑制試験においてRas特異性が既に確認されており、今後、細胞内シグナルならびNMRでの結合のRas特異性の検証をクリアできれば、新規阻害メカニズムを有する化合物の構造展開が可能になると考えられた。
野生型H-Rasとビルディングブロック化合物との複合体の結晶構造解析とMDシミュレーションにより、state 1構造の安定化に寄与するSwitch領域の水素結合のネットワーク情報の一部が明らかになった。
結論
フラグメントリンク法、フラグメントマージング法、複合体の結晶構造情報、MDシミュレーションから得られる化合物の結合予測情報をフルに活用して、今後さらに効率的な誘導体のデザインを行い、ELISA法による迅速な阻害活性評価を通じて、リード化合物ならびに保有シード化合物の構造展開のスピードアップを図り、医薬品開発候補の早期創製を目指す。
保有ライブラリーのELISA法による再スクリーニングで得られた新規ヒット化合物については、作用のRas特異性の検証作業を急ぎ、構造展開を効率的に進める。HAG法を利用した薬剤結合ポケットの開閉メカニズムとstate 1構造の生理的意義に関する研究成果については、早急に論文発表する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-10-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201407006Z