心身症、神経症等の実態把握及び対策に関する研究

文献情報

文献番号
199800332A
報告書区分
総括
研究課題名
心身症、神経症等の実態把握及び対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
奥野 晃正(旭川医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 三池輝久(熊本大学医学部)
  • 渡辺久子(慶應義塾大学医学部)
  • 星加明徳(東京医科大学)
  • 小枝達也(鳥取大学教育学部)
  • 金生由紀子(東京大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
33,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、全身倦怠感、頭痛、腹痛等の不定愁訴、神経性食欲不振症、睡眠障害、チック症状等を主訴とする心身症・神経症等の小児が増加し、学校生活に適応できない者も少なからず含まれている。医療機関で心身症・神経症等の診断で治療を受けている患者は、学校で問題行動や心の健康問題を示す児童生徒の一部に過ぎず、学校においても医療機関を受診している患者のすべてを把握しているわけではないと考えられている。心身症・神経症等の全体像を把握して適切に対処するには、医療機関と学校が協力して全国的な調査をすると同時に詳細な病態解析に基づく治療体制の確立がのぞまれる。
本研究の目的は医療機関および学校を対象に全国規模の系統的調査を行い、心身症・神経症等の実態を把握し、次いでその調査結果をもとに治療および患者支援の方法を開発し小児精神保健対策として提言することである。今年度の研究課題は次の通りである。各分担研究者が把握している拠点医療機関および学校において心身症・神経症等の頻度を調査し、その結果を総合して次年度に行う本調査の規模等を統計学的手法により決定する。さらに各分担研究者はその拠点医療機関において専門領域の疾患について病態を把握する。
研究方法
1.心身症・神経症等の実態把握と対策に関する研究(主任研究者 奥野晃正 担当):a)心身症・神経症等の実態把握;主任研究者を中心に分担研究者全員の協力により予備調査を行った。調査対象の症候・疾患は、全身倦怠、微熱、悪心・嘔吐、繰り返す腹痛・下痢等の不定愁訴、不登校および保健室登校、神経性食思不振症、睡眠障害、学習障害、注意欠陥多動障害、チック症、過敏性腸症候群である。行動面では不登校および保健室登校を取り上げた。調査期間を平成10年1月1日から12月31日までとし、医療機関および小中学校を対象に後方視的調査を郵送によるアンケート方式で行った。b)不登校に至る動機;不登校の適応教室に通級している小中学生を対象に適応学級入級時の調査表を用いて検討した。2.不登校状態の実態調査と生活リズムの変調に関する研究(分担研究者 三池輝久 担当):睡眠障害と生体リズム;不登校状態の学生について深部体温とコルチゾール分泌日内リズムについて検討した。3.小児心身症に関する研究(分担研究者 星加明徳 担当):平成9年度に作成した小児心身症対応マニュアル試案はチック、夜尿、夜驚、過敏性腸症候群、不登校、摂食障害を対象としたもの、および養護教諭用1種である。これらについて医療機関を受診した小児の保護者および養護教諭に評価を依頼した。日本小児心身医学会の理事、評議員を対象に小児心身医学の卒後教育の現状を調査した。4.小児期発症の神経性食思不振症の実態と対策に関する研究(分担研究者 渡辺久子 担当):a)成長曲線を用いる異常やせのスクリーニング、b)神経性食欲不振症女子患者の成長の縦断的解析。5.学習障害における病態解明と実態調査に関する研究(分担研究者 小枝達也 担当):a)学習障害児の神経学的背景を探り治療に結びつけるため、事象関連電位のうちN400成分の測定、b)学習障害児の実態を探る目的で、未熟児集団を対象に学習障害の出現頻度と特徴の調査、c)言語障害通級指導教室を対象に学習障害(LD)の実態調査を行なった。6.トゥレット症候群の遺伝的素因に関する研究(分担研究者 金生由紀子 担当):トゥレット症候群患者を対象に、Maudsley Obsessional Compulsive Inventory (MOCI) による評価を行った。
結果と考察
1.心身症・神経症等の実態把握に関する研究:a)医療機関対象の調査:北海道および鳥取県では全域を包括する調査として、それぞれ101および85医療機関にアンケートを発送し、それぞれ33%および27%の回答率を得た。他の分担研究者による拠点病院における調査では高い回答率が得られているが、各分担研究者で多数の共通した所見が得られた。すなわち、該当患者数は医療機関によってばらつきが大きく、0名から100名を越す患者を抱える医療機関まであり、専門医のいる医療機関に患者が集中する傾向があった。各調査項目の頻度は高い順に不定愁訴、不登校、起立性低血圧、チック、神経性食欲不振症となり、他はほぼ同数であった。さらに、不定愁訴としては頭痛、腹痛、倦怠感、悪心・嘔吐の順であった。学校対象の調査:学校での調査はあらかじめ協力を要請したこともあって65~100%の回答率を得た。また、各調査地域で大差のない結果が得られた。調査項目について何らかの陽性所見を示した児童生徒の比率は小学生2.3~2.5%、中学生3.8~4.7%であった。その内訳は次の通りである。不定愁訴:小学生1.3~2.4%、中学生2.0~4.0%、不登校:小学生0.50~0.75%、中学生0.7~2.1%、睡眠障害:小学生0.04~0.32%、中学生0.18~0.52%、学習障害:小学生0.06~0.15%、中学生0.04~0.27%、注意欠陥多
動性障害:小学生0.19~0.58%、中学生0.06~0.21%、チック症:小学生0.10~0.25%、中学生0.02~0.12%。神経性食欲不振症の調査は困難であった。全体を通して、不定愁訴、不登校は小学校高学年から学年が進むにつれて増加する。医療機関の調査では回答率が低く、母数となる外来患者数の記載が不完全な例があったので心身症の頻度を推定するには至らなかったが、不登校は起立性低血圧よりも頻度が高く、医療機関への相談として重要な意味を持つと考えられた。
b)不登校に至る動機は、小学生では頭痛、腹痛といった身体症状が契機となっている例が多かったのに対し、中学生では友人関係の問題が多くなり、何となく行けない、何となく不安であるといった漠然としたきっかけも目立っていた。不登校の児童生徒は、学校での人間関係を負担と感じている例が多く、家庭に問題があると彼らの不安が助長されていることが明らかとなった。
2.不登校状態の実態調査と生活リズムの変調に関する研究:不登校状態の多くに睡眠障害が認められた。この睡眠障害には睡眠中の深部体温の低下不全が認められ最低体温の出現時間が移動しずれていた。正常ではこの深部体温最低温度出現時間とコルチゾール分泌ピーク時間が2~3時間で同期しているが不登校状態ではこの関係の破綻が生じている。
3.小児心身症に関する研究:平成9年度に作成した小児心身症対応マニュアル試案に関するアンケート調査を基に再度改訂版を作成中である。小児心身医学の卒後教育の現状は満足出来るものではなく、指導医および研修機会の不足が指摘された。改善の方策として、医育機関の研修体制を整備し、関係する学会が連携して卒後教育を行うことが望まれる。
4.小児期発症の神経性食思不振症の実態と対策に関する研究:a)中学3年女子の過去10年間の異常やせ率の検出を行い、一貫して高率に異常やせが認められることを明らかにした。b)神経性食欲不振症女子患者では思春期の目に見えた体重減少に先立ち、幼児期・学童期から既に異常やせが発現しているにかかわらず見過ごされている症例がある。
5.学習障害における病態解明と実態調査に関する研究:a)学習障害児の神経学的背景を探り治療にむすびつけるため、事象関連電位のうちN400成分について検討した。言語性意味理解障害を呈する児ではN400潜時が遅れていたことから、言語のカテゴリー異同弁別に要する情報処理過程の冗長性が示唆された。また振幅の低下が認められ、健常児と比べてカテゴリーの異同弁別に際してエネルギーを充分かけえない状態が存在することが推定された。b)小学校3年生に達した極低出生体重児出身者を対象に検討し、学習障害確実例および学習障害ハイリスク例、注意欠陥多動性障害2名の頻度が高いことを確認した。c)言語障害通級指導教室を対象に、学習障害(LD)が疑われる通級児童に関する実態調査を行い、多くの児童は十分な教育的対応を受けていないと推定した。
6.トゥレット症候群の遺伝的素因に関する研究:トゥレット症候群患者でMOCI総得点の分布は二峰性を示し、健常対照者と異なっていた。MOCI総得点、MOCIの下位尺度のうちで確認と疑惑得点、状態・特性不安検査の不安得点と不安評価がトゥレット症候群患者で有意に高かった。トゥレット症候群患者では、清潔に関する強迫症状の比重が低く、強迫症状の内容の種類に偏りがあることが確認された。
結論
心身症、神経症等の実態把握を目的に拠点を決めて病院および学校を対象に予備調査を行い、大まかな頻度を知った。また、心身症の児童生徒が不登校に至る動機、不登校状態と生体リズムの関係、小児心身症対応マニュアルの評価、神経性食欲不振症の発症時期、学習障害児の病態生理、およびトゥレット症候群の評価法について知ることができた。心身症、神経症等として何らかの問題を抱える児童生徒は小学生では2.3~2.5%、中学生では3.8~4.7%である。この結果から短期間に信頼性の高い調査成績を得るに必要な標本数は小学生10万人、中学生8万人程度と推定した。この推定値を基礎に来年度の全国調査を行う予定である。

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