疾患由来iPS細胞を利用した難治性疾患の創薬研究

文献情報

文献番号
201406036A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患由来iPS細胞を利用した難治性疾患の創薬研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-024
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 齊藤 延人(東京大学 医学部附属病院 )
  • 黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院 )
  • 小野 稔(東京大学 医学部附属病院 )
  • 山内 敏正(東京大学 医学部附属病院 )
  • 森田 啓行(東京大学 医学部附属病院 )
  • 瀧本 禎之(東京大学 医学部附属病院 )
  • 今井 浩三(東京大学 医科学研究所)
  • 大津 真(東京大学 医科学研究所)
  • 長村 登紀子(井上 登紀子)(東京大学 医科学研究所)
  • 東條 有伸(東京大学 医科学研究所)
  • 渡辺 すみ子(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
37,248,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
iPS細胞はさまざまな疾患の原因解明、特に、適切な動物モデルがなく患者数が非常に少ないために臨床研究を進めにくい希少難病疾患の病態解明や新規治療法の開発に役立つ可能性がある。そこで本研究は患者から非侵襲的に大量の罹患組織を採取することが困難な難病疾患等について、iPS細胞を経て分化細胞やがん幹細胞を大量に得られるメリットを活かして病態研究や治療開発を行うことを目的とする。
研究方法
iPS細胞化技術の最適化によって効率的に疾患由来iPS細胞を樹立する取り組みを進め、ゲノムへの外来遺伝子の組み込みがなく形質転換などのリスクが最小限に抑えられた疾患由来iPS細胞の樹立技術を確立する。さらに樹立したiPS細胞から各疾患組織細胞への分化系を確立し、各組織における幹細胞分画の性質を確認した上で病態解析・創薬研究に用いる。さらに、多能性幹細胞としての品質評価法、創薬研究に向けたフィーダーフリー培養系の整備を行う。ヒト、マウスiPS細胞に特異的なmiRNA発現パターンを把握する。また、ゲノム倫理審査の承認を受け、拠点全体で倫理面等の不備なく共同研究が推進できるよう基盤整備を行う。
結果と考察
まず、ゲノム倫理審査の承認を受け、拠点全体で倫理面等の不備なく共同研究が推進できるよう基盤整備を行った。臍帯血と臍帯の採取・調製・凍結保管・提供システムを構築し、他大学からの疾患特異的臍帯を収集するシステムを構築した。また本研究の枠組みにおける一つの研究拠点として東京大学医学部附属病院内に幹細胞創薬研究室を創設し、運営している。また、ヒト、マウスiPS細胞に特異的なmiRNA発現パターンを把握し、あるキナーゼがマウスiPS細胞の樹立効率を著しく上げることを明らかにし、マウス、ヒトいずれにおいてもキナーゼ過剰発現によりiPS細胞樹立効率が著しく上昇すること、またキナーゼ領域が必要であることを明らかにした。平成25年度には上記のような基盤整備が完了し、血液、脳神経、心臓、代謝、眼科の各領域で疾患検体を用いたiPS細胞樹立の試みを開始し、すでにt(8;9)転座型白血病および低リスク骨髄異形成症候群、脳腫瘍患者の腫瘍細胞からiPS細胞を樹立することに成功した。また、t(8;9)転座型白血病および脳腫瘍由来iPS細胞から血液細胞に分化誘導した際には疾患や腫瘍幹細胞の特性を示すこと、腫瘍原性を保持することが培養系やマウスモデルの系で示された。さらに、白血病由来iPS細胞から分化させた血球細胞はチロシンキナーゼ阻害薬により増殖が抑制されることを示し、この結果からiPS細胞は疾患の病態解析と創薬開発に有効であることが示唆された。また、循環器領域では遺伝性循環器疾患患者の遺伝子変異スクリーニングを行い、iPS細胞樹立、さらに心筋細胞への分化誘導という一連のフローを確立した。また、心筋細胞の表現系を指標とする再現性の高い評価系を確立した。同時に創薬研究に用いるプラットフォームとしてiPS細胞由来の心筋細胞シート構造を作製し、その生理的・電気的活動の解析を行った。代謝領域では遺伝子変異を伴う先天性、および脂肪織炎を伴う後天性の脂肪萎縮性糖尿病、ミトコンドリア糖尿病、MODYの罹患患者を対象疾患とする。iPS細胞の分化系においては、iPS細胞から脂肪細胞への分化プロトコールを検討し、間葉系幹細胞様の細胞へと一旦誘導させてから脂肪細胞へ分化させるプロトコールの最適化を試み、iPS細胞から間葉系幹細胞様細胞への分化、間葉系幹細胞からの脂肪細胞への分化が比較的効率よく誘導できることが確認できた。眼科領域のある遺伝性疾患について、iPS樹立を開始し、また網膜分化プロトコールの移入を行った。エピジェネティックな機構をもちいたiPS細胞からの網膜分化を目的として、その発生における役割を解析し、ヒストンH3K27メチル化の網膜分化における役割を明らかにした。研究倫理・臨床倫理上の検討についてはiPS細胞のバンク化を視野に入れてバイオバンクおよびデータベースへ研究参加者として試料を提供する際の意識を調査した。データベースに参加する際の同意のあり方は包括的な同意を考慮に入れざるを得ず、そうした包括的な同意の許容性について特に着目して調査を行った結果、包括的同意に賛意を示したのは37.5%であったのに対し、個別的同意に賛意を示したのは62.5%に及んだ。
結論
本研究によって様々な難治性疾患の病態解明や治療法の開発が期待され、さらに難治性疾患をモデルとした一般的な慢性疾患の治療法開発にもつながる可能性がある。高品質な疾患特異的iPS細胞をバンク化し配布可能とすることで、民間企業をも巻き込んだ創薬研究の発展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201406036Z