小児難病患者及び成育疾患患者由来iPS細胞の樹立と薬剤スクリーニング系の確立

文献情報

文献番号
201406034A
報告書区分
総括
研究課題名
小児難病患者及び成育疾患患者由来iPS細胞の樹立と薬剤スクリーニング系の確立
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-022
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
梅澤 明弘(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所再生医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 洋一(独立行政法人国立成育医療研究センタ0)
  • 早川 堯夫(近畿大学)
  • 佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
40,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本事業の目的は、A. 難病等の患者由来のiPS細胞等を利用し、当該疾患に対する創薬シーズを探索する体制の構築、B. iPS細胞を肝細胞等に分化させ、その細胞を利用した薬剤候補物質の安全性を評価する体制の整備である。(独)国立成育医療研究センターの特色を生かし、稀少疾患である「遺伝子修復に係る遺伝子に変異を伴う疾患」についてのiPS細胞を樹立し、創薬シーズを探索する。また、iPS細胞を肝細胞等に分化させて、その細胞を利用した薬剤候補物質の安全性スクリーニング体制を整備する。
研究方法
疾患iPS細胞が示す異常な表現型を是正するためのハイスループットスクリーニング(HTS)系を確立して製薬企業が保有している低分子化合物ライブラリーから、ATを始めとするDNA修復遺伝子に変異を持つ疾患に対する治療薬のシーズとなる化合物を同定する。また、iPS細胞の肝細胞分化誘導系を確立し、様々な薬剤候補スクリーニングの系を確立していく。
結果と考察
DNA修復は生体維持にとってきわめて重要なプロセスで、相同組換え等による二本鎖修復、および塩基除去修復等による一本鎖修復の2つに分けることができる。それぞれの分子機構の異常に関わる疾患として、毛細血管拡張性運動失調症(AT)や色素性乾皮症(XP)といった悪性腫瘍を発生させる遺伝性疾患が知られており、本研究ではこられの患者の線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、発症機序の解明や治療法の開発、創薬に向けて研究を進めている。もとの線維芽細胞株および樹立された細胞株に対し、次世代シークエンサを用いたエクソーム解析とSNPアレイを用いた構造変異解析を行い、細胞のリプログラミング前後において獲得されたと考える変異を調べた結果、ATとXP両疾患の間に対照的な違いが得られた。全コーディングおよび周辺配列に見つかった一塩基置換の変異数の平均はATが41であったのに対し、XPでは約5倍の202。通常のエクソーム解析で検出される全バリアントのうち約1割は短い挿入欠失であるが、ATおよびXPではそれぞれ全体の30.1%および9.8%が挿入欠失変異であり、またATでは平均3箇所の大きな構造変異が観察された一方、XPAでは全株で構造変異は一つも見られなかった。これらの結果はそれぞれの原因遺伝子とされるATMおよびXPAの分子機序を如実に反映した結果であると考えられる。本研究によりDNA修復機構に関し、対照的なiPS細胞株を樹立することができ、さらにその特性を活かして継代を重ねた細胞に対しても同様なデータを取得することで、変異パターンに関する知見も蓄積している。これらのデータは発症機序の解明に大きく貢献することはもちろん、細胞はDNA修復異常全般に関し治療法の開発や創薬に大いに貢献しうるものであると考えている。

結論
本事業を通じて得られたこれらのデータは、疾患の発症機序の解明に大きく貢献することはもちろん、細胞はDNA修復異常全般に関し治療法の開発や創薬に大いに貢献しうるものであると考えている。疾患iPS細胞の表現型を解析し、難治疾患の病態解明が可能になると共に、ハイスループットスクリーニング(HTS)へと拡張可能なアッセイ系が構築できる。これらのアッセイ系を用いて低分子化合物から構成されるライブラリーをもちいた薬剤スクリーニングを行うことで難治疾患に対する治療薬のシーズとなる化合物が同定できるようになる。また、創薬探索における遺伝子解析情報と臨床情報を有機的に関連付け、iPS細胞のバイオリソースとしてより一層の付加価値を生み出すための体制を実現化し、創薬探索、薬剤スクリーニング体制の構築が可能となる。ヒトiPS細胞を用いたin vitro毒性評価系の開発成果として実用性・汎用性の高い新規毒性評価系が構築され、将来はそれを基に薬事法上の新薬承認審査に反映させる毒性ガイドライン作成及び世界の主要な新薬開発国が参加するICHのグローバル・スタンダードへ発展させる事が可能となる。本プロジェクトで得られる分化誘導技術、iPS細胞由来のモデル細胞、モデル細胞を用いたスクリーニング系、スクリーニングで得られた薬物毒性データベースなどの研究成果により、医薬品開発段階における大幅な開発効率の向上が期待される。国立成育医療研究センターは、難治性疾患や稀少疾患の診断および治療を中心となって担ってきた。特に難治性疾患克服研究事業の成果により、すでに同意を得た難治性・稀少遺伝疾患を多数収集しており、今後も継続して症例の集積が見込まれる。本研究を通じ、遺伝子解析情報と臨床情報を有機的に関連付け、バイオリソースとしてより一層の付加価値を生み出すための体制を実現化し、創薬探索、薬剤スクリーニング体制の構築が可能となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201406034Z