不妊治療を受けている患者・家族に対する看護支援ガイドラインの作成と ネットワークの構築に関する研究

文献情報

文献番号
199800330A
報告書区分
総括
研究課題名
不妊治療を受けている患者・家族に対する看護支援ガイドラインの作成と ネットワークの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
森 明子(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度は、1)不妊治療とそれを受ける患者・家族と関わりをもっている看護者が抱えるジレンマ・ストレスの内容を明らかにすること、および、2)不妊治療施設において提供している看護と、それが提供される環境について明らかにすること、を通して看護の現状を分析し、看護機能を活かすための要件を明らかにすることを目的とした。
研究方法
1.看護者のジレンマ・ストレスに関する内容分析:全国150施設の看護者に対する無記名の自記式質問紙による調査において、看護者が自由記述した不妊患者の看護に関連するジレンマ・ストレスの内容をデータとした。記述された文章から、まとまりのある意味内容を抽出、コード化し、分類、カテゴリ化をはかった。2.提供されている看護とその環境に関する分析:上記1.の質問紙調査において看護役割総得点または相談に関する役割得点のいずれかが平均点以上あった全国7施設の、主として看護責任者に半構成型インタヴューを行ない、言語化された内容を記述しデータとした。また、施設を訪問した際にインタヴュアーが観察した事柄もデータの一部とした。記述した面接および観察データを看護提供とその環境を探る観点から分析・検討した。1.および2.の結果に基づいて、看護機能を活かすための要件を抽出した。
結果と考察
1.看護者のジレンマ・ストレスに関する内容分析:24のサブカテゴリをもつ5カテゴリに分類された。それは、不妊治療の提供システムから派生する看護者のジレンマ・ストレス、チーム関係やメンバー役割から派生する看護者のジレンマ・ストレス、不妊看護に関するジレンマ・ストレス、看護者個人におけるジレンマ・ストレス、患者・家族との対人関係におけるジレンマ・ストレスの5つであった。2.提供されている看護とその環境に関する分析:患者の側から不妊治療提供のされ方を分析したところ、診療形態に3タイプ、Assisted Reproductive Technologyの受け方に3タイプ、入院中の環境に2タイプ、検査・治療の説明などに関するシステムに2タイプと、治療の提供システムはさまざまであった。また、患者からの相談への応じ方を分析したところ、システムとして相談窓口を設置しているところとないところがあった。患者からの相談に対する看護者の意味づけと対応のしかたに5タイプあった。「医師に差し向ける中継型」「気持ちや状況を受けとめるケア型」「検査・治療などに関する説明型」とあり、さらに「検査・治療などに関する説明型」は「無意識に説明型」「意識して説明型」に分類された。相談のとらえ方、応じ方は看護者により、さまざまであった。不妊治療には一人の医師しか関わらない施設から、複数の医師で行っている施設まであった。おおむね医師・患者間の信頼関係はよいと評価していた。また、看護管理者のスタッフへの評価はおおむねよく、信頼関係があると考えられた。職種を交えた不妊治療チームとしての関わりがない、もしくは不明瞭にとらえられていたのは4施設であった。チームとしての関わりをもっている3施設では、医師が検査・治療の方針を決めるという点で共通していた。コメディカルの役割分担は、明瞭なところと不明瞭なところとがあった。看護者は説明に対する患者の理解の確認と補足、治療に関する具体的な日程調整、訴えを聴く、診療を補助する、などで共通していた。不妊治療に関わっている各職種メンバー相互間の関係はおおむね肯定的にとらえられていたが、不妊治療専門の診療所を除くと、不妊治療のチーム医療としての位置づけは弱かった。
不妊の患者・家族に対し、看護として行なっていること、気をつけていることとして、環境の調整、心のケアや精神的な援助、家族、とくに夫への配慮、ARTに関する説明や相談、説明に対する患者の理解の確認と補足、インフォームドコンセント、治療に関する調整・連絡、ART前後の患者ケア、ART中の患者ケア、ARTの補助、患者の負担をできるだけ少なくする、症状に合わせたケア、セルフケアできるような援助、患者の理解を深める、できるだけ患者の希望に添う、ミスをしないということ、などであった。また、今後の課題、取り組んで行きたいこととして、専門として取り組んで行くナース(コーディネーターの育成を含む)を育てる、専門的な取り組みを合わせ、外来との継続性をつくる、外来環境の整備、行なっている看護ケアの評価、などであった。
結論
不妊治療施設の看護者のジレンマ・ストレスに関する内容分析および提供されている看護とその環境に関する分析を行い、以下のような看護機能を活かすための要件を明らかにした。
1.診療形態や患者の取り扱い方など多様であることで、看護を展開する環境は異なったものになり、看護の提供のしかたもまた一様には考えられないため、不妊治療を提供する場の状況に合った看護機能の充実をはかっていく必要がある。
2.看護は点の関わりとなっているため、患者の治療プロセスに添っていくような、患者の状況全体を線で結びながら機能できるようにする必要がある。
3.相談と看護機能の関係を明らかにし、相談への患者のニーズが生まれ、応じられるような看護を提供していく必要がある。
4.看護の機能として患者に何を提供できるのかを看護者自身が明らかにしておくことは、専門職として不妊患者に関わるときに最低限必要なことである。看護の専門分化も含めて、体系化していくことが必要である。
5.不妊患者に対する看護機能を高めるためには看護者への教育を強化する必要がある。

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