iPS細胞を用いた再生医療における造腫瘍性の対策に関する研究

文献情報

文献番号
201406020A
報告書区分
総括
研究課題名
iPS細胞を用いた再生医療における造腫瘍性の対策に関する研究
課題番号
H25-実用化(再生)-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 卜部 匡司(自治医科大学 医学部)
  • 古川 雄祐(自治医科大学 医学部)
  • 阿部 朋行(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
29,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 iPS細胞は再生医療において様々な応用が期待されているが、その造腫瘍性が懸念されており臨床研究推進の妨げとなっている。その解決策の一つとしてiPS細胞に予め自殺遺伝子を搭載しておくことが挙げられる。もし細胞が制御不能となった場合には細胞死作働薬を投与することにより選択的に自殺遺伝子発現細胞を生体から排除できる。本研究では自殺遺伝子としてヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子もしくは、FKBP12とcaspase 9とのキメラ蛋白質inducible caspase9(iCasp9)遺伝子を、アデノ随伴ウイルスが第19番染色体のAAVS1領域に組み込まれる機構を利用し、同領域にピンポイントで導入する。この方法は挿入変異発癌を来たさないため特にiPS細胞遺伝子操作に適している。
研究方法
研究全期間を通じて以下の4項目を実施する。1)自殺遺伝子をAAVS1領域に組み込んだiPS細胞を樹立し、2)エピジェネティクス解析によりその発現プロファイルを自殺遺伝子非搭載iPS細胞と比較する、3)マウス、ブタ、ヒツジ胎仔に移植し細胞死作働薬投与により細胞死を誘導できるか検証する、4)動物に移植後長期観察することにより造腫瘍性を検討する。本年度は主に項目1,2,3を実施する。
結果と考察
1)iCasp9遺伝子をAAVS1領域への導入では、EF1αプロモーターによりiCasp9を発現するカセットとPGKプロモーター下にpuromycin N-acetyltransferase (Puro)を発現するカセットをタンデムにつなぎ、iCasp9カセットの上流に向き合うようp5プロモーターでRepを発現するカセットを配した。iPS細胞にこのプラスミドを導入後、puromycinの存在下で培養を行い、単一iPS細胞由来のクローンを選別した。プラスミド側のプライマーとAAVS1プライマーを用いPCRを行い、増幅産物の塩基配列を解析したところ、87個のクローンのうち、5クローン(5.7%)でiCasp9遺伝子のAAVS1領域への組込みが確認できた。iCasp9遺伝子も昨年度実施したGFP遺伝子と同程度のAAVS1領域への組込み効率と考えられた。5クローンの内、AAVS1の大きな欠失のない4クローンを解析したところ、Oct4、Nanog、SSEA4、Tra1-60、アルカリホスファターゼなど未分化マーカーが発現していた。iCasp9搭載iPS細胞を自殺遺伝子作動薬AP20187で処理すると30 pM以下の極めて低い濃度で死滅した。以上のことはiCasp9が自殺遺伝子としてiPS細胞で確実に機能することを示している。今後マウス、ヒツジに移植しin vivoでAP20187投与により移植細胞が死滅するか検討する予定である。
2)エピジェネティクス解析では、自殺遺伝子を組み込んだiPS細胞における遺伝子発現パターンとDNAメチル化状態を次世代シークエンシンサーによって網羅的に解析し、親株との比較で自殺遺伝子の組み込みによっておこる変化の有無を明らかにする。捉えられた変化と分化能・造腫瘍性との関連を移植実験によって確認し、iPS細胞の機能・安全性に関与する分子を同定するとともにその制御法を開発する。今年度は樹立した1株におけるゲノムのDNAメチル化状態を網羅的に解析し、親株との比較を行った。その結果、導入遺伝子の発現調節領域を含め、異常なメチル化は観察されなかった。AAVS1への遺伝子導入操作によりエピゲノムに変化を及ぼさない事が確認できた。
3)モデル動物への移植研究では、ヒツジ胎仔への異種移植系を用いてヒトiPS細胞由来のグラフトを持つヒツジの作製を試みた。また、SLA合致ブタを用いた同種移植系により、iPS細胞の免疫原性の評価を行ったところ、移植したブタiPS細胞は免疫拒絶された。自殺遺伝子搭載iPS細胞に由来する分化細胞を生着した大型動物モデルの作製を目指して、引き続きレシピエント動物の解析を進め、自殺遺伝子の有効性および安全性を評価する予定である。
結論
 iPS細胞のAAVS1領域に自殺遺伝子inducible caspase 9の挿入を試み、取得した87クローンの内、5クローン(5.7%)でAAVS1に組み込まれていた。更にAAVS1領域の大きな欠失を伴っていない4クローンの未分化マーカーの解析から親株と同様未分化状態を維持していることが分かった。その内の1クローンのゲノムのメチル化状態を親株と比較したところ、導入遺伝子の発現調節領域を含め、異常なメチル化は観察されなかった。AAVS1への組込みは宿主細胞に大きな異常を引き起こさないことの一つの傍証が得られた。以上は概ね研究計画通りに実施できた。モデル動物の移植実験では引き続きヒツジの胎仔への移植を実施しその解析を進めている。

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201406020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
38,220,000円
(2)補助金確定額
38,220,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 26,591,918円
人件費・謝金 1,924,193円
旅費 0円
その他 883,889円
間接経費 8,820,000円
合計 38,220,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
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