種々のバリエーションを有したヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の作製と毒性評価系への応用

文献情報

文献番号
201406013A
報告書区分
総括
研究課題名
種々のバリエーションを有したヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の作製と毒性評価系への応用
課題番号
H25-再生-指定-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
水口 裕之(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部肝細胞分化誘導プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 梅澤 明弘(独立行政法人国立成育医療研究センター 生殖・細胞医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物誘発性肝障害(肝毒性)は、医薬品の開発中止や市販後の警告、販売中止に至る主要な有害事象である。ヒト組織の利用により毒性評価の向上が見込まれるものの、我が国においては入手が困難であり、安定供給、継続性の観点から実現は困難である。さらに、薬物代謝酵素の活性に個人差(10倍~1000倍以上)が大きいことが正確に肝毒性を評価することが困難な原因となっている。そこで本研究では、iPS 細胞技術を駆使することで個人差を反映した薬剤の肝毒性評価系の開発を行う。具体的には、①様々な薬物代謝酵素活性を有した個人由来のヒトiPS細胞から肝細胞を作製し、②それらの細胞における薬物代謝酵素活性を評価する。また、③CYP2D6活性が極めて低くなるSNPを有する個人のヒト初代培養肝細胞(PHH)からヒトiPS細胞を樹立・肝細胞分化誘導したのち、作製した分化誘導肝細胞において元の個人に特徴的なCYP2D6活性とCYP2D6による解毒作用が引き継がれるかどうか検証する。さらに、④極めて稀な薬物代謝酵素の遺伝子多型を有する評価細胞を作製するため、薬物が主病因となって発症した劇症肝炎由来のiPS細胞の樹立を行う。
研究方法
本研究は、研究代表者(水口)、研究分担者(梅澤)の計2名が遂行し、1. ヒトiPS細胞由来肝細胞の作製と毒性評価系の開発、および2.劇症患者由来iPS細胞の作製、に分けて遂行した。
結果と考察
1. ヒトiPS細胞由来肝細胞の作製と毒性評価系の開発
まず、肝幹前駆細胞(肝細胞の前駆細胞)を純化してから肝細胞へと分化誘導することによって、iPS細胞株による肝分化指向性の違いが解消されるかどうか検証した。その結果、ラミニン111を用いて肝幹前駆細胞を純化する工程を経ることによって、iPS細胞株の肝分化指向性に関わらず、どのiPS細胞株においても85%以上の効率でアルブミン陽性の肝細胞へ分化誘導可能であった。次に、平均的な薬物代謝活性を有するヒト初代培養肝細胞(PHH)、および薬物代謝活性が上限・下限であるPHH(合計12ドナー)を購入してヒトiPS細胞を作製し、上述で開発した分化誘導技術を用いて肝細胞へと分化誘導させたのち、CYP1A2、2C9、3A4活性を測定した。その結果、PHH由来iPS細胞から作製した分化誘導肝細胞における薬物代謝酵素活性は、PHHの薬物代謝酵素活性の個人差を反映していた。さらに、CYP2D6活性が極めて低くなるSNPを有する個人(poor metabolizer、PM)から分化誘導肝細胞を作製するために、まずCYP2D6のPMとなるSNPを有するPHHからヒトiPS細胞を作製し、それらの細胞から作製した分化誘導肝細胞におけるCYP2D6活性を測定した。その結果、CYP2D6のPMとなるSNPを有するPHHから作製した分化誘導肝細胞は親細胞と同様に、CYP2D6活性が極めて低いことが分かった。次に、分化誘導肝細胞が個々人のCYP2D6のSNPを反映したCYP2D6による薬物解毒作用を有するかどうか調べるために、デシプラミン等のCYP2D6による代謝の有無で毒性の強弱が決まる薬物をPHHおよびPHH由来iPS細胞から作製した分化誘導肝細胞に作用した。その結果、CYP2D6のPMとなるSNPを有するPHHから作製した分化誘導肝細胞は親細胞と同様に、デシプラミン等の薬物のCYP2D6を介した解毒作用が弱いことが分かった。

2.劇症患者由来iPS細胞の作製
薬物が主病因となって発症した劇症肝炎患者由来組織より得られた繊維芽細胞へセンダイウイルスベクターを用いてKLF4、OCT3/4、SOX2、c-MYCの4遺伝子を導入した結果、2株のiPS細胞の樹立に成功した。得られたiPS様のコロニーは、センダイウイルスが除去されており、SSEA-4、NANOG等の未分化マーカー陽性であった。また、マウスへの移植による奇形種形成で、三胚葉への分化が確認された。
結論
本年度は、ヒトiPS細胞株に依らない高効率肝分化誘導法を開発し、様々な薬物代謝酵素活性を有するヒト初代培養肝細胞(PHH)からヒトiPS細胞を介して分化誘導肝細胞を作製することで、様々な薬物代謝酵素活性を示す分化誘導肝細胞パネルを構築した。また、CYP2D6活性が極めて低くなるSNPを有する個人のPHHから分化誘導肝細胞を作製し、元の個人に特徴的なCYP2D6活性とCYP2D6による解毒作用が引き継がれることを確かめた。さらに、劇症患者由来iPS細胞の樹立に成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201406013Z