リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の対策に関する研究

文献情報

文献番号
199800328A
報告書区分
総括
研究課題名
リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
武谷 雄二(東京大学医学部産科婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 堤治(東京大学医学部産科婦人科学)
  • 寺川直樹(鳥取大学医学部産科婦人科学)
  • 田中憲一(新潟大学医学部産科婦人科学)
  • 星合昊(近畿大学医学部産科婦人科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子宮内膜症は疼痛を主体とする、長期にわたる頑強な症状、妊孕性の低下、悪性病変への二次的変化の可能性など現在の女性の健康を脅す最も重要な疾患と言っても過言でない。しかも子宮内膜症は年々増加傾向にあり、現在本邦で診療を受けている子宮内膜症患者は12万人以上にものぼる。そこで、本研究は社会医学的にも重要性を増しつつある子宮内膜症の発症予防と有効な治療法の開発を目的として、以下の4つの課題を取り上げた。(1)子宮内膜症の診断・治療の現状と問題点を把握して適切な診断・治療指針を確立すること、特に(2)子宮内膜症合併不妊症、および(3)子宮内膜症性疼痛に対する最適な治療・管理指針を創案すること、さらに(4)子宮内膜症発症予防の観点から子宮内膜症の発生と女性のライフスタイルの関連を解明すること。いずれも全国規模の前方あるいは後方視的アンケート調査を中心とする研究であり、これらの成果を集約し、子宮内膜症の予防および子宮内膜症に対する多様かつ総合的な管理を確立することを企図した。
研究方法
4つの課題それぞれに対し、子宮内膜症の臨床経験の豊富な研究協力者を8~10人程度で研究班を組織して行った。
子宮内膜症の診断治療に関する研究では、手術時に子宮内膜症が確定診断された167症例を前方視的に手術、薬物療法による疼痛の改善度を術後一年にわたり追跡調査した。疼痛の種類として下腹痛、腰痛、性交痛、月経困難、排便痛などに分類し、疼痛の程度も数段階に分け詳細に検討した。
子宮内膜症合併不妊患者に対する不妊治療法の開発では、腹腔鏡で子宮内膜症の存在が確認された703症例の不妊患者に対し、施行された治療法と妊娠率を後方視的に解析した。特に、手術記録より手術手技の詳細な点、および、子宮内膜症の存在様式の細かい部分にわたり調査し、再発率が低くかつ妊孕性の向上に結びつく因子を抽出した。
子宮内膜症性疼痛の長期予後と管理法の研究では腹腔鏡または開腹手術により子宮内膜症の臨床進行期 (rAFS) の情報が得られ3年以上の追跡調査が可能な232例を対象として調査を行った。疼痛の部位と程度を詳細に解析し長期的な再発率および再発様式を検討した。
女性のライフスタイルと子宮内膜症発生に関する研究では、子宮内膜症患者および正常女性6221名に対し、居住地、本人の母乳哺育歴、月経歴、妊娠分娩歴、食物嗜好など、月経頻度や環境ホルモンへの被爆などに関与すると思われる因子をアンケート調査した。このデータをもとに子宮内膜症発生要因と考えられる因子を評価、検討した。
この間、全体として2回の情報交換会を行った。1回目は中間報告を持ち寄り、お互いの問題点を指摘しあうとともに、相互に協力できる部分につき討論し、場合によっては一部軌道修正を行った。2回目は、全体のまとめの会で、データの評価と解釈を総合的に討論した。
結果と考察
子宮内膜症の診断治療に関する研究では、寺川らが、術前に下腹痛、腰痛、性交痛および排便痛などの疼痛を有した患者を前方視的に調査した結果、術後1ヶ月、および12ヶ月の時点で疼痛が軽快したものは、各々55%、62%、変化無しが38%と29%、増悪したものは3%と9%であった。術前に下腹痛、腰痛、性交痛および排便痛を有する患者はそれぞれ71%、50%、28%、16%存在したが術後1ヶ月の時点ではそれぞれ44%、28%、11%、6%と有意に減少し、術後12ヶ月の時点においてもその頻度に変化はなかった。内診所見では、子宮腫大、子宮可動性制限、圧痛および卵巣腫大が術前にはそれぞれ41%、21%、37%、56%の患者に認められたが、術後12ヶ月の時点ではそれぞれ14%、9%、23%、8%と有意に減少した。手術によって子宮内膜症病変を完全に除去し得た患者においては術後残存病変を有する患者に比較して高い改善率を得た。また、術後薬物療法の追加による疼痛および他覚所見の改善には効果を見いだせなかった。子宮内膜症合併不妊患者に対する不妊治療法の開発に焦点を絞った田中らの研究では、腹腔鏡施行前後の臨床進行期 (rAFS) は妊娠率に影響しないことが明らかとなった。術後にIVF-ET以外の治療を行った症例においては、腹腔鏡下手術において両側付属器周囲の癒着剥離、卵管疎通性の改善を徹底的に行うことが妊娠率の改善につながっていた。また、術後IVF-ETを施行した患者では、腹膜病変焼灼、癒着剥離、腹腔内洗浄を充分に行うことが妊娠率向上に寄与した。術前、術後の薬物療法は腹腔鏡下手術後の妊娠率の改善には寄与しなかった。星合らの子宮内膜症性疼痛の長期予後と管理法の研究では、rAFS I,II,III,IV期の患者で有痛症例が各々、40.5、67.0、53.8、69.0%あり、術後の疼痛再発率が3ヶ月以内で25%、1年以内で47%という結果が得られた。堤らの女性のライフスタイルと子宮内膜症発生に関する研究では、本人が母乳、人工乳、混合哺育で育った各群のうち子宮内膜症患者の割合は、各々8.1%、10.7%、12.2%であり、母乳で育ったものに有意に子宮内膜症患者の頻度が低いことが判明した。食物の嗜好と子宮内膜症の関連について解析したところ、子宮内膜症群では魚、肉、野菜類のなかで肉類と回答したものが多く、対照群では野菜と回答したものが多かった。また、子宮内膜症では対照群と比較して初経年齢は有意に若く、妊娠・分娩・授乳回数が有意に少ないことが明らかとなった。さらに現在、今回の結果において有意な差が認められた項目を中心に子宮内膜症発症との関連性を解析するためさらに詳細な第2次アンケート調査を実施中である。
結論
子宮内膜症に特有な疼痛症状が本邦では下腹痛、腰痛、性交痛、排便痛の順で、いずれの症状も手術療法により軽快することが明らかとなった。また、手術手技としては可及的に残存病変を残さないことが重要な点であると考えられた。また、疼痛改善の面からは術後薬物療法に明らかな効果は見いだせなかった。これらの疼痛と臨床的進行期 (rAFS)との間に相関は認められず、疼痛症状との関連性を持つ新たな進行期分類の確立が必要と考えられた。長期的に疼痛症状を見た場合、疼痛を主訴として手術をした場合にはかなりの再発率があることが判明した。子宮内膜症と妊孕性との関連について見ると、腹腔鏡施行前後の臨床進行期 (rAFS)は妊娠率に影響しなかった。術後IVF以外の治療を行う症例では、腹腔鏡下手術にて両側卵巣・卵管の癒着剥離、両側卵管の疎通性の改善を徹底的に行うことが妊娠率の改善につながると考えられた。術前および術後ホルモン療法は腹腔鏡後の妊娠率向上に寄与せず、これらの薬物療法については慎重であるべきであろう。また、子宮内膜症の発症には月経に関連した諸因子などを通じて女性のライフスタイルの変化が深く関与していることが示された。母乳に
ダイオキシンが高濃度であることが昨今話題となっているが、母乳哺育は子宮内膜症のリスクを下げることが示唆された。以上、今回の研究において、子宮内膜症における疼痛の問題、不妊の問題、ライフスタイルの問題に関し、今後研究すべき問題を提示するとともに一定の回答が得られ、将来的に子宮内膜症の管理に活用されると考える。

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