専門医制度と連携した臨床ビッグデータに基づいた新しいベンチマーキング体制の構築に関する研究ー次世代型Evidenced Based Medicineの基盤形成ー

文献情報

文献番号
201405043A
報告書区分
総括
研究課題名
専門医制度と連携した臨床ビッグデータに基づいた新しいベンチマーキング体制の構築に関する研究ー次世代型Evidenced Based Medicineの基盤形成ー
課題番号
H26-特別-指定-043
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高本 眞一(東京大学 心臓血管外科名誉教授室)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田裕章(東京大学医療品質評価学)
  • 上田裕一(奈良県立病院機構奈良県総合医療センター)
  • 坂田隆造(京都大学大学院医学研究科・心臓血管外科学)
  • 本村昇(東邦大学医療センター佐倉病院)
  • 種本和雄(川崎医科大学)
  • 橋本和弘(東京慈恵会医科大学医学部心臓外科)
  • 岩中督(東京大学医学部附属病院小児外科)
  • 後藤満一(福島県立医科大学第一外科)
  • 徳田裕(東海大学医学部外科学系 乳腺内分泌外科学)
  • 香坂俊(慶應義塾大学医学部・循環器内科学)
  • 大庭 真梨(斉藤 真梨)(東邦大学医学部医学科 社会医学講座医療統計学分野)
  • 友滝愛(国立研究開発法人国立国際医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,専門医制度と連携した臨床ビッグデータであるNational Clinical Database(以下, NCD)を用いて,『医療の質』と関連した臨床的な要因を明らかにし,その向上を実現するための新しいベンチマーキング体制を構築することである.悉皆性の高いレジストリを用いてEvidence-Based Medicine(以下,EBM)を現場のベンチマーキングに活用し,本来の意味での医療の質の向上への貢献を目指したものである.

本研究では,以下の二点を主眼とするパイロット研究を行った:① 臨床ビッグデータの解析結果を,臨床現場が理解・実感しやすい形で視覚化(リアルタイムフィードバック機構の開発)を行う;② リアルタイムフィードバックの活用により,現場が継続的な医療の質向上を実現するためのベンチマーキング体制を構築し効果検証を行う
研究方法
研究の実施は,既に術前リスクに基づく重症度補正治療成績の解析およびベンチマーキングに取り組んで来た心臓外科領域を対象に,治療成績と施設環境のセグメントを考慮したリアルタイムフィードバックを実装・検証した.並行して消化器外科領域においても,主な術式において術前リスクから治療成績をリアルタイムで出力するフィードバックシステムを展開・検証した.

施設訪問による現場サポートについては試行的な検証を行い,匿名性を確保した上で,エキスパートチームとデータサイエンティストが訪問しサポートを提供した.ここでは実証データ分析に基づく課題の同定だけでなく,カルテ検証に基づいた改善可能要因の抽出の後に,現場チームを交えたコンサルティングを行なった.
結果と考察
臨床データの重症度補正モデルに基づいたリアルタイムフィードバック機能を実装・検証した.並行して消化器外科領域においても,主な術式において術前リスクから治療成績をリアルタイムで出力するフィードにバックシステムを展開・検証した.一方で,NCDフィードバックシステムを用いた一連のベンチマーキング・教育プログラムの標準化と評価に繋がる検討を行った.これらは,主任研究者の米国STSにおける先行プロジェクトに関する議論や,分担研究者間での討議,また,現場における施設訪問(audit)作業などを通じて行った.

施設訪問による現場サポートについては,本研究の期間中に血管外科領域において5箇所,および一般外科領域において3か所のサイトビジットを実施した.この活動では匿名性を確保した上で,エキスパートチームとデータサイエンティストが訪問し現場サポートを提供した.実証データ分析に基づく課題の同定のみならず,カルテ検証に基づき現場チームを交えたコンサルティングも行なった.

今後は医療の質向上に向け,プロジェクトチーム及び学会としても,Plan-Do-See-Actの各フェイズにおいて,医療の質向上に向けた個別施設のサポートを行うだけでなく,領域全体としても学びを広げ,改善の取り組みを促進するため,実証的な分析に基づく体系的活動を行えるよう調整したい.具体的には,施設訪問を通して得られた課題について,成功事例の共有や,更なる改善のためにpost graduate courseなどの卒後教育による底上げを図る.専門医や施設認定における基準の見直しと,推奨すべき臨床プロセスの同定などの活動も連動して行えれば効果的であろう.
結論
既に登録データの重症度補正モデルの解析を行ってきた心臓外科領域をモデルケースとし,NCDシステムを用いた一連のベンチマーキング・教育プログラムの標準化と評価に繋がる検討を,audit作業などを通じて行うことができた.

NCDは日本専門医機構をはじめ,我が国における行政的視点も加味した専門医制度の議論においても一定のリーダーシップを有する組織的活動である.臨床ビッグデータと専門医制度の連携は,国際的にも先進的事例であり,これらの取組みにより実現される次世代型EBM型教育プログラムの枠組みは,臨床現場にも大きなインパクトを与え,新しいイニシアチブを形成することが可能であると考える.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201405043C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は,臨床データベースを基に新たなベンチマーキング手法、教育プログラムの開発と効果の検証を行うためのパイロット研究として位置付けられ、本研究にて得られた知見を基に、各施設へ提供している患者の術前リスクに基づく重症度補正治療成績の解析およびベンチマーキング結果の閲覧を2018年度より義務化することを決定した。学会を代表する臨床エキスパートチームと、臨床の各設担当者との治療成績改善に向けたディスカッションは、ウェブ及び施設訪問の2つの手法にて必要時遂行し、医療の質向上を図る試みを継続している。
臨床的観点からの成果
本研究にて実施した施設訪問によるコンサルテーションから得られた知見を基に、ウェブ上に、新しいベンチマーキング手法と組み合わせた教育・コンサルテーション機能を開発し、施設訪問担当者による継続的で効率的なフォローアップを可能にした。継続的な取り組みを通じて自施設の治療成績を顧みることで、手術の手技適応に基準を設ける、院内他科や、近隣の医療施設との連携を積極的に図るという施設が増加し、心臓外科の主要3術式の全体的な治療成績向上につながった。
ガイドライン等の開発
複数施設で共通の課題として挙げられた点について、心臓外科領域全体への周知を目的に卒後教育コースで取り上げ、心筋保護法に関する教科書の出版により正しい治療法を普及することに成功した.本研究による訪問施設の改善結果を参考に、2017年9月に心臓血管外科専門医認定機構及び、日本心臓血管外科データベース機構、日本心臓血管外科学会の三者会議にて、ベンチマーキング結果を基に、医療の質を維持する施策を講じていることを認定要件に位置付けられた。
その他行政的観点からの成果
NCDは日本専門医機構をはじめ,我が国における行政的視点も加味した専門医制度の議論においても一定のリーダーシップを有する組織的活動であり,臨床現場との連携,他分野への波及効果という点でも大きなインパクトを期待することができる.臨床ビッグデータと専門医制度の連携は,国際的にも先進的事例であり,これらの取組みにより実現される次世代型EBM型教育プログラムの枠組みは,臨床現場にも大きなインパクトを与え,新しいイニシアチブを形成することが可能である.
その他のインパクト
2018年2月に三重県津市にて開催された、第48回日本心臓血管外科学会にて、分担研究者の上田裕一及び種本和雄が、本研究にて得られた知見の共有を図り、学会全体での手術手技の再確認を実施するとともに、知識の向上に努めた。また、研究代表者の髙本は、ウェブ上を用いたコンサルテーション機能を紹介し、本機能の目的と、期待される成果の理解を図った。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
2019-06-04

収支報告書

文献番号
201405043Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,000,000円
(2)補助金確定額
1,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 206,333円
人件費・謝金 0円
旅費 564,850円
その他 0円
間接経費 230,000円
合計 1,001,183円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-26
更新日
-