生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究

文献情報

文献番号
199800327A
報告書区分
総括
研究課題名
生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 恵子(東京家政大学)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口恵子(東京家政大学)
  • 北村邦夫(社団法人日本家族計画協会)
  • 戒能民江(東邦学園短期大学)
  • 村松泰子(東京学芸大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国連主催の人口開発会議(ICPD:1994年)と第4回世界女性会議(1995年)を受けて、世界各国は、リプロダクティブ・ヘルスの改善を地球規模の優先事項にすべきであるという点で合意した。これを受けて、WHOはリプロダクティブ・ヘルス事業として、人々が性と生殖に関して、自分と相手の健康を保持増進し、国民が質の高い保健サービスを利用できる状況を作り、必要に応じてそれを受けられるようにすることが重要であるとしている。また、わが国では1995年6月8日、参議院厚生委員会において、『リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)について、その正しい知識の普及に努めるとともに、きめ細かな相談・指導体制の整備を図ること。また、その調査研究をさらに推進すること』と決議している。本研究班は、WHOリプロダクティブ・ヘルス事業と国会での決議を実現すべく、①中高年女性の総合的健康対策(樋口)、②思春期総合保健対策(北村)、③女性に対する暴力と健康(戒能)、④メディア情報が女性の健康に及ぼす影響(村松)の4つを研究テーマとして、NGOの役割と行政施策への期待を探るものである。①樋口は、更年期女性の人生を社会的総合的に把握し、健康を支援するための国際比較と国際協力の方向性、並びに更年期女性の当事者を含めて啓発活動を積極的に行っている神奈川、大阪、北九州を例に、活動の現状と今後の課題や問題点を明らかにすることを目的に研究を進めた。②北村は、日本思春期学会の医師会員を対象として、思春期専門外来の設置状況を調査し、思春期や思春期の子どもを持つ親から直接相談を持ちかけられる思春期保健相談員や教育・福祉・司法関係者等が、悩みを抱えた子ども達を、どの思春期専門外来に、いつ、どのような形で紹介し得るのか、利用し易い社会資源データベースづくりに努めた。③戒能は、WHO企画の多国間研究プロジェクトの一環として、日本におけるドメスティック・バイオレンス(DV)の実態を把握して国際比較を行うとともに、DVが女性の健康に及ぼす影響について研究することで、DVの防止に必要な社会的対応のあり方を検討することを課題とした。④村松は、不特定多数に向け発信されているマスメディア情報が女性の健康に及ぼす影響を知る目的で、思春期女子と中高年女性の2つの年代に焦点をあて、(1)大人向け雑誌における「女子高生」の性的商品化と思春期女子の性行動の変化に関する研究と(2)中高年女性におけるテレビ・雑誌からの健康情報獲得行動に関する研究を進めた。
研究方法
①樋口は、ワシントンD.C.などを訪問し、関連領域に関するヒアリング、試験調査を行うとともに、次年度に向けて海外との研究協力体勢をすすめ、内外の関連文献を検索した。また、神奈川、大阪、北九州における行政機関等と、全国ラジオ放送の啓発事例について、研究協力者が直接取材し討論の結果等をテープに収め、それを文章化し、さらに検討会議を通して分析を加え、報告書を作成した。②北村は、「思春期専門外来の設置状況に関する調査票」を作成し、日本思春期学会医師会員510名に対して調査票を送付し、179名から回答を得た(回収率35.1%)。また、日本家族計画協会が主催し、厚生省並びに日本思春期学会が後援して実施している『思春期保健セミナー』の修了者のうち2,648名に対して「全国思春期相談施設調査」を行った(回収率27.0%)。③戒能は、女性の健康の視点から、DVの先行調査の分析を行った。あわせて、アメリカにおけるDV調査研究の動向を紹介した。また、WHO企画の多国間研究本調査への準備として、WHO/WHDが開発中のコア調
査票を調整して、日本におけるプリテストを実施した。プリテストは任意の協力者を得て、WHD/WHOの研究プロトコルのチェックリストに基づき行い、その結果を分析した。さらに、本年度は、医療機関の対応の現状を明らかにするための第一歩として、医療機関へのインタビューを行った。また、取り組み先進国イギリスの医療機関向けガイダンスを翻訳して、内容を分析した。④村松は、大人向け雑誌における「女子高生」の性的商品化と思春期女子の性行動の変化を知るために、首都圏の2カ所の街頭で中高生女子121人に対して質問紙調査を行った。また、中高年女性がテレビ・雑誌からのどのような健康情報を獲得するための行動に出ているか知る目的で、浜松市の40~69歳の女性を対象に郵送による質問紙調査を行い、186人から有効回答を得た。
結果と考察
本研究を通じて、①樋口は、米国の更年期女性の家族的な悩みには「子どもの受験」が皆無であること、相談相手の第一位が「夫」(日本の第一位は「女友だち」)であること、ホルモン補充療法の普及が著しいことなど、日米の家族関係、社会環境の差が浮き彫りにされた感触を持った。また、三地域(神奈川、大阪、北九州)における更年期対応の活動は、実に多岐にわたっており、この年代の女性が抱える家族関係、社会関係の全体像を見る感があり、生活全体を把握しながら、症状として現れた「更年期」に対する専門家、担当者の養成、研究が急務であるとの結論に至った。②北村は、『思春期のための施設ガイドブック-思春期専門外来編』を中心にまとめた。その結果、全国で思春期外来を設置している施設数は104施設、106診療科目。診療科目別で分類したところ、都道府県別には、東京都が31施設で最多、ついで静岡県・宮城県7施設、北海道・千葉県・大阪府6施設、、神奈川県5施設などとなっていた。未設置県は14県(福井県、愛知県、滋賀県、三重県、京都府、奈良県、島根県、鳥取県、岡山県、山口県、大分県、宮崎県、佐賀県、長崎県)。また、これを標榜科目別にみると、産婦人科74施設、小児科9施設、精神・神経科17施設、泌尿器科6施設であった。これらの施設が、子どもから大人への過渡期にある思春期の特性を十分に踏まえた対応ができるような診療・相談ガイドラインの作成が急務であることを痛感した。③戒能は、日本では、女性の健康の視点によるDV調査数も少なく、調査方法も未開発であることを指摘した。しかし、数少ない調査結果からも、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの侵害など、女性の健康への深刻な影響が読み取れる。WHO多国間研究プリテストの実施により、調査項目や回答方法などの改善点が明らかになった。プリテストを実施したのは日本だけであったが、その成果は直ちに多国間研究・研究者会議での調査票検討に反映された。医療機関インタビューは、市立総合病院の救急医療チーム、婦人相談所嘱託の精神科医および産婦人科医師に行ったDV理解や他機関との連携の不十分さなど、医療機関の現状が明らかになった。イギリスの一般開業医向けのDVガイダンスは、社会構造的な視点に立ち、女性の自己決定権を重視したものであり、示唆的であるとした。④村松は、少女たちが街で年長男性から「援助交際」などを誘われた経験を尋ねたところ、75%が25歳以上の男性に声をかけられた経験を持ち、約半数が自分の父親と同じかそれ以上の年齢の男性に誘われていることを明らかにした。声をかけられた少女の約6割が金品の供与を示された。また、少女雑誌については90~96年に「女子高生」関連記事を掲載した一般誌など66誌の計668件の記事に関し、第一段階として見出しや写真を中心に分析した。ブルセラ・ショップが話題を呼んだ1993年以降、思春期の少女を性的商品として扱う記事が急増し、とくに96年には「女子高生」を「援助交際」に結びつける傾向が顕著になっている。マスメディアを介した「援助交際」なる語の普及は、年長男性が少女に接触を図る際の心理的バリアを下げる作用をしている可能性があり、今後詳細な内容分析をすすめ、問題を掘り下げることとした。一方、中高年女性が健康情報をどのようなメディアか
ら入手し、どう評価しているかについては、健康情報を扱うメディアで接触率の高いのは、雑誌では「NHKきょうの健康」(よく~たまに読む計51%)、テレビでは「おもいっきりテレビ」(82%)、「NHKきょうの健康」(64%)などであった。「おもいっきりテレビ」の視聴者は、60代の90%がテレビ番組は役に立つと答え、40代では40%近くが役に立たないと答えた。
結論
女性の健康問題は、生まれてから死に至るまでのあらゆる時期に関係しており、検討すべき課題は複雑多様であることは言うまでもない。しかも、良しにつけ悪しきにつけ、メディア情報からの影響が大きいことは明らかである。さらに最近では、女性の健康問題の一つとしてDVがクローズアップされてきている。このような意味からは、わが国におけるリプロダクティブ・ヘルス、換言すれば「生涯を通じた女性の健康づくり」の方向性やあり方を探るために、上記4つの課題を設定して行っている本研究班の現代的な意義は大きい。折しも、1999年は、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念を確立したカイロ国際人口開発会議(ICPD)5年後のフォローアップの年であり、「女性の生涯を通じた健康づくり」に国際的な関心が高まっている。本研究班は、ICPDプラス5会議において、わが国が国際的な評価を得るに十分な研究成果を上げ得るものと確信している。

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