周産期医療体制に関する研究

文献情報

文献番号
199800325A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期医療体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中村 肇(神戸大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 多田裕(東邦大学医学部)
  • 三科潤(東京女子医大母子総合医療センター)
  • 大野勉(埼玉県小児医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成8年5月10日児発第488号厚生省児童家庭局長通知「周産期医療対策整備事業の実施について」により各地で周産期医療システムの整備が計画され、実施に移された地域もある。しかし、現状では実施要項通りの整備が困難な地域も多い。そこで、各都道府県の周産期医療体制、総合周産期母子医療センターの整備状況の調査、全国の周産期・新生児医療施設の実態調査を行い、地域の周産期医療システムの整備を促進するために、現在の問題点と今後の改善策を明らかにすることを目的に研究を行った。
研究方法
研究1.「総合周産期母子医療センターの整備状況と周産期医療体制に関する研究」平成10年12月末現在で総合周産期母子医療センターの指定を受けている13施設にアンケート調査を依頼したところ、うち11施設〔9都道府県)から回答を得た。調査内容は、1)当該都道府県における周産期医療体制の整備状況について、2)総合周産期母子医療センターの規模と運営状況についてである。また、研究協力者として専門家の参加を求め、フォ-ラムを開催し問題点について討論した。
研究2.「全国の周産期・新生児医療施設の実態に関する調査研究」
100床以上の病院で産科、小児科の両者を備えている施設、総合小児医療施設、及び周産期医療施設等のハイリスク新生児を扱う1000施設に対して平成10年10月20日にアンケート調査票を発送、12月28日現在までに回答のあった449施設(回収率44.9%)につき第一次の調査結果の解析をした。
研究3.「ハイリスク児のフォロ-アップ体制に関する研究」
我が国のフォロ-アップの現状を調査し、体制整備のために必要な要件を検討するために、1998年11月に極低出生体重児の入院を扱った経験を持つ、全国281施設に対し、郵送法にて、自施設を退院したハイリスク児のフォロ-アップ体制について、アンケ-ト調査を行った。また、1995年出生のハイリスク新生児全国調査に登録された超低出生体重児2,477人について、1998年に3歳時の予後調査を実施した。
近年、極低出生体重児の肝芽腫が増加しており、この増加が超低出生体重児の肝芽腫の増加によることに起因しているという報告がなされているので、周産期医療の全国実態調査を機に周産期医療の側から肝芽腫発症の調査を行った。
結果と考察
「総合周産期母子医療センターの整備状況と周産期医療体制に関する研究」から問題点として挙げられたのは、1)国の補助金が交付されるセンタ-は当面、都道府県に1カ所であるが、人口が多い地域では複数の周産期医療のセンタ-の整備が必要であり、これらの施設には都道府県からの運営補助金、あるいは社会保険上での措置が必要である。
2)後方病床の8床当たり常時1名の看護婦の配置は医療機関の負担が大きいので、新生児集中治療管理室加算に準じた医療費の加算(例えば新生児強化治療室管理加算)が必要である。地域周産期母子医療センタ-にも、これに準じた加算が認められれば、その整備の促進が期待される。
3)母体胎児集中治療室(MFICU)に関しては、現状の規定通りの整備が可能な施設がない地域が多い。この様な地域では、新生児集中治療室(NICU)が整備され、かつ今後の整備計画が妥当であれば、当面はMFICUが9床に満たなくてもセンタ-に指定することが必要である。
4)現在の社会保険上のMFICUの施設基準は、プライバシ-が必要な産婦人科重症患者の特殊性を反映していない。1床あたり15m2を有する区画の中に、病床間の隔壁、通路部分、看護記録部門などを含むことが適当であり、常時3床に1名の看護婦が勤務していれば、この様な施設でも集中治療は可能である。
5)各地の周産期医療施設の医師不足の実態が明らかになった。解決策として定員枠を拡充し、周産期医療を目指す若手医師の養成が緊急に必要である。
「全国の周産期・新生児医療施設の実態に関する調査研究」では、ハイリスク新生児取り扱いを行っている449新生児医療施設のうち、401施設(総病床数は4480床、一施設平均=11.3床)から回答を得た。施設規模別にみると未熟児新生児病床が1-5床の小さい施設が全体の43.9%を占め、20床以上の施設はわずかに64施設、31床以上になると23施設しかなく、周産期医療対策事業の中核として総合及び地域周産期医療センターとなり得る施設の整備が十分でないことが明らかとなった。特に施設設備の不備、病床不足に加え、人員の不足は深刻である。従って、地域周産期医療システムを整備するにあたっては、中核となり得る施設の人員確保と設備整備のための強力な行政的支援が必要である。また、地域における周産期医療施設にあっては、その能力を最大限に発揮するために機能分担を図りつつ、情報システム、研修体制、相互診療支援などによる施設間協力を推進する必要がある。
「ハイリスク児のフォロ-アップ体制に関する研究」では、NICUを持つ281施設に対するハイリスク児のフォロ-アップ体制に関するアンケ-ト調査から、65%の施設でフォロ-アップ体制の整備が不充分なこと、特にマンパワ-の不足が明らかになった。今後は周産期医療体制整備の中で、フォロ-アップ体制整備を合わせて検討・評価する必要がある。また、フォロ-アッププログラムを持たない施設が相当数あったため、極低出生体重児の4つのkey-ageにおけるフォロ-アップのマニュアルを作成した。
わが国における超低出生体重児の3歳時予後の推移をみる目的で1995年出生の超低出生体重児を対象に全国調査を実施した。その中間集計結果では、総合発達評価では正常と判定されたものは640例中455例(71.1%)、境界は80例(12.5%)、異常は105例(16.4%)で、前回の1995年度の調査とほぼ同様であった。脳性麻痺の頻度は15.6%と前回の12%に比して有意に高くなっていた。本調査結果をもとに、地域での周産期医療データベース化のあり方について、今後は検討していく予定である。
「肝芽腫と極低出生体重児の関連性についての研究」では、周産期医療の側からの追跡調査で極低出生体重児において肝芽腫の発症が増加しているかどうかを検討したところ、極低出生体重児での肝芽腫発症率は高いと考えられた。日本小児がん登録と周産期医療側からの全国実態調査とを付き合わせることにより、より具体的な対策を検討したい。
結論
今後地域の周産期医療の整備を行うためには、地域の中心となるセンタ-施設を整備することがまず必要である。このために地域の周産期医療の現状に合った地域周産期医療施設の整備と要員確保のための対策が必要であり、その方策につき検討し、以下のごとく提言した。
1)平成10年12月末現在で、9都道府県で、13施設が総合周産期母子医療センターの指定を受けているに過ぎず、周産期医療対策整備事業が円滑に進んでいるとはいえない。
2)全国の周産期・新生児医療施設の実態調査の結果、周産期医療対策事業の中核として総合及び地域周産期医療センターとなり得る施設の整備が十分でないことが明らかとなった。特に施設設備の不備、病床不足に加え、人員の不足が最も深刻である。従って、地域周産期医療システムを整備するにあたっては、中核となり得る施設の人員確保と設備整備のための強力な行政的支援が必要である。
3)後方病床の8床当たり常時1名の看護婦の配置は医療機関の負担が大きいので、新生児集中治療管理室加算に準じた医療費の加算(例えば新生児強化治療室管理加算)が必要である。地域周産期母子医療センタ-にも、これに準じた加算が認められれば、その整備の促進が期待される。
4)総合周産期母子医療センタ-は都道府県に1カ所とされているが、人口の多い都道府県では1カ所のみで全ての重症症例を扱うことは出来ず、複数のセンタ-の設置が必要である。一方、地域によっては、現在の様な規模のセンタ-を整備することが不可能な地域もあり、MFICU病床数が規定より少なくても後方病床を利用した医療が可能であればセンタ-に指定し、実績が向上するに従って整備を進めることも必要であろう。
5)産婦人科医療の特殊性を考慮したMFICUの基準の変更の必要性は、周産期医療現場からの要望が強く、早急に検討が望まれる。都道府県によっては、複数の総合周産期母子医療センターを必要とすることから、総合周産期母子医療センターへの補助事業とは区別して、社会保険上でのMFICUの施設基準として別途に定めるのが妥当であり、周産期医療対策整備事業の推進には不可欠な要因である。
6)総合周産期母子医療センターが設置された府県でも、未だベッド数が不足し、まだ充足された周産期医療体制にはなっていないところがある。とくに人的要員確保、医師の確保が大きな問題であることが明らかとなった。周産期医療対策整備事業が各都道府県で円滑に実施されていくには、設置後にも地域周産期医療体制、総合・地域周産期母子医療センターの整備状況を評価する機構を設けることが必要であろう.

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