後障害防止に向けた新生児医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800324A
報告書区分
総括
研究課題名
後障害防止に向けた新生児医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小川 雄之亮(埼玉医科大学総合医療センタ-小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 小川雄之亮(埼玉医科大学総合医療センタ-小児科)
  • 仁志田博司(東京女子医科大学母子総合医療センタ-)
  • 藤村正哲(大阪府立母子保健総合医療センタ-)
  • 戸苅創(名古屋市立大学医学部小児科)
  • 上谷良行(神戸大学医学部小児科)
  • 白木和夫(鳥取大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少産少死のわが国にあっては、救命されたハイリスク児の質が問題であり、次代を担う新生児の救命の質的向上こそ現在最も求められている命題である。従来から後障害なき救命に向かっての諸種の努力がなされてきたが、多くは経験主義に基づくものであった。現在求められているのは経験ではなく、科学に裏打ちされたものであり、新生児のケアにもevidence based medicineが導入されれば、科学的に裏打ちされた対策の確立が期待される。新生児期に障害を防止することによって、本人のquality of lifeが保証されることは勿論、障害児医療福祉事業に要する費用の大幅な低減が可能となり、医療経済的にも大きな成果が得られるものと期待される。本研究においては、新生児死亡率世界一の低率を達成したわが国において、単に救命するのみではなく、後障害なき救命(intact survival)を達成するために、新生児期のケアが如何にあるべきかを、まず現状の分析を行い、さらにevidence based medicineの立場でその対策を確立することを目的とする。
研究方法
上記目的を達成するために未解決の6課題を選び、主任研究者を含む6名の分担研究者が6課題について調査研究を行った。小川雄之亮は「ハイリスク児の養育環境に関する研究」を担当し、NICUにおける保育器内外の騒音調査を行った。仁志田博司は「ハイリスク新生児の感染症防止対策に関する研究」を担当し、現在わが国で流行の兆しを見せている、TSST-1産生MRSAによる血小板減少を伴う新生児TSS様発疹症について研究した。藤村正哲は「超低出生体重児の後障害なき救命対策に関する研究」を担当し、超低出生体重児のケアへのevidence based medicine導入にため、研究ネットワークの構築とRCTの準備を行った。戸苅創は「新生児の虚血性脳障害予防に関する研究」を担当し、PVLの疫学調査を行った。上谷良行は「後障害防止の観点からみた新生児栄養管理に関する研究」を担当し、NICU退院後の極低出生体重児の哺乳量調査を行った。白木和夫は「ウイルス母子感染防止に関する調査研究」を担当し、B、C型肝炎母子感染について調査を行った。
結果と考察
「ハイリスク新生児の養育医療環境に関する研究」では、中規模NICUにおいて保育器内外の騒音について調査し、手入れがよければ古い保育器でも騒音に関して劣化は起こらないこと、モニタ同期音は保育器内にほとんど伝達されないこと、保育器の窓の開閉時に保育器内の騒音が最も大となることが明らかにされた。これはハイリスク新生児のケアは、単に体温保持や感染隔離の観点のみではなく、音環境の面からもラデイアントヒ-タベッドではなく、閉鎖式保育器に収容して行うべきことを示すものである。本年度は一般的な中規模NICUでの調査であったが、次年度以降は大規模施設、小規模施設との比較を行う必要があろう。「ハイリスク新生児の感染防止対策に関する研究」においては、TSST-1産生MRSAによる新生児TSS様発疹性疾患は日本全国に広まっていること、その流行に母体の低い抗毒素抗体保有率が関与していること、本症が通常軽症に終わるのは主に毒素特異的免疫寛容とdeletionが誘導されることによること、また、新生児では臍と消化管がMRSAの重要な定着部位であることが明らかにされた。母体の抗毒素抗体保有率と発症との関係はGBS感染に類似した点があり、今後の予防対策上重要な知見である。次年度以降では有効なスキンケアの方
法の確立が望まれる。「超低出生体重児の後障害なき救命に関する研究」では、新生児医療における臨床研究を推進するため、新生児集中治療の専門医療機関群によるネットワ-クを構築し、evidence based medicineを確立するためのインフラストラクチャ-を構築した。インタ-ネットを通して対象の登録を24時間受けつける方式は新しい試みで、その成果が期待される。「新生児の虚血性脳障害予防に関する研究」では、脳室周囲白質軟化症(PVL)の発症頻度の年次推移に関するアンケ-ト調査を行い、1990/1991年、1993/1994年、1996年で、エコ-診断では各4.3%、4.9%、5.6%、MRI/CT診断で各8.6%、10.3%、10.8%と、エコ-、MRI/CT診断ともに増加傾向にあることが判明した。有効な治療法がない今日、理論的に可能性のある予防法のRCTによる早期の検討が望まれる。「後障害防止の観点からみた新生児栄養管理に関する研究」においては、NICU退院後の栄養管理に対する認識についてのアンケ-ト調査で、現在の栄養管理では満足しておらず、低出生体重児の退院後に専用のフォロ-オンミルクの開発を望む意見が強かったことが明らかにされた。また、退院後の哺乳量調査において、一時的ではあるが体重1Kg当たり300ml近く摂取する場合があり、フォロ-オンミルクの開発に際して注意を要する点であることが示された。「ウイルス母子感染防止に関する調査研究」では、経年的調査によりB型肝炎母子感染防止事業が開始された1986年以降に出生した児ではHBs抗原陽性率が0.03~0.06%で、それ以前に出生した例の1/10に低下していることが明らかとなった。また、感染防止が保険適応となったため、感染防止実施状況調査システムを鳥取県で構築し試行した。C型肝炎の母子感染については、前方視的調査でおおむね10%の児に感染が認められた。C型肝炎に関しては有効な治療法や予防法がない今日、母子感染ハイリスク因子の検索が重要であろう。
結論
本年度の研究において以下の結論を得た。1)NICUでの保育環境に関して、騒音は保育器内で有意に低く、騒音遮断の面からも新生児は閉鎖式保育器でのケアが望まれる。但し保育器の窓の開閉時の騒音は大きく、留め金などの改良を要する。2)TSST-1産生MRSAによる新生児TSS様発疹症の頻度は増加しつつあり、発症は母親の抗毒素抗体保有率に関連する。予防には臍部を中心とした効率のよいスキンケアの確立が望まれる。3)超低出生体重児のケアへのevidence based medicine導入のため、新生児医療専門施設研究ネットワ-クを構築し,RCTの準備を行った。4)PVLの疫学調査を行い、その頻度はなお微増しつつある。5)NICU退院後の栄養管理にフォロ-オンミルクの開発が必要である。しかしその際には哺乳量調査の結果を反映させる必要がある。6)B型肝炎母子感染対策は極めて順調であり、母子感染率は従来の1/10になった。一方、C型肝炎の母子感染率は約10%であった。感染ハイリスク因子の更なる検討が望まれる。以上は初年度の研究成果であり、今年度の研究成果をもとに、次年度、次次年度と更なる研究が続けられ、所期の目的が達成されるものと期待される。 

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