多剤耐性菌感染症の疫学と国内における対応策に関する研究

文献情報

文献番号
201405004A
報告書区分
総括
研究課題名
多剤耐性菌感染症の疫学と国内における対応策に関する研究
課題番号
H26-特別-指定-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大石 和徳(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 石井 良和(東邦大学 医学部)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 齋藤 智也(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 鈴木 里和(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 朝野 和典(大阪大学 医学部附属病院感染制御部)
  • 山岸 拓也(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,520,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班 の目的は、1)わが国の耐性菌に関する疫学的情報を集約し、薬剤耐性菌の疫学的特徴を把握すること、2)2014年に関西地区の中核病院で発生したカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)院内感染事例の感染伝播様式を明らかにし、その可能な対応策を提示すること、3)国内の薬剤耐性淋菌の実態を把握し、治療方法を提示することにある。
研究方法
MDRA感染症、CRE感染症の報告を感染症発生動向調査のデータベースから2015年2月3日(CRE)、2月10日(MDRA)に抽出し、疫学的解析を行った。2011年から2014年12月に、関西地区の中核病院で分離されたCREで、保健所を通じて国立感染症研究所に行政検査が依頼された186株を対象とした。
PCR法による薬剤耐性遺伝子の検出、PFGEによるタイピング解析(S1-PFGEによるプラスミドの分離精製、プラスミド断片の配列解読を行った。また、プラスミド配列解析:実施した。

結果と考察
 CREは317例の報告(腸内細菌科細菌以外の5例を除く)があり、分離菌はEnterobacter属166例(53%)が最も多かった。男性が192例(61%)、年齢中央値は76歳(範囲0-99歳)であり、尿路感染が最も多かった。MDRAは17例の報告があり、男性が14例(82%)、年齢中央値は68歳(範囲35-89歳)であり、肺炎が最も多かった。
 関西地区の中核病院におけるCREによる大規模な院内感染事例が明らかになり、2014年2月21日より感染研のFETPによる実地疫学調査が実施された。2013 年7 月1 日から2014 年3月15日の期間に、中核病院においてMBL-Entが分離された入院患者が計29症例確認された。性別は男性が20 例(69%)、年齢の中央値は76 歳であった。症例対照研究を行ったところ、膵頭十二指腸切除術、透視室でのドレーン入れ替え、腹腔吸引・洗浄、腸瘻造設・使用がリスクとして認められた。
 関西地区の中核病院で発生したCREによる大規模な院内感染に関して、国立感染症研究所で行政検査として菌株の解析を実施した。多くの株でIMP-1型メタロ--ラクタマーゼ遺伝子及びCTX-M-2グループの基質拡張型-ラクタマーゼ遺伝子が共通して検出された。PFGEによるタイピング解析の結果、K. oxytocaでは、同一パターンの株が多くみられたため、クローナルな菌株が伝播したと考えられた。これらの菌株からIMP-1型MBL遺伝子を持つプラスミドを抽出し、全塩基配列を決定し解析したところ、多くの株でblaIMP-6を含むInc Nプラスミド、及びInc Nプラスミドと他のプラスミドが融合したと考えられるプラスミドが検出された。
 本事例の2011~2014年に分離されたCREの全プラスミドの配列解析を行った。網羅的全プラスミド解析の結果、blaIMP-6を持つプラスミドは、主にincompatibility group (Inc) Nレプリコンに属するプラスミド上に存在したが、全てのInc Nプラスミドは完全に一致するものではなく、部分的な配列の変異もしくは欠失を生じていた。
 関西地区の中核病院周辺の9医療機関で分離された28株由来29プラスミドの解析を実施した。29プラスミドのうち、A病院分離株と同じblaIMP-6を保有するプラスミドが22個(76%)、異なる型であるblaIMP-1を保有するプラスミドも7個(24%)分離されていた。 関西地区の中核病院のCRE院内伝播事例において分離された
関西地区の中核病院において、CREによる院内感染対策にblaIMP-1型のプライマーを用いたLAMP法による迅速スクリーニング法を導入し、陽性者のコホーテイングを行った結果、新規の感染例を大幅に減少させた。
京都/大阪の泌尿器科クリニックにおける淋菌分離株の薬剤感受性試験を実施し、その耐性度を検討した。第一選択薬として推奨されているセフトリアキソンに対する感受性は最小発育阻止濃度 (MIC) 0.125 µg/ml以上の株が14.9%を占めていた。
 世界保健機関による薬剤耐性に関する世界行動計画の採択に伴い2年以内の国家行動計画策定が必要である。
結論
 2014年3月に関西地区の中核病院において、腸内細菌科細菌の菌種を超えて水平伝達し、それぞれの株が患者間に伝播した可能性が示された。また、blaIMP-6を含む約50kbpのInc N型プラスミドが、2011年よりK. pneumoniaeをはじめとする腸内細菌科細菌の菌種を超えて水平伝達し、それぞれの株が患者間に伝播したことが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201405004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
関西地区の中核病院で発生したカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE)による院内感染において、多くの株でIMP-1型メタロ--ラクタマーゼ遺伝子及びCTX-M-2グループの基質拡張型-ラクタマーゼ遺伝子が共通して検出された。これらの菌株からIMP-1型MBL遺伝子を持つプラスミドを抽出し、全塩基配列を決定し解析したところ、多くの株でblaIMP-6を含むInc Nプラスミド、及びInc Nプラスミドと他のプラスミドが融合したと考えられるプラスミドが検出された。
臨床的観点からの成果
関西地区の中核病院におけるCREによる院内感染において、実地疫学調査を実施した。2013 年7 月1 日から2014 年3月15日の期間に、中核病院においてMBL-Entが分離された入院患者が計29症例確認された。性別は男性が20 例(69%)、年齢の中央値は76 歳であった。症例対照研究を行ったところ、膵頭十二指腸切除術、透視室でのドレーン入れ替え、腹腔吸引・洗浄、腸瘻造設・使用がCRE保菌のリスクとして認められた。
ガイドライン等の開発
院内感染中央会議(平成27年2月2日)において、研究班で解析したCREの感染症発生動向調査の結果が報告された。
その他行政的観点からの成果
平成26年9月からCREが5類感染症(全数把握疾患)となった。
その他のインパクト
関西地区の中核病院における調査結果が、読売新聞(平成27年3月8日)に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanayama A, Kawahara R, Yamagishi T, et al.
Successful control of an outbreak of GES-5 extended-spectrum -lactamase producing Pseudomonas aeruginosa in a long-term acute care hospital in Japan.
J Hosp Infect , 93 , 35-41  (2016)

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
2019-06-23

収支報告書

文献番号
201405004Z