マススクリーニングの見逃し等を予防するシステムの確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800322A
報告書区分
総括
研究課題名
マススクリーニングの見逃し等を予防するシステムの確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
黒田 泰弘(徳島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田泰弘(徳島大学)
  • 青木継稔(東邦大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新生児マススクリーニングシステムの精度を維持・管理して見逃し等を予防するためには採血から治療までの個々のプロセスにおけるきめ細かな方針を決めなければならない。マススクリーニングの全検査プロセスにおいて可能なかぎりコンピュータ処理を行うことは有用であり,このための全国統一ソフトの制作が望まれる。また,効果的なマススクリーニングを実施するためには、現行マススクリーニング法の技術的改良と新しいマススクリ-ニング法の導入、個人のプライバシー等倫理面へ配慮したフォローアップシステムの構築・運用、より効果的な新しい対象疾患のマススクリーニング事業への導入が絶えず検討されなければならない。そこで、本研究では、これらの諸課題について検討し、その結果が行政施策に反映されることを目的とした。
研究方法
研究方法と結果=マススクリーニング検査前精度管理のために、採血日時と検査値について検討した。スクリーニング検査実施要項では検査のための採血日は5~7日目となっているが、93%の採血機関では4~6日目と採血時期が早くなっていた。日齡3~8日目の各出生日毎のTSH、17-OHP、フェニルアラニン、分枝鎖アミノ酸の値には差違は見られなかった。一方、出生体重2,000g以下の未熟児に対する2回採血のガイドラインは、41.5%の機関で守られていなかった。マススクリーニング検査の精度管理のために、内部精度管理システムとスクリーニング・ネットワーク構築のための全国統一ソフトの作成を試みた。全国の新生児スクリーニング検査実施施設のデータ解析と内部精度管理の現状分析、本統一システムに必要な機能の仕様を検討し、システム概要設計と詳細設計の一部を行った。また、新しい検査法として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)短時間法を検討したが、先天性代謝異常のマススクリーニング検査法の一つとして有用であった。スクリーニング検査後の精度管理として、新生児マススクリーニング検査見逃し例における見逃しの原因について調査・検討した。新生児マススクリーニングで発見されなかったクレチン症13例と先天性副腎過形成8例とが全国アンケート調査で見出された。クレチン症13例中2例は産科での検体取り違え、10例はTSH遅発上昇性のクレチン症、1例は再採血時の静脈採血で発見された。先天性副腎過形成8例中6例はマススクリーニングの結果は正常であった。残る2例では副腎過形成のスクリーニング検査が実施されていなかった。ホモシスチン尿症のマススクリーニングで発見された兄と見逃された妹のシスタチオニン合成酵素遺伝子の異常は同一であり、新生児期におけるシスタチオニン合成酵素以外のメチオニン代謝関連酵素の発達速度の差による見逃しが推測された。また、新生児期のT4(FT4)、TSH同時スクリーニングにより二次性甲状腺機能低下症と一過性中枢性甲状腺機能低下症が札幌市と神奈川県でそれぞれ6万人に1人と9.2万人に1人の頻度で発見された。追跡調査の確立のために、倫理面を含めた追跡調査のあり方についてアンケート調査を実施し、個人情報を保護しながら、全国レベルでの追跡調査の体制の確立が必要であることが確認された。新しい対象疾患の導入のためにウィルソン病、有機酸代謝異常症、ムコ多糖症と胆道閉鎖症のパイロットスタディを実施した。ウィルソン病では、1~7歳児を対象とした採血によるスクリーニングで5名の本症患者が、尿によるスクリーニングでは2名の患者が発見された。有機酸代謝異常症では、濾紙尿あるいは原尿を用いたGC/MS分析法を中心として実施されメチルマロン酸血症、プロピオン酸血症などが発見された。ムコ多糖症では、乳児早期から6ヶ月
児尿を用いたジメチルメチレンブルー呈色反応法が実施されが患者の発見には至っていない。胆道閉鎖症では、便色調カラーカード法が実施され、患児が発見された。
結果と考察
考察=新生児マススクリーニング検査において見逃しを予防するためには採血から治療までの個々の過程におけるきめ細かな方針を決めるとともにそれを厳守することが第一である。また、発見された患児のフォローアップ調査結果に基づいてその方針の見直しも実施しなければならない。さらに新しい検査方法、新しい機器および新しいシステムの導入も考慮しなければならない。最近、出産後の退院日が早まるにつれて採血が生後3、4日目でなされる場合がある。本研究結果からは生後3~8日目、とくに、生後4~6日目採血は妥当であることが確認された。しかし、出生体重2,000g以下の低出生体重児は、生後1ヶ月後か体重が2,500gに達した時期に2回目の採血をすることが実施されておらず指導改善が必要である。新生児マススクリーニングの対象疾患であるフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症の検査法として厚生省はガスリー法の使用を勧告した。その後、フェニルケトン尿症とメープルシロップ尿症については脱水素酵素・マイクロプレート法の使用が認められた。本研究で検討したHPLC短時間法も有用であり新生児マススクリーニングの一次検査法の一つとして認められることが望まれる。また、マススクリーニング検査でホモシスチン尿症患児の見逃しを予防するためには、血中ホモシスチン値などを指標にした新しいスクリーニング法の確立が必要である。全国各自治体のマススクリーニング検査施設で用いられている検査法、検査機器、単位、カットオフ値などは必ずしも同一でなく全施設間でデータを比較することができない。データ解析と内部精度管理のための全国共通ソフトを作成し、データ処理システムのネットワークを構築すれば全国検査施設の検査能力を一定水準以上に保つことが容易になる。本年度はシステム概要設計と詳細設計の一部を行ったばかりであるが来年度以後の発展が期待できる。全国アンケート調査により新生児マススクリーニングで発見されなかったクレチン症と先天性副腎過形成の症例が見出された。発見されなかった原因を徹底的に分析してその結果をマススクリーニング検査システムの改善に役立てなくてはならない。マススクリーニングの新しい対象疾患としてウィルソン病、有機酸代謝異常症、ムコ多糖症および胆道閉鎖症が研究されている。ウィルソン病において幼児期中心のパイロットスタディにて7例の患者の発見があり、有用性が示された。有機酸代謝異常症は、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症のほかに多くの代謝異常の発見があり新生児尿によるスクリーニングの有用性がクローズアップされた。ムコ多糖症は、新生児尿、1ヶ月児尿あるいは6ヶ月児尿のいずれかで行うか、パイロットスタディにおける患者の発見に努めることが重要である。胆道閉鎖症スクリーニングは簡便な方法であり、今直ちに導入することも可能であると考えられる。しかし、クレチン症のマススクリーニングへのT4、TSH同時測定を含め新しい対象疾患の導入を実施する場合には、有効性、費用/効果分析などマススクリーニングの施行に関するガイドラインに沿って十分な検討がなされなければならない。
結論
新生児マススクリーニング検査での見逃しを予防するためのポイントは、(1)採血から治療までの各過程におけるきめ細かい方針を定め、厳守させる、(2)コンピュータ処理およびコンピュータ・ネットワーク構築により各過程の全国統一を図る、(3)追跡調査により見逃し例等を徹底分析して各過程の改善・刷新を実施することである。また、新しいマススクリーニングあるいは新しいマススクリーニング検査法を導入するに当たっては有効性、費用/効果分析など十分な検討が不可欠である。

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