母子保健事業の効果的な展開に関する研究

文献情報

文献番号
199800318A
報告書区分
総括
研究課題名
母子保健事業の効果的な展開に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 尚美(杏林大学保健学部看護学科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本喜代子(日本助産婦会)
  • 平澤美恵子(日本赤十字看護大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
53,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、我が国は本格的な少産・少子社会を迎え、どの子どもも貴重児であり、母子保健の領域においても、特に周産期の管理を中心に安全性が最優先課題となっている。子産み,子育ての環境は、核家族化、都市化、女性の社会進出等により大きく変化し、マタニティブルー,乳幼児虐待,子どもの暴力の増加等が問題化してきている。また、わが国の母子保健水準は世界でも高水準を保っているが、妊産婦死亡や十代の人工妊娠中絶等についての問題が残されている。また、ハイリスク母子、思春期の問題、不妊、婦人科疾患、更年期のトラブルで悩む女性も増加している。母子を取り巻くこのような情勢の中で母子保健活動の担い手としての助産婦に求められるサービスは、女性の一生を通して住民の最も近いところでの支援が求められている。また、専門性に基づいた質の高いケアが要求されるようになってきている現状である。
昭和30年には約55,000人いた助産婦は現在約24,000人にまで減少し、マンパワーとしては十分とはいえない状況である。24,000人の約8割は病院・診療所等の施設の勤務助産婦であり、地域における開業助産婦は約2,500人と少数である。今後、助産婦のマンパワーの量,質や働く場のあり方を早急に検討する必要があると考える。そこで、本研究では以下の3研究課題を設定した。
1)地域母子保健活動の主な担い手である開業助産婦の活動の実態を調査し、その機能・  問題点・課題を明らかにし、マンパワーの活用について検討する。
2)病院施設助産婦が行う妊産婦へのケアの質を明らかにする。
3)海外の助産婦活動の動向を知り、わが国におけるこれからの助産婦のあるべき方向性  について検討する。
以上から、今後の助産婦のマンパワー計画、助産婦の効率的活用について提言する事を目的とした。
研究方法
1)開業助産婦の実態とその機能・問題点については、(社)日本助産婦会会員で助産所部会  会員と保健指導部会会員の2,265名を対象に郵送によるアンケート調査を行った。調査  期間は平成10年10月25日から11月23日までの30日間とした。調査内容は助産所内及び  助産所外の業務内容および件数、電話相談内容,件数等である    (分担研究者:岡本喜代子)
2)病院施設助産婦の看護行動のタイムスディを行い実際の看護量と質の検討を行った。調査期  間は、平成10年11月12日の日勤帯から14日の深夜帯までの48時間で、41~45名の入院  対象者(妊婦、褥婦、新生児、家族)に対して、越河六郎氏案の看護業務分類基準に  即してタイムスタデイを30秒スナップで行った。       (分担研究者:平澤美恵子)
3)先進国の助産婦の業務及び教育の実態について米国,英国の視察およびそこで働く助産  婦からの聞き取り調査及び文献調査、国際会議に出向き聞き取り調査を行った。
(分担研究者:加藤 尚美)
結果と考察
1)アンケート回収率は62%であり、その有効回答率は40、5%であった。地域で活動する助 産婦の活動の実態として①市町村委託業務に地域で活動する助産婦の8割以上が従事しており市町村の母子保健事業全般に大きく貢献していた。②有床開業者は助産所以外において、健診,相談,分娩、学級活動など多岐にわたって1日17時間と長時間活動をしていた。③無床開業助産婦は乳房ケア,相談業務を主として女性の全ライフサイクルに関連した相談に丁寧に対応していた。④電話相談は、1件当たり約10分の相談が昼夜問わずあり、電話番号を公開していない助産婦(無床開業、未開業)にまで面識のない者からも電話があり応答している。⑤地域で活動している助産婦の業務は無料で活動している電話相談等の福祉的な業務が多いことが解った。このような結果から開業助産婦は市町村の母子保健事業に大きく貢献している。また、電話相談等福祉的業務に多くの時間を割き長時間の労働をしており、今後も昼夜を問わない電話相談へのニーズは高いと思われることから、24時間体制の公的電話相談窓口の設置が望まれる。
2)業務分類21項目中多い順から①身の回りの世話(23.0%)②書類の記録・点検(16.1%)③報告・連絡・情報収集(14.7%)④観察・巡視(7.5%)⑤私用・他(7.89%)⑥オリエンテーション・指導(6.2%)であった。身の回りの世話は日勤・準夜・深夜帯共に多く褥婦は24時間通してケアを必要としている事が明らかになった。産褥経過毎には、産褥日齢が進んでも個別的に保健指導など助産婦のケアを必要としている。24時間にわたり身の回りの世話を必要とする内容には、正常経過を辿る褥婦のケアの他に、乳房のトラブル、妊娠中毒症後遺症のケア、未熟児出産の母親へのケアなど、対象の個人的なニーズの量が高い人への関わりが多く、褥婦は個別性に基づいたケアを必要としていることが明確化した。
3)先進諸外国における助産婦活動及び助産婦教育についての調査から、アメリカの助産婦は女性からの支持を受け、また医療経済の側面からも助産婦の活動は安全で、コスト・エフェクティブがあることが評価された。米国の助産婦達はこのような中で教育や社会的な役割を思考錯誤しながら変革し続けてきた。1963年の助産婦数は275人から1997年には6953人と増加し臨床業務や教育に従事している。助産婦の68%は修士の学位を有し、4%の助産婦は博士の学位を取得している。1998年から、47州で薬剤の処方権が認められている。1998年助産婦教育機関は50校でその内45校が修士課程に位置していたが1996年6月からすべて修士課程に移行したため学士以上が入学の基準となっている。また,新しい助産婦教育課程としてダイレクト・エントリーがあり、1998年には修士課程として位置付けられた。このことは、医療経済面の側面から助産婦のケアは安全で経済効果があることが明らかになったことや、女性(消費者)からも助産婦のケアが評価されたこともあって、ニューヨーク州では、助産婦教育に補助金を出すことになりダイレクト・エントリーが実現している。
英国では1902年ごろより助産婦は医師について学び助産婦は正常分娩介助をする人として自らの地位を守るため、基準を設け助産婦を確立していった。1948年ごろよりNHSが確立し助産婦による家庭訪問が開始されている。出産は国営の医療保健制度と日本の医療背景とは大きく異なるが、多くの出産は、NHSの病院で助産婦の主体的な関わりによる出産が行われている。入院期間は短いが退院後のフォローが十分にされている。施設内助産婦によるプライマリイケアや地域の助産婦による退院後のサービスが確実にされるようなシステムが作られておりケア・サービスが徹底している。助産婦は、正常分娩は、助産婦の責任で分娩介助を行っている。また、医師と助産婦の役割は明確で正常分娩は助産婦ですべての管理を行い、異常時は医師に任される。意識も明白で医師と助産婦の連携はスムースである。また、助産婦自らその業務の責任を負うという観点から、病院で働く助産婦は11£/月、開業助産婦は132£/月の保険をかけている。助産婦の教育は看護婦の免許取得後18ヶ月のコースと看護婦免許を必要としないダイレクト・エントリィコースの2つがある。免許登録や試験はUKCCで行われ、免許更新は3年毎に行っている。助産婦は社会の変化と共に、専門職として位置付けられ活用されている。
結論
1.開業助産婦は市町村委託事業をはじめ電話相談等活動の実態が明らかになった。
2.病院で働く助産婦の看護行動から褥婦のケアの必要性が明確になった。 
3.助産婦の教育,卒後の継続教育,活動の方法、免許更新等の検討が必要である。

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