東アジア地域における新たな介護制度の創設過程とわが国の影響の評価等に関する研究

文献情報

文献番号
201401001A
報告書区分
総括
研究課題名
東アジア地域における新たな介護制度の創設過程とわが国の影響の評価等に関する研究
課題番号
H24-政策-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小島 克久(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 周三(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
  • 増田 雅暢(岡山県立大学 保健福祉学部)
  • 金 貞任(キム ジョンニム)(東京福祉大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,554,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化は、わが国や欧米諸国だけでなく、東アジアでも進んでいる。特に韓国や台湾では急速な高齢化が見通されており、高齢者介護制度の構築が急務となっている。実際に、韓国では老人長期療養保険(介護保険)が実施され、台湾でも介護保険の実施が検討されている。これらの国や地域では、社会保障制度の創設過程でわが国を含む諸外国の経験を参考にすることが多い。そこで本研究は、東アジアの中で高齢化が急速に進む韓国、台湾の新たな介護制度の創設過程で、わが国の経験がどのように検討され、制度構築の参考にされたか否かを明らかにすることを目的に実施した。
研究方法
研究方法として、台湾の地域別の社会経済の格差について統計データを用いた分析を行った。一方、韓国と台湾の介護制度(創設過程および制度の現状と課題)については、それぞれの国や地域の政策当局の資料(審議会の議事録など)、立法当局の資料(会議録)などを収集して分析を行った。これを補足するために、政策当局者や研究者、福祉関係者へのヒアリングも行った。今年度は、わが国が採らなかった、直面していない側面に重点を置いた。台湾は介護保険の検討の動き、原住民族へのケアサービス、外国人介護労働者の現状と課題に重点を置いた。韓国は、2014年に改正された介護保険、認知症対策、慢性期病院の現状と課題に重点を置いた。
結果と考察
台湾の社会経済の地域差を見ると、若年人口の都市集中、過疎地域における家族規模の大きな変化が起きている。また、過疎化の影響が深刻である一方で、原住民族の居住する地域への手厚い介護政策が展開されている。特に、原住民族が多く居住する東南部を中心に、介護予防の一環として健康状態の改善を目標に、当局の補助による健康促進、介護予防拠点の整備を進めているところである。台湾の地域差にはこうした民族の違いによる側面がある。こうした地域差を踏まえて、韓国と台湾の介護制度を見ると、わが国と同じ社会保険方式を採る(予定)という共通点があるが、保険者や被保険者、要介護認定の範囲、医療との連携、民間介護事業者のあり方などで、相違点を有する。共通点はわが国の影響と考えられるが、相違点についてもわが国の経験を検討し、自国の事情を優先したものと考えられる。
台湾では、条件付きながら外国人労働者を受け入れており、家庭などで介護に従事する「外籍看護工」(外国人介護労働者)も受け入れている。雇用にあたっては、法律に定める手続きの他、「就業安定費」を当局に納める必要がある。それでも、2013年には20万人を超える「外籍看護工」が存在する。インドネシア出身が多く、ほとんどは女性であり、賃金も他の分野で就労する外国人労働者より低い。中国語などの訓練を事前に受けているが、言語などのコミュニケーションで困ったことがある者が少なくない。
韓国は、「老人長期療養保険」の実施7年目であるが、制度改正は頻繁に行われてきた。その中でも介護保険の中での認知症への対応はわが国と同様に重要な政策課題である。要介護認定や施設入所における認知症高齢者への配慮の他、軽度認知症高齢者のための5等級(認知症特別等級)の設置などが進められた。また、政府全体での認知症対策もわが国同様に、早期発見、治療などを目標に進められている。また、韓国では医療との連携を十分に検討しなかったため、介護施設と慢性期病院が要介護高齢者を巡って競合する関係にある。慢性期病院については、その機能が介護施設と混在している。
結論
このように、韓国と台湾の介護制度は、社会保険方式の制度を構築する(目指す)ことで、わが国との共通点がある他、相違点もある。相違点は、制度内容を決定するプロセスで、わが国の経験を参考にする一方で、自国に適合した制度内容を判断した結果と考えることが出来る。また、台湾では原住民族の居住する地域における支援の必要性、外国人介護労働者のあり方への対応などで、わが国と異なる課題に直面している。韓国では、慢性期病院のあり方という、わが国が医療と介護の関係を常に検討してきたこととはまったく異なる対応による課題に直面している。こうしたことは、わが国の経験の評価につながる一方で、わが国が実施していない施策については、今後参考になるものと思われる。よって、わが国の今後の経験を東アジアなどの諸外国に示す場合、その国や地域の実情を考慮した形での政策提言が重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201401001B
報告書区分
総合
研究課題名
東アジア地域における新たな介護制度の創設過程とわが国の影響の評価等に関する研究
課題番号
H24-政策-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小島 克久(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 周三(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
  • 増田 雅暢(岡山県立大学 保健福祉学部)
  • 金 貞任(キム ジョンニム) (東京福祉大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、東アジアの中で高齢化が急速に進む韓国、台湾における新たな介護制度の創設過程で、わが国が与えた影響を分析・評価し、わが国に対する政策的示唆を含む知見を明らかにすることである。韓国や台湾では、高齢化を背景に介護制度の構築が急務となっている。韓国や台湾でも介護保険を実施・計画をしている。その検討プロセスの中で、わが国などの諸外国の経験を参考にすることもある。わが国の経験をどの程度参考にしたかを明らかにすることで、わが国の介護制度の姿を国際比較の観点からより客観的に見ることができる。このような考えから本研究を実施した。
研究方法
本研究は3年計画であった。韓国や台湾の介護保険(介護制度)の検討に関する公的な資料(行政府、議会、研究報告)を収集し、内容を整理する方法を用いた。これにより、介護制度におけるわが国との共通点、相違点を明らかにするとともに、わが国の制度をどのように研究したかも明らかにした。また、韓国や台湾の社会経済状況も参考として把握した。これらは、国内で入手できる資料や情報を元に進めた。それを補足するため、韓国や台湾での現地ヒアリング、来日した専門家との意見交換も行った。
結果と考察
韓国、台湾の高齢化率は、現在はわが国の半分程度であるが、今後は急速に上昇し、2050年頃にはわが国と同じ程度になる見通しである。また、韓国、台湾ともにわが国と同じようなジニ係数や貧困率が上昇しつつあり、人口や社会経済状況に地域差もある。これが介護サービス提供体制、利用の地域差の背景にもなっている。
韓国の介護保険である「老人長期療養保険」(2008年から実施)は、わが国の制度を参考している。しかし、保険者(国民健康保険公団という中央の医療保険の保険者)、被保険者(全国民)、家族介護手当が例外的ながら存在することなどでわが国との違いがある。保険者は中央の組織に社会保険制度の運営経験があること、被保険者は財源を十分に確保すること、という判断が背景にある。家族介護手当が設けられたのは、介護サービス提供体制が制度検討時点では十分でなかった、という韓国の事情が背景にあった。一方で、要介護認定は、要介護度の範囲がわが国より狭いものの、わが国の仕組みが大いに参考にされた。韓国では介護保険の検討において医療制度との関係を検討しなかった。そのため、介護保険実施後は一時的に慢性期病院(老人療養病院)の入院患者が減ったものの、慢性期病院と老人介護施設、慢性期病院同士が要介護高齢者を巡って競合する関係にある。さらに、介護事業者や介護従事者をわが国以上の速度で増やしたため、介護サービスの質、介護従事者の労働条件などの課題がわが国以上に深刻である。
台湾では「我国長期照顧十年計画」(2008年実施)(税方式の介護制度で、要介護認定あり)を実施している。要介護認定はドイツ(ADLs喪失度を基本)を参考にしたが、給付、特に福祉用具・住宅改修は、わが国の介護保険を参考にした。一方で、2016年の法制化を目指して、介護保険(長期照護保険)が検討中である。わが国や韓国、ドイツを参考にしているが、保険者は中央健康保険署(医療保険の保険者)、被保険者は全住民となる予定であり、わが国より韓国に近い。その背景には、保険料の確保の他、若年障害者への給付を行うと判断した結果がある。要介護認定は、わが国の仕組みを参考にしたが、台湾でのモデル事業の結果を踏まえた方法で検討が進められている。また、台湾では介護サービス提供体制が十分ではなく、地域差も大きい。地域格差を縮小しつつ、介護サービス提供体制の整備を早急に進めつつある。介護サービス事業者(営利事業者の参入)、現金給付も検討されている。台湾には「外籍看護工」(外国人介護労働者)が20万人存在する。東南アジア出身でほとんどが女性であるが、賃金が安いなどの理由で彼女らが家庭で多く雇用されている。彼女らの介護制度の中でのあり方が大きな課題となっている。
結論
韓国と台湾は、高齢化が進む中で介護制度を構築しつつある。制度内容には、わが国を参考に同じ仕組みを採用する一方、異なる仕組みを持つことが多い。韓国は介護保険実施から7年を迎え、その評価や課題を検討するところにある。台湾では、介護保険の整備と介護サービス提供体制の整備を同時に進める必要がある。「外籍看護工」のあり方はわが国にとって参考になる。このように、東アジアの介護制度は多様になることが考えられる。その中で、わが国の政策で評価できる点、参考とすべき点(わが国の政策で実施していない、現金給付や外国人介護労働者のあり方)を明確に出来たところである。また、アジアに医療や介護制度の経験を伝える場合、相手国や地域の事情に特に配慮することが重要かと思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201401001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
韓国と台湾では高齢化が進む中、介護制度を構築しつつある。わが国を参考に同じ仕組みを採用する一方、独自性やそれに伴う課題もある。韓国では医療制度との関係、介護事業者間の過当競争、介護の質などの課題に直面している。台湾では、介護保険検討と介護サービス提供体制の整備を同時に進める必要がある。また「外籍看護工」(外国人介護労働者)のあり方も課題になっており、これは、人口減少に直面したわが国にとって参考になる。このように東アジアの介護制度は多様になると考えられることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
社会科学系の政策研究課題であるため、特になし
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
厚労省などの政府機関、国会議員事務所からの照会、新聞社からの取材申し込み、台湾との交流のあるNPOからの照会があった。学術誌での論文執筆の他、医療や介護の専門新聞や専門誌で韓国や台湾の介護制度の動向に関する記事の執筆依頼があった。また研究代表者に、中国や台湾から医療や介護に関する国際会議への招聘が複数回あった。

発表件数

原著論文(和文)
24件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小島克久
台湾における介護保障の動向
健保連海外医療保障 ,  (106) , 1-11  (2015)
原著論文2
金 貞任
韓国の高齢者の介護の社会化と家族介護支援の現状
海外社会保障研究 ,  (184) , 42-52  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-06-15
更新日
2019-06-05

収支報告書

文献番号
201401001Z