医師主導治験による酵素製剤を利用したムコ多糖症Ⅱ型の中枢神経症状に対する新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201337008A
報告書区分
総括
研究課題名
医師主導治験による酵素製剤を利用したムコ多糖症Ⅱ型の中枢神経症状に対する新規治療法の開発
課題番号
H25-実用化(国際)-指定-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
奥山 虎之(独立行政法人国立成育医療研究センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中あけみ(大阪市立大学小児科)
  • 藤本 純一郎(国立成育医療研究センター)
  • 中村 秀文(国立成育医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(国際水準臨床研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
酵素製剤イデュロサルファーゼβ(商品名ハンタラーゼ)の脳室内投与によるムコ多糖症II型(MPSII)の中枢神経病変の進行抑制治療法の有効性と安全性を医師主導治験を通じて明らかにする。MPSIIは、イデュロサルファーゼの先天的欠損により全身性にムコ多糖が蓄積するX連鎖劣性遺伝病である。確認されている日本人患者は150名程度で、その70%の患者が重症型と呼ばれる中枢神経症状(精神運動発達遅滞、神経退行症状など)を呈する。2009年に酵素補充療法製剤イデュロサルファーゼα(商品名エラプレース)が承認された。週1回の静脈投与により、6分間歩行距離の延長、肝・脾臓の縮小、関節可動域の拡大、呼吸機能の改善などの全身症状の改善を認める。しかし、高分子である酵素製剤は血液脳関門を通過できず、脳内に酵素を供給できないことから、中枢神経症状の進行抑制には効果が期待できないと考えられている。本研究では、(1)酵素製剤を静脈内投与されているMPSII患者の発達評価テスト(IQ/DQテスト)から、酵素補充療法の全身投与の限界を確認し、(2)米国で先行する同様の臨床試験の問題点を抽出する。(3)これらの知見をもとに酵素製剤イデュロサルファーゼβ(商品名ハンタラーゼ)の脳室内投与の治験計画の検討に入る。
研究方法
(1)酵素製剤の静脈内投与による中枢神経への効果:酵素補充療法を受けている日本人患者30名のIQ/DQテストを実施し、発達年齢を歴年齢と比較した。(2)先行研究の検討:米国で進行しているイデュロサルファーゼαを用いた同様の臨床試験の経過報告をもとに、その問題点や本治験における新たな課題を検討した。(3)イデュロサルファーゼβ脳室内投与の治験計画:上記の知見をもとに、治験のロードマップと前臨床試験計画を作成し、前臨床試験を開始した。本研究は、疫学研究の指針に準拠して実施した。また前臨床試験では、サルを用いた脳室内投与実験をJLP基準に準拠指定実施し、委託先である新日本科学の動物実験に関する規定に従い行われた。
結果と考察
(1)酵素製剤の静脈内投与による中枢神経への効果について:重症型MPSIIにおいては、4歳ごろまでは歴年齢相当の発達を示すが、それ以後、発達は停止し徐々に退行症状が出現する。今回、30名のMPSII患者のDQ/IQテストから発達年齢を調査したが、4歳以上では、発達年齢の停滞、あるいは低下がすべての症例で認められた。これは、無治療の重症型MPSIIとほぼ同様な所見であり、酵素製剤の静脈内投与では、中枢神経症状の進行を抑制することはできないことを示している。
(2)酵素製剤イデュロサルファーゼαを用いた先行研究の経過と問題点について:前臨床試験の結果は、すでに論文報告されている。同論文によると、健常なサルを用いた実験では、髄腔内に投与したイデュロサルファーゼαは、逆行性に脳内の到達し、脳実質に分布することが示された。また、疾患モデルマウスには、脳実質への酵素投与により、病理所見の改善が確認された。この結果を踏まえて、第I/II相試験を開始しており、その結果は国際学会等で報告されている。全ての症例で、投与後速やかに脳脊髄液のグリコサミノグリカンの低下を認めている。ただし、DQテストの結果は症例ごとに様々で、確定的な結果は得られなかった。さらに、髄腔内投与のために用いたデバイスの故障・不具合が続出し、最終的に月1回の腰椎穿刺を必要とする症例が続出した。今後、第III相試験を実施する場合は、デバイスの改良が必須な状況とのことである。(3)上記の知見に基づき、以下の3方針で治験プロトコール作成を試みることとした。1.前臨床試験は、サルを用いて行う2.酵素製剤イデュロサルファーゼβは、臨床試験では髄腔内投与ではなく、オンマヤーリザーバーを用いて、脳室内に投与する3.主要評価項目として、髄液中のグリコサミノグリカン濃度の推移をみる生化学的指標が採用可能であるかどうかを検討する。
結論
MPSIIの中枢神経病変の進行抑制治療法の一つとして、酵素製剤イデュロサルファーゼβの脳室内投与は有用である可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201337008Z