母子保健施策の効果的な展開に関する研究

文献情報

文献番号
199800316A
報告書区分
総括
研究課題名
母子保健施策の効果的な展開に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中原 俊隆(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤内修二(佐伯保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
市町村に権限移譲された基本的な母子保健事業・業務を含めた母子保健サービスの地域保健法施行に伴う変化、移譲の実態を把握し、実施現状とその関連要因を検討すること、また母子保健計画の策定プロセス、計画内容、策定後の母子保健事業の変化の現状を把握・検討すること目的とした。
研究方法
(1) 全国670保健所(平成10年4月現在の住所録を使用)を対象に、郵送法にて『保健所における母子保健事業の実態調査』を実施した。
(2) 全国の市区町村を対象に、『市町村母子保健事業の実施についての調査』を実施した。
結果と考察
(1)『保健所における母子保健事業の実態調査』… 310保健所(有効回答率46.27%)から回答を得た。平成10年10月末現在で完全移譲されていない市町村を管内に有すると回答した都道府県保健所は、移譲された各事業について1~6保健所と少数であった。都道府県保健所管内における各母子保健事業の企画、実施現場での人員提供、実施後の事業のあり方評価、症例検討、医師会・医療機関等への委託状況等について、平成7年度から9年度の経年的変化をみたところ、7,8年度では有意な変化は認められず、移譲された事業では全体として、平成7,8年度の保健所主体の実施から9年度の市町村単独実施へのシフトが認められた。また、企画に関しては“保健所と市町村が主副なく"が、評価と症例検討に関しては“保健所と市町村共同で"が平成7,8年度に比して9年度で減少傾向にあった。妊産婦健康診査、乳児健康診査を除いた他の移譲された事業については委託率は平成7年度から9年度を通して1割未満と低かった。
都道府県保健所の管内における心身障害児・肢体不自由児とその境界児の支援については、保健所と市町村が共同で行っているところが心身障害児・肢体不自由児とその境界児共に約7割を占めていた。心身障害児・肢体不自由児とその境界児の支援内容の充実度と対象者一人に割く時間が地域保健法制定前後でどのように変化したかについて、約9割の政令市・特別区保健所が特に変化なしと回答したのに対し、約5割の都道府県保健所が“支援内容が手厚くなった"、“一人に割く時間が増えた"としていた。
平成7年度から9年度の間に保健婦派遣実施割合と派遣人数がともに大きく増加し、また、市町村職員に対する研修会も、平成8年度には母子保健事業に関するものの割合が増えており、これらが事業移管の円滑化に効果的に作用したことが示唆された。但し、1歳6ヶ月児健診を含め、地域保健法完全実施以前から市町村単独で実施されていた比率の高かった事業も複数あり、市町村で十分対応できるものとして移管が進められたことが明らかになった。現在保健所の業務とされている未熟児訪問指導についても、管内市町村単独で実施している都道府県保健所が現在すでに数%あり、市町村の業務とする方が望ましい事業として、多数の都道府県保健所が未熟児支援・訪問指導、療育関連事業、ハイリスク妊産婦訪問指導等を挙げており、一元化された方が住民にとってわかりやすく、継続的なサービスとして利用しやすいという理由から、対人保健サービスは児の人数や市町村のマンパワーなど条件が整えば、必要に応じて適切に保健所が関われる体制を構築した上で、市町村で一貫して実施する方が望ましいといえよう。しかし、保健所統廃合と役割分担論の行き過ぎにより、地域格差の広がりやサービス低下等が生じうる。保健所が有効に機能できるためには、フィールドとの接点を保ちつつ市町村と一緒に役割を果たしていくこと、保健所では把握できない地域の声が届く市町村との連携の強化が必須条件となろう。
(2) 『市町村母子保健事業の実施についての調査』… 2287自治体(回収率70.3%)から回答を得た。平成10年度までに策定を終えていたのは2190自治体(95.8%)であった。計画に事業量の目標値や母子保健統計の目標値だけでなく、新たな指標(父親の育児参加や母親の育児不安)を設定した自治体では、事業内容や住民の主体性等に変化を認めた自治体が多かった。計画策定に際してニーズ調査を行った自治体では、事業内容の変化を認め、関係機関との連携の推進や住民参加の促進がみられたが自治体が多かった。一方、マンパワーや予算の変化には有意な差を認めなかった。住民代表や他部局や関係機関の職員によって構成される策定委員会や作業部会などを設置した自治体では、事業の変化、関係機関との連携の推進、住民参加の促進が認められた自治体が多かった。保健所はこうした策定の支援に重要な役割を果たしていた。市町村の人口規模が比較的大きい市町村は計画の策定、実施について望ましい条件を持っている場合が多かった。人口2万人未満の規模の小さい市町村は逆に望ましい条件を有する割合が低く、今後の保健所からの支援に期待していた。
結論
全体として、従来からの基本的な母子保健サービスの移管はスムーズに行われており、さらに市町村のマンパワーなど条件が整えば、現在保健所の業務とされている未熟児(低出生体重児)支援・訪問指導、療育関連事業、ハイリスク妊産婦訪問指導、思春期保健事業等も含めて、対人保健サービスは市町村に一元化された方がよいと考えられる。しかし、保健所統廃合と役割分担論の行き過ぎによる地域格差の広がりやサービス低下等、さまざまな問題が今後生じうる。保健所が有効に機能できるためには保健所では把握できない地域の声が届く市町村との共同実施または派遣を含めた連携の強化が重要である。また、市町村における母子保健事業の策定や実施にはマンパワーの問題等より人口規模に左右されることが示めされた。保健所と市町村との連携強化が、今後の母子保健事業の発展のために大きな意味を持つことが示唆された。

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