京都大学臨床研究ハイウェイを活用した難治疾患・がん等の新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201337003A
報告書区分
総括
研究課題名
京都大学臨床研究ハイウェイを活用した難治疾患・がん等の新規治療法の開発
課題番号
H24-実用化(国際)-指定-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
三嶋 理晃(国立大学法人京都大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 萩原 正敏(国立大学法人京都大学 医学研究科 形態形成機構学)
  • 喜井 勲(国立大学法人京都大学 医学研究科 形態形成機構学)
  • 高橋 良輔(国立大学法人京都大学 医学研究科 神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(国際水準臨床研究分野)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
69,232,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では筋ジストロフィー治療薬およびダウン症患者に好発するアルツハイマー病治療薬の創出を目的とする。
研究方法
【筋ジストロフィー】
 Duchenne型筋ジストロフィーは、ジストロフィン遺伝子の異常により、骨格筋でジストロフィンが欠損して発症する極めて重篤な遺伝病である。現在、有効な治療法はなく、エクソンスキッピング誘導治療の開発等が試みられている。一方、我々は、エクソンスキッピングを誘導する低分子化合物(Clk阻害剤)を世界で初めて発見した。本化合物の発見は、エクソンスキッピング誘導療法を低分子化合物によって実現する、遺伝性難治疾患に対する新しい薬物治療法への道を拓いた。本研究では、開発候補化合物を用いて製剤規格化、非臨床GLP試験、GMP製剤化を行った後、臨床研究におけるPOCの取得を目指す。さらに、平成24年度に、候補化合物の中から、マウス疼痛モデルに鎮痛作用を示す化合物群を見出した。筋ジストロフィー患者の症状には筋肉などの痛みも現れる。患者の抱える疼痛を同時に緩和できる治療薬としての可能性を探るため、薬理作用などの検討を進める。
【ダウン症患者におけるアルツハイマー病】
 ダウン症候群は、母体の出産年齢が35歳以上で約400人に1人と高い割合で発症する染色体異常疾患である。開発候補化合物の標的分子は、ダウン症患者の脳内で発現が亢進しているリン酸化酵素DYRK1Aであり、その遺伝子はダウン症候群の原因である第21番染色体トリソミーのダウン症責任領域に存在する。これまでに、DYRK1Aはアルツハイマー病発症の原因として有望視されているタウ蛋白質の異常リン酸化を誘導することが示されている。以上から、DYRK1Aはダウン症候群の精神・神経疾患発症の原因である可能性が高く、その活性を阻害することで、治療や予防が可能になると期待できる。本研究では、1~2年目に神経特異的DYRK1A過剰発現マウスの樹立、薬効評価を実施。2~3年目には行動薬理評価、毒性・安全性薬理・薬効薬理・薬物動態試験、製剤化を検討する。4年目後半からGMP合成、5年目から臨床試験あるいは臨床研究に取り組む。5年目後半より、第Ⅱ相試験を開始し、企業への導出を目指す。
結果と考察
【筋ジストロフィー】
 製剤化検討に必要な情報取得を目的とし、原薬の過酷試験の検討を開始した。また、製剤化検討として、貼付剤としての経皮吸収試験による検討なども行い、吸収効率の改善に成功した。さらに、経口投与可能な候補化合物を見出し、マウスでの薬物動態試験を行った。その結果、経口投与後の血中への移行だけでなく脳組織への移行を確認した。マウスでの行動解析試験を行ったところ、30 mg/kgの経口投与においても異常行動を示さないことが確認できた。
 筋ジストロフィーの除痛に対しては、オピオイド鎮痛薬であるモルヒネ塩酸塩が処方される例もあることから、モルヒネとの比較試験として、マウス疼痛モデルに候補化合物を経口投与したところ、自発痛や歩行障害、痛覚過敏が改善し、モルヒネと同様に鎮痛作用が認められた。さらに、カニクイザル熱刺激誘発疼痛モデルに対しても鎮痛作用を示した。
【ダウン症患者におけるアルツハイマー病】
 動物モデルを用いた薬効評価を進めつつ、製剤化検討を実施した。併せて、将来の治験を念頭においた臨床治験対象患者調査実施に向けた準備を進めた。
 ダウン症動物モデルとして、神経特異的DYRK1A過剰発現マウスを作成したものの、DYRK1A過剰発現による影響から個体の生存が困難であると判明したため、別のダウン症モデルを用いた薬効評価の検討を進めることとした。薬効評価としては、候補化合物をマウスに経口投与し、そのマウスの脳切片を解析したところ、候補化合物が脳内で薬理作用を示すことが明らかとなった。また、GMP合成に向けた検討を行い、入手性・反応条件・工程数が優位である合成ルートを確立した。

 平成25年度の研究結果を踏まえ、「筋ジストロフィー」と「ダウン症患者におけるアルツハイマー病」ともに、本研究は順調に推進している。
結論
 「筋ジストロフィー」と「ダウン症患者におけるアルツハイマー病」ともに順調に推進し、特に候補化合物のin vivoにおける薬効が明らかになった点は特筆すべきであると考えられる。今後は、動物モデルを用いたPOCの取得を目指した研究を加速すべきである。また、前年度に疼痛治療薬候補化合物が得られたことからさらに研究を進めたことで、鎮痛作用を有する治療薬創出の可能性が具体化し、社会が待ち望む治療薬の研究にさらに応えようとする力強い姿勢が示された。これら難治性疾患に対する治療薬は、世界中の人々が渇望するものであり、これら候補化合物についての迅速な研究と臨床展開を進めることには大きな意義があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201337003Z