難治性疾患創薬シーズの探索と薬剤安全性評価法開発

文献情報

文献番号
201335019A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性疾患創薬シーズの探索と薬剤安全性評価法開発
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-019
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
井上 治久(京都大学 iPS細胞研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長船 健二(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 吉田 善紀(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 斎藤 潤(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 太田 章(京都大学 iPS細胞研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 難治性疾患では、診断は臨床症状・各種検査などを併せても難渋する場合も多い。また、治療法が確立しておらず、病態解明に基づく新規治療法の開発が必要である。患者由来iPS細胞から作製された疾患罹患細胞は、患者が生来有している遺伝学的要因を反映する細胞となるため、患者由来iPS 細胞を用いて病因解明とともに未開発かつ有効な治療薬シーズ・治療標的・診断マーカーの同定を行うことが可能となる。これまで、研究代表者らは、神経疾患患者由来iPS細胞から疾患に罹患する神経細胞を分化誘導、既知の疾患表現型再現に加え、新たな病態を明らかにし、それらの疾患表現型を改善する化合物を同定した。また、患者iPS細胞解析技術のかかえるクローン間評価などの課題を克服する手法を蓄積している。研究分担者らは、自己炎症性疾患患者由来iPS細胞を用いた創薬スクリーニング系の構築や、ヒトiPS細胞から心細胞、更には肝・腎細胞の分化誘導の成功を報告している。本研究課題では、疾患モデリングに基づく治療薬スクリーニング、薬剤安全性・毒性評価用細胞の作製等に取り組む。
研究方法
 本研究では、それぞれの疾患で同定した疾患表現型を用いた薬剤スクリーニング系を構築し、スクリーニングを施行する。加えて、これまで種々の毒性を呈した薬剤を用いて、その毒性を検出可能な細胞の開発とアッセイ系の構築を行う。
結果と考察
(1) 神経疾患の新規治療薬シーズの探索、神経細胞の毒性試験用細胞の作製
 ALS患者由来iPS細胞、アルツハイマー病患者由来iPS細胞を用いたスクリーニング系を構築した。薬剤作用効果解析のために、多電極アレイ解析の系を導入した。
 
(2) iPS細胞技術を用いた難治性肝疾患治療薬シーズの探索と臨床試験ドロップアウト予測用肝細胞パネルの作製
 シトルリン血症患者由来iPS細胞株を樹立した。既報のヒトiPS細胞から肝臓系譜への分化誘導法を改良し、罹患細胞種である肝細胞への試験管内での分化誘導を行った。そして、肝細胞マーカー、尿素サイクル関連遺伝子の発現を確認した。
 薬剤毒性評価系開発に関しては、化合物を用いた新規分化誘導法で得られる肝細胞のALBUMIN蛋白の分泌などの機能とCYP1A1などの酵素の発現を確認した。  

(3) 遺伝性心疾患における創薬シーズ探索と薬剤安全性評価法の開発
 新しく開発した分化誘導法を用いることにより複数のヒトES/iPS細胞株において高効率でトロポニンT陽性心筋細胞が得られる分化誘導系を開発した。分化誘導した心筋細胞をマイクロアレイ解析により遺伝子発現を解析したところ、成人および胎児の心臓組織の遺伝子発現に近い遺伝子発現プロファイルであることが認められた。またこの分化誘導系をもちいて作製した心筋細胞を用いて多電極アレイ解析をおこない、選択的IKr阻害薬およびIKs阻害薬によりフィールド電位間隔が用量依存的に延長することを確認した。

(4) 血液・免疫疾患由来iPS細胞を用いた創薬スクリーニング系構築
 慢性乳児神経皮膚関節症候群患者由来iPS細胞を単球系細胞へ分化させ、約4,000の活性既知の化合物をスクリーニングしたところ、数種の化合物がIL-1β特異的な阻害剤としてヒットした。これらの化合物は、既報のあるものであったため、スクリーニング系の有用性が証明された。

(5) 骨疾患・免疫疾患の新規治療薬シーズの探索
 進行性骨化性線維異形成症遺伝子を導入した前軟骨細胞の軟骨分化誘導系を用い、約5,000の既存薬、活性既知化合物について評価を行い、選抜した 160化合物の濃度依存性を評価した。次に、進行性骨化性線維異形成症患者由来iPS細胞の軟骨化能亢進を抑制する活性を指標に数化合物まで絞り込んだ。

 本年度は総括・分担研究者がそれぞれ課題に取り組み、各分野の疾患からのiPS細胞を用いた疾患表現型の同定とそれ指標としたスクリーニング系の構築に取り組んだ。特に、分化誘導が既存の方法からでは難しい細胞では、分化誘導方法の構築からはじめることを行なった。今後、疾患表現型の同定で用いたアッセイ系を毒性評価系への展開する。
結論
 本年度は、iPS細胞を用いた治療薬スクリーニングと治療薬シーズの同定、薬剤毒性評価という目標に向けた研究を開始した。

公開日・更新日

公開日
2017-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201335019Z