iPS細胞を用いた再生医療における造腫瘍性の対策に関する研究

文献情報

文献番号
201335009A
報告書区分
総括
研究課題名
iPS細胞を用いた再生医療における造腫瘍性の対策に関する研究
課題番号
H25-実用化(再生)-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 卜部 匡司(自治医科大学 医学部)
  • 古川 雄祐(自治医科大学 医学部)
  • 阿部 朋行(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 iPS細胞は再生医療において様々な応用が期待されているが、その造腫瘍性が懸念されており臨床研究推進の妨げとなっている。その解決策の一つとしてiPS細胞に予め自殺遺伝子を搭載しておくことが挙げられる。もし細胞が制御不能となった場合には細胞死作働薬を投与することにより選択的に自殺遺伝子発現細胞を生体から排除できる。本研究では自殺遺伝子としてヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子もしくは、FKBP12とcaspase 9とのキメラ蛋白質inducibe caspase9遺伝子を、アデノ随伴ウイルスが第19番染色体のAAVS1領域に組み込まれる機構を利用し、同領域にピンポイントで導入する。この方法は挿入変異発癌を来たさないため特にiPS細胞遺伝子操作には適している。本研究では、自殺遺伝子をAAVS1領域に組み込んだiPS細胞を樹立し、エピジェネティクス解析によりその発現プロファイルを自殺遺伝子非搭載iPS細胞と比較する。またマウス、ブタ、ヒツジ胎仔に移植し細胞死作働薬投与により細胞死を誘導できるか検証するとともに移植後長期観察することにより造腫瘍性を検討する。本年度は主に自殺遺伝子をAAV1領域へ挿入したiPS細胞を樹立することを目指し、基礎的検討を行った。
研究方法
1)iPS細胞の遺伝子操作
 GFP遺伝子をAAVS1領域に組み込ませるためのプラスミドとして、EF1αプロモーターによりGFPを発現するカセットとPGKプロモーター下にピューロマイシン耐性遺伝子 (puromycin N-acetyltransferase) カセットをタンデムにつなぎ、GFPカセットの上流に向き合うようp5プロモーターでRepを発現するカセットを配した。iPS細胞にこのプラスミドを導入後、puromycinの存在下で培養を行い、単一iPS細胞由来のクローンを選別した。個々のクローンからゲノムDNAを抽出しプラスミド側のプライマーとAAVS1プライマーを用いPCRを行い、増幅産物の塩基配列を解析した。
2)iPS細胞のエピジェネティクス解析
 自殺遺伝子を組み込んだiPS細胞における遺伝子発現パターンとDNAメチル化状態を次世代シークエンシンサーによって網羅的に解析し、親株との比較で自殺遺伝子の組み込みによっておこる変化の有無を明らかにする。今年度はiPS細胞の作製と自殺遺伝子搭載iPS細胞と比較するためのコントロール細胞での発現プロファイルと、DNAメチル化のデータを取得した。
3)iPS細胞の移植後の体内動態の解析
 ヒツジ胎仔への異種移植系を用いてヒトiPS細胞由来のグラフトを持つヒツジの作製を試みた。また、近交系ブタを用いた同種移植系により、iPS細胞の免疫原性の評価をした。
結果と考察
1)細胞の遺伝子操作
 puromycin耐性GFP発現クローンを119個選別した。プラスミド側のプライマーとAAVS1プライマーを用いPCRを行い、その増幅産物の塩基配列を解析したところ、6クローン (5.0%) でGFP遺伝子のAAVS1領域への組込みが確認できた。AAVS1配列とプラスミドの断端配列の詳細な解析から、間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cells: MSC)、HeLa細胞等でAAVS1特異的組込みを行った場合と同様の組込みメカニズムであることが分かった。これまでの諸報告ではAAVS1領域への組込み効率は10%以上と報告されており効率を上げることが今後の課題である。
2)iPS細胞のエピジェネティクス解析
 コントロールiPS細胞での発現プロファイルと、DNAメチル化のデータを取得した。これまで報告されているiPS細胞のパターンと大まかに同じであることが確認できた。
3)iPS細胞の移植後の体内動態の解析
 コントロールヒトiPS細胞をヒツジ胎仔に移植し、出産待ちの状態である。ブタの同種移植系では、ミニブタ由来iPS細胞をMHC合致ミニブタに移植し免疫原性の評価を行った。その結果、iPS細胞は免疫拒絶されたことが移植部位の組織学的、免疫学的解析より明らかとなった。今後移植生着率が高い近交系ブタでの移植系の作製し、自殺遺伝子の有効性および安全性の評価を進めて行く予定である。
結論
 iPS細胞の遺伝子操作では、GFP/PuroプラスミドのAAVS1領域への挿入を試み、約5%の効率でAAVS1へ組み込ませることができた。またエピジェネティクス解析ではコントロールiPS細胞の発現プロファイルとメチル化パターンを取得しデータベース化した。動物移植実験では、コントロールiPS細胞をヒツジ胎仔に移植し、出産待ちの状態である。またブタ同種移植系では、iPS細胞を移植したところ、免疫拒絶によりiPS細胞は長期間生着しなかった。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201335009Z