文献情報
文献番号
201335008A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト幹細胞の造腫瘍性における病態解明とその克服に関する研究
課題番号
H25-実用化(再生)-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(近畿大学 薬学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
- 佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
- 堤 秀樹(公益財団法人実験動物中央研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
48,104,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
造腫瘍性のリスク対策には、リスクの量的把握と質的把握が必要であるが、いずれも世界的に十分な検討がなされておらず、わが国がこれらの問題解決に必要な技術基盤を世界に先駆けて構築できれば、再生医療実用化における国際的な優位性を確保できると期待される。本研究では、主に造腫瘍性リスクの質的把握に関して、とくに、原材料としての各種ヒトiPS細胞及びES細胞の造腫瘍性に関する発生頻度、悪性度と機序、その検査方法の観点から検討し、対応策等の研究開発を行うこと、これらの結果をふまえてヒトiPS/ES細胞等に由来する再生医療製品の造腫瘍性に関する行政指針案の作成に資することを目的としている。
研究方法
上記目的のため、様々なヒト多能性幹細胞株を調製し、それらの特性解析を行い、重度免疫不全動物NOGマウスに投与し、腫瘍(奇形腫)形成をモニターすることにより、どのような特性指標を持つ細胞が腫瘍形成やその悪性度にどのような影響を及ぼすか検討する。本年度は主に、各種のヒトiPS細胞などの多能性幹細胞を調製し、生化学的・細胞生物学的・ゲノミクス的観点から細胞特性のプロファイリングを行った。また、被験細胞の生着性の高さや造腫瘍性に関する感度において本研究目的に最適の重症免疫不全モデル動物、NOGマウスへのヒト多能性幹細胞の移植試験プロトコールの検討および至適化を試みた。
結果と考察
1. 各種ヒトiPS細胞/ES細胞株等の調製及び特性:
様々なヒトiPS細胞/ES細胞株を協力機関より入手し、継代維持した。加えて、従来のヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hASC)より形質が安定で、増殖能・分化能が高く、iPS細胞への誘導性に優れた新規ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(Hx-hASC)を創製した。このHx-hASCに各種ベクターを用いて山中4因子を導入することにより、iPS細胞株を22株樹立することに成功し、細胞特性の一端を明らかにした。このうち、エピゾーマルベクターにより樹立したiPS細胞株では、導入された初期化遺伝子は残存していないこと、及び腫瘍の悪性化と関係すると推定されているHHLA1、ABHD12B、C4orf51遺伝子の発現量がきわめて低いことが判明した。
2. NOGマウスへの幹細胞投与と腫瘍形成のモニタリング:
本課題が目的とする、ヒトiPS/ES細胞株間のNOGマウスにおける造腫瘍性に関する細胞株の内因的な性質の差を捉えるためには、移植時の細胞の状態を可能な限り均一な状態に揃える必要がある。一方、ヒト多能性幹細胞は、単一細胞にまで分散するとアポトーシスを起こすというユニークな性質をもつことが知られている。この「分散誘導性アポトーシス」を回避しつつ、NOGマウスにおいて高い生着性と再現性をもってヒト多能性幹細胞の造腫瘍性を評価するための試験プロトコールの検討を行った。その結果、ヒト多能性幹細胞をヒト新生児由来繊維芽細胞およびROCK阻害剤とともにマトリゲルに懸濁して背部皮下に投与する方法により、100個程度の少量のiPS細胞の移植によっても腫瘍形成が観察されることが明らかとなった。なお、ヒト多能性幹細胞の生着性・造腫瘍性向上はヒト新生児由来繊維芽細胞に特異的であることが明らかとなった。
様々なヒトiPS細胞/ES細胞株を協力機関より入手し、継代維持した。加えて、従来のヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hASC)より形質が安定で、増殖能・分化能が高く、iPS細胞への誘導性に優れた新規ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(Hx-hASC)を創製した。このHx-hASCに各種ベクターを用いて山中4因子を導入することにより、iPS細胞株を22株樹立することに成功し、細胞特性の一端を明らかにした。このうち、エピゾーマルベクターにより樹立したiPS細胞株では、導入された初期化遺伝子は残存していないこと、及び腫瘍の悪性化と関係すると推定されているHHLA1、ABHD12B、C4orf51遺伝子の発現量がきわめて低いことが判明した。
2. NOGマウスへの幹細胞投与と腫瘍形成のモニタリング:
本課題が目的とする、ヒトiPS/ES細胞株間のNOGマウスにおける造腫瘍性に関する細胞株の内因的な性質の差を捉えるためには、移植時の細胞の状態を可能な限り均一な状態に揃える必要がある。一方、ヒト多能性幹細胞は、単一細胞にまで分散するとアポトーシスを起こすというユニークな性質をもつことが知られている。この「分散誘導性アポトーシス」を回避しつつ、NOGマウスにおいて高い生着性と再現性をもってヒト多能性幹細胞の造腫瘍性を評価するための試験プロトコールの検討を行った。その結果、ヒト多能性幹細胞をヒト新生児由来繊維芽細胞およびROCK阻害剤とともにマトリゲルに懸濁して背部皮下に投与する方法により、100個程度の少量のiPS細胞の移植によっても腫瘍形成が観察されることが明らかとなった。なお、ヒト多能性幹細胞の生着性・造腫瘍性向上はヒト新生児由来繊維芽細胞に特異的であることが明らかとなった。
結論
本研究では、ヒトiPS/ES細胞株間のNOGマウスにおける造腫瘍性の質的な差を検討することが大きな目的であり、そのために、形質が安定でかつ造腫瘍性(と形成された腫瘍の悪性度)に差異がある多能性幹細胞を調製することが重要である。hASCより形質が安定し、かつ、増殖・分化能力が高く、iPS細胞への誘導性に優れた新規ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞Hx-hASCを作製した。Hx-hASCは、本研究に必要な形質の安定したiPS細胞株の創製に資する素材であり、これより初期化遺伝子が存在せず、また腫瘍の悪性化と関係するとされている遺伝子群の発現が極めて低く、形質の安定した複数株のiPS細胞を樹立することができた。これらのiPS株はもとよりHx-hASC自体も、造腫瘍性や悪性度に関して相対的に低い多能性幹細胞試料として本研究に不可欠な一角を占めると期待される。一方、NOGマウスへの移植試験プロトコールの検討および至適化を試みた結果、単一細胞にまで分散しても安定的に生着し、造腫瘍性の評価が可能となる試験系として、ヒト多能性幹細胞とヒト新生児由来繊維芽細胞およびROCK阻害剤を同時投与する系を確立した。今後は本試験系を用い、様々な細胞株について造腫瘍性および形成された腫瘍の特性の評価を行い、悪性度等とその他の細胞特性指標との関係を検討する予定である。
公開日・更新日
公開日
2015-03-11
更新日
-