iPS細胞を用いた再生医療における組織不適合の解決

文献情報

文献番号
201335004A
報告書区分
総括
研究課題名
iPS細胞を用いた再生医療における組織不適合の解決
課題番号
H25-実用化(再生)-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
千住 覚(熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 恵一(慶應義塾大学 医学部)
  • 中面 哲也(国立がん研究センター 早期・探索臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
iPS細胞を用いた再生医療に大きな期待が寄せられ、ヒトiPS細胞から様々な細胞を作製する分化誘導技術が開発されている。一方で、患者個別に樹立したiPS細胞を用いる再生医療は、治療用細胞作成に長期間を必要とし、また、非常に高額の費用が必要となると予想され、事前に樹立されたHLA適合アロiPS細胞を使用する方が現実的と考えられている。
 現在、HLAハプロタイプのホモ接合のiPS細胞を集積したiPS細胞ストックの構築が進められている。しかしながら、低頻度HLAハプロタイプ保持者に関しては、iPS細胞ストックでカバーしきれない可能性がある。本研究では、このような、iPS細胞を用いた細胞医療の実現化に向けて解決しなければならない、組織不適合の問題を解決することを目的としている。低頻度HLAハプロタイプ問題の解決法として、iPS細胞においてHLA遺伝子あるいはHLA分子の細胞表面への発現に関与する遺伝子を改変することにより、iPS細胞ストックを補完するiPS細胞を作成する技術を開発する。また、iPS細胞由来の分化細胞を用いた再生医療において懸念される腫瘍形成の問題に対処する目的で、未分化細胞に特異的に高発現する分子を標的抗原とする免疫療法を開発する。
研究方法
千住らは、これまでに、iPS細胞からミエロイド系血液細胞を大量生産する技術を開発している。この方法は、ヒトiPSを分化誘導することによりミエロイド系血液細胞(iPS-MC)を作製するステップ、および、このiPS-MCにレンチウイルスベクターを用いて細胞増殖因子を導入するステップからなる。本研究では、iPS細胞におけるHLA遺伝子改変を行なうことを最終目標としているが、iPS細胞は非常に脆弱であり、遺伝子改変技術を開発するにあたり、このiPS細胞由来の増殖性ミエロイド細胞(iPS-ML)においてHLAあるいはHLA関連遺伝子の標的破壊を行なうことを当面の目標としている。本年度の研究では、レンチウイルスベクターを用いてZinc Finger Nuclease(ZFN)あるいはCRISPRによる遺伝子改変を行なう技術を開発するべく検討を行った。
 福田らは、HLA関連遺伝子の標的破壊を行なった多能性幹細胞由来の分化細胞による免疫拒絶の回避に関する研究を開始した。本年度の研究においては、分化細胞への組織不適合性に対する評価として、マウス心筋細胞を用いた実験で評価を行った。
 中面らは、未分化細胞抗原を標的とするiPS細胞再生医療における腫瘍拒絶法の検討を開始した。iPS細胞による再生医療において問題となる未分化細胞の混入とがん化の問題を解決するために、未分化細胞特異的抗原とCTLエピトープの同定を試みた。標的抗原の候補となるタンパク質のアミノ酸配列から、HLA-A02、HLA-A24に結合が予測される未分化細胞特異的CTLエピトープ候補ペプチドを選択して合成した。これらの候補ペプチドを用いて、ヒト末梢血単核球を刺激し、あるいは、ヒトHLA遺伝子導入マウスに免疫して、誘導されたCTLのペプチド特異性を解析することにより、未分化細胞に対して特異的に傷害できるCTLを誘導可能なペプチドを探索している。
結果と考察
ヒトiPS細胞由来のミエロイド細胞において、レンチウイルスベクターによる遺伝子導入により効率的に遺伝子改変を行なう手法を確立した。さらに、ZFNを用いた遺伝子の標的破壊により、ヒトのiPS細胞あるいはヒトiPS細胞由来のミエロイド細胞において、特定の遺伝子を欠失させる手法も確立した。
 TAP欠損マウスES細胞とコントロールであるES細胞(E14)に対してhanging drop法により分化誘導を行い、胚葉体形成を確認した。これを接着培養へ切り替え、観察を続けたところ拍動する心筋細胞塊の出現を認めた。
 NIHのStem Cell Databaseからマイクロアレイのデータを入手し、未分化抗原の候補になる分子を6個リストアップした。これらは、iPS細胞に高発現し、かつ、正常な体細胞にはほとんど発現が認められない。まず、この中から特に発現の差が顕著であるOCT3/4およびNANOGに関して、BIMASを用いてCTL(細胞傷害性T細胞)による認識の標的となるエピトープペプチドを探索した。その結果に基づき、日本人集団において最も高頻度のHLAクラスIであるHLA-A*24:02に対する結合アフィニティーが高いと予測されるペプチド25種に関して、合成ペプチドを作成した。これらのペプチドを用いて、ヒト末梢血単核球を刺激し、あるいは、ヒトHLA遺伝子導入マウスに免疫して、誘導されたCTLのペプチド特異性を解析している。
結論
平成26年度以降の研究を進めていく上で必要な準備を行なった。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201335004Z