文献情報
文献番号
199800313A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者の社会復帰・社会参加の促進に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
京極 高宣(日本社会事業大学)
研究分担者(所属機関)
- 小山秀夫(国立医療・病院管理研究所)
- 伊藤順一郎(国立精神・神経センター精神保健研究所)
- 繁田雅弘(東京慈恵会医科大学)
- 北村俊則(国立精神・神経センタ-精神保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、精神保健福祉士が国家資格化されたことをふまえて、精神障害者の社会復帰・社会参加の促進のために必要な援助技術の蓄積のために以下の四方面にわたり、基盤となる研究を実施したものである。
まず、小山は、精神保健福祉士の資質向上を支援する評価・計画に関するシステム開発の基礎となる研究をおこない、精神保健福祉士の研修のモデルづくりを検討した。
伊藤は、日本の現状で実施可能な精神障害者の家族に対する心理教育プログラムを開発し、その有効性の検証をおこなった。
繁田は、慢性の精神分裂病患者の社会適応能力を評価することにより、予後予測因子や社会復帰阻害要因を抽出することを目標とした。
北村は、判断能力評価用構造化面接を開発し、尺度としての信頼性・妥当性を確認した後、精神障害者の示す判断能力について分析を加え、その構造を明らかにしようとした。
まず、小山は、精神保健福祉士の資質向上を支援する評価・計画に関するシステム開発の基礎となる研究をおこない、精神保健福祉士の研修のモデルづくりを検討した。
伊藤は、日本の現状で実施可能な精神障害者の家族に対する心理教育プログラムを開発し、その有効性の検証をおこなった。
繁田は、慢性の精神分裂病患者の社会適応能力を評価することにより、予後予測因子や社会復帰阻害要因を抽出することを目標とした。
北村は、判断能力評価用構造化面接を開発し、尺度としての信頼性・妥当性を確認した後、精神障害者の示す判断能力について分析を加え、その構造を明らかにしようとした。
研究方法
小山は、先行研究の検討の後、精神医学ソーシャルワーカーが行っている業務内容を把握するために、日本精神医学ソーシャルワーカー協会より推薦された4名のワーカーも交えたフォーカスグループレビューを行い、独自の評価尺度を作成した。そして、作られた尺度について内的一慣性が高いことを確認するとともに、それを用いた探索的因子分析を行い、業務内容に関する6つの因子を抽出した。その上で、因子得点を従属変数とし、基本属性や環境要因を独立変数としたt検定および一元配置の分散分析をおこない、その結果について検討を加えた。
伊藤は、一国立病院精神科の協力を得て、分裂病患者の家族に対する集団の心理教育プログラムを実施した。これは、月1回のプログラムで、一時間の情報提供の講義と二時間の小人数のグループワーク(解決志向・相互作用モデル)で構成される。実施に際してはまず職員の研修を行い一定の質を保った。家族のエントリーはインフォームドコンセントを得た上で、入院時に行った。評価は、患者家族の相互関係に対し簡便EE尺度および独自の評価尺度を用い、患者の症状は主治医の協力を得てBPRSを用いた。それぞれ入院時・退院時・退院後9ヶ月後に行い、プログラム実施群とコントロール群との比較をした。
繁田は4都県における5精神科施設において、ICD-10で、精神分裂病の診断を受けている患者のうち、初診より5年以上経過し、かつ45歳以下のもの103例に調査をおこなった。まず、社会適応能力を、WHO精神医学的能力障害評価面接基準を用いて評価し、初発時状況、治療経過、調査時状況、調査時精神症状を評価した。その上で調査結果より良好群と不良群に分け、14の予測因子についてLogistic回帰分析をおこない、7要因を規定した。さらに社会復帰阻害要因についての調査を主治医に対して行い、医療サイドから見えてくる社会復帰阻害要因とそれへの対応について、検討した。
北村らは、判断能力という概念を先行研究から検討し,それをもとに判断能力評価用構造化面接(Structured Interview for Competency-Incompetency Assessment Testing and Ranking Inventory: SICIATRI)を作成した.内科または精神科入院患者 103 名を対象にこの面接法にて調査を行い、評価尺度および内容の分析をおこなった。
伊藤は、一国立病院精神科の協力を得て、分裂病患者の家族に対する集団の心理教育プログラムを実施した。これは、月1回のプログラムで、一時間の情報提供の講義と二時間の小人数のグループワーク(解決志向・相互作用モデル)で構成される。実施に際してはまず職員の研修を行い一定の質を保った。家族のエントリーはインフォームドコンセントを得た上で、入院時に行った。評価は、患者家族の相互関係に対し簡便EE尺度および独自の評価尺度を用い、患者の症状は主治医の協力を得てBPRSを用いた。それぞれ入院時・退院時・退院後9ヶ月後に行い、プログラム実施群とコントロール群との比較をした。
繁田は4都県における5精神科施設において、ICD-10で、精神分裂病の診断を受けている患者のうち、初診より5年以上経過し、かつ45歳以下のもの103例に調査をおこなった。まず、社会適応能力を、WHO精神医学的能力障害評価面接基準を用いて評価し、初発時状況、治療経過、調査時状況、調査時精神症状を評価した。その上で調査結果より良好群と不良群に分け、14の予測因子についてLogistic回帰分析をおこない、7要因を規定した。さらに社会復帰阻害要因についての調査を主治医に対して行い、医療サイドから見えてくる社会復帰阻害要因とそれへの対応について、検討した。
北村らは、判断能力という概念を先行研究から検討し,それをもとに判断能力評価用構造化面接(Structured Interview for Competency-Incompetency Assessment Testing and Ranking Inventory: SICIATRI)を作成した.内科または精神科入院患者 103 名を対象にこの面接法にて調査を行い、評価尺度および内容の分析をおこなった。
結果と考察
小山は、精神医学ソーシャルワーカーの業務内容から、①インテーク、②アセスメント・計画、③処遇の実行・モニタリング、④アドボカシー、⑤連携、⑥代行の6因子を抽出した。そして、職務内容の向上と関連することとして、年齢、経験年数、研修受講の有無、スーパービジョンの有無があることを明らかにした。
伊藤は、日本の精神分裂病の家族に適した心理教育プログラムを開発し、実施、その効果について検証した。その結果一般治療のみの対象群に比して、心理教育プログラム実施群は退院後9ヶ月後の再発率が有意に低いこと、家族の「情緒的巻き込まれ」と評価される患者家族の相互関係が有意に下がることを実証した。
繁田は、精神分裂病の長期社会的予後を検討することを目的として,患者の社会適応度の評価とその適応度を左右する要因を調査分析した。14の予測因子について、Logistic回帰分析をおこなったところ、性別、初発年齢、初発時教育年数、経過観察中の入院期間比率、PANSSの陽性症状評価尺度合計、陰性症状評価尺度合計、病識の7要因が規定された。
北村は、判断能力評価用構造化面接(Structured Interview for Competency-Incompetency Assessment Testing and Ranking Inventory: SICIATRI)について、(1) SICIATRI の各項目の評定者間信頼度は満足のゆくものである (2) 主治医が独立してつけた判断能力の有無を外的指標とすると SICIATRI のアルゴリズムから計算された判断能力評価の妥当性は高い (3) SICIATRI の項目は Insight and evidencing a choice,Awareness of legal rights,Understanding of treatmentと命名される3因子から構成される (4) 判断能力の下位尺度を用いたクラスター分析から,"treatment ignorant","competent","legal right ignorant", "incompetent" と命名できる4群に分けられる,ことが明らかとなった.
伊藤は、日本の精神分裂病の家族に適した心理教育プログラムを開発し、実施、その効果について検証した。その結果一般治療のみの対象群に比して、心理教育プログラム実施群は退院後9ヶ月後の再発率が有意に低いこと、家族の「情緒的巻き込まれ」と評価される患者家族の相互関係が有意に下がることを実証した。
繁田は、精神分裂病の長期社会的予後を検討することを目的として,患者の社会適応度の評価とその適応度を左右する要因を調査分析した。14の予測因子について、Logistic回帰分析をおこなったところ、性別、初発年齢、初発時教育年数、経過観察中の入院期間比率、PANSSの陽性症状評価尺度合計、陰性症状評価尺度合計、病識の7要因が規定された。
北村は、判断能力評価用構造化面接(Structured Interview for Competency-Incompetency Assessment Testing and Ranking Inventory: SICIATRI)について、(1) SICIATRI の各項目の評定者間信頼度は満足のゆくものである (2) 主治医が独立してつけた判断能力の有無を外的指標とすると SICIATRI のアルゴリズムから計算された判断能力評価の妥当性は高い (3) SICIATRI の項目は Insight and evidencing a choice,Awareness of legal rights,Understanding of treatmentと命名される3因子から構成される (4) 判断能力の下位尺度を用いたクラスター分析から,"treatment ignorant","competent","legal right ignorant", "incompetent" と命名できる4群に分けられる,ことが明らかとなった.
結論
小山の研究は、今後大学等で精神保健福祉士関連科目が設置され本格的な教育がなされれば、それは精神保健福祉士の資質向上に有効であることを示唆するとともに、精神保健福祉士の継続教育の必要性も明らかにした。
伊藤の研究は、分裂病患者の家族に集団で行う心理教育プログラムが、月1回計10回程度の内容であっても、患者の再発率に影響を与え得る効果があることを示しており、今後の精神科臨床に、家族支援が重要な位置を示すことをあらわした。
また、繁田の研究は、患者の社会適応能力を規定する要因として、文献上通説となっている要因以外に、「病識」をあげ、今後の治療計画・社会復帰計画を作成する上で、患者に対する病名告知や心理教育の在り方に議論が必要なことを示唆した。また、社会復帰阻害要因の調査は、地域リハビリテーションの資源の充実とともに家族への心理教育が重要な対策であることを示した。
北村の研究は、治療同意判断能力は構造化面接で3因子からなる構造を持ち、その程度によって4群に分類可能であることをしめした。従来の医療保護入院や措置入院は,治療同意判断能力が欠けているという前提で成り立っており、本研究はそのような現状への問題提起となりうる。精神保健福祉法改正が行われた際には,判断能力評価を行う必要性があり、その分野においてこの研究は活用可能であると考えられた。
以上の4研究の示すところとして、精神障害の領域においても、患者や家族に対する適切な情報提供や説明は、従来いわれてきたことと異なり患者や家族の認識に一定程度の影響を与え、治療への同意、治療環境の整備、患者の社会的予後を左右する重要な作業であることが明確になった。したがって、今回国家資格化された精神保健福祉士の育成・研修においては、この方面における技能の充実が望まれる。
伊藤の研究は、分裂病患者の家族に集団で行う心理教育プログラムが、月1回計10回程度の内容であっても、患者の再発率に影響を与え得る効果があることを示しており、今後の精神科臨床に、家族支援が重要な位置を示すことをあらわした。
また、繁田の研究は、患者の社会適応能力を規定する要因として、文献上通説となっている要因以外に、「病識」をあげ、今後の治療計画・社会復帰計画を作成する上で、患者に対する病名告知や心理教育の在り方に議論が必要なことを示唆した。また、社会復帰阻害要因の調査は、地域リハビリテーションの資源の充実とともに家族への心理教育が重要な対策であることを示した。
北村の研究は、治療同意判断能力は構造化面接で3因子からなる構造を持ち、その程度によって4群に分類可能であることをしめした。従来の医療保護入院や措置入院は,治療同意判断能力が欠けているという前提で成り立っており、本研究はそのような現状への問題提起となりうる。精神保健福祉法改正が行われた際には,判断能力評価を行う必要性があり、その分野においてこの研究は活用可能であると考えられた。
以上の4研究の示すところとして、精神障害の領域においても、患者や家族に対する適切な情報提供や説明は、従来いわれてきたことと異なり患者や家族の認識に一定程度の影響を与え、治療への同意、治療環境の整備、患者の社会的予後を左右する重要な作業であることが明確になった。したがって、今回国家資格化された精神保健福祉士の育成・研修においては、この方面における技能の充実が望まれる。
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