双極性障害の神経病理学に基づく診断法の開発

文献情報

文献番号
201334006A
報告書区分
総括
研究課題名
双極性障害の神経病理学に基づく診断法の開発
課題番号
H25-精神‐実用化(精神)-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 精神疾患動態研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 村山繁雄(東京都健康長寿医療センター)
  • 齊藤祐子(独立行政法人国立精神・神経医療センター)
  • 國井泰人(福島県立医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(精神疾患関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
12,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 双極性障害は、躁状態、うつ状態を繰り返し、社会生活の障害を引き起こす重大な精神疾患であるが、その原因については不明な点が多く、診断法、治療法の開発が急務である。
 我々はこれまで、磁気共鳴スペクトロスコピー研究、死後脳研究、動物モデル研究などから、双極性障害にミトコンドリア機能障害が関与すること及び脳内の情動関連部位へのミトコンドリア機能障害細胞の蓄積が、気分障害の病態に関与する可能性を示した。一方、双極性障害患者死後脳と気分障害モデル動物の遺伝子発現解析により共通点を探索した結果、Sfpqの変化を見いだしたが(Kubota et al, 2010)、SFPQはタウ遺伝子のスプライシングに関わることから(Ray et al, J Mol Neurosci 2011)、リチウムがタウリン酸化酵素であるGSK-3βの阻害作用を持つことと併せ、タウと双極性障害の関連が注目された。
 本研究の目的は、双極性障害における局在性ミトコンドリア機能障害およびタウ蓄積の意義について、患者死後脳を用い、動物モデルと比較しながら明らかにすることである。
研究方法
 本研究では、死後脳の収集と、ミトコンドリア機能障害とタウを中心とした免疫組織化学的解析に焦点を絞る。
 加藤は、死後脳および動物モデルにおける免疫組織化学的解析法を開発し、モデルマウスで病変候補脳部位を同定する。一方、國井と共に、双極性障害患者の献脳登録の推進に向けて、啓発活動を行う。
 村山、齊藤、國井は、各々が関わるブレインバンクにおいて、生前登録した患者の剖検を推進し、双極性障害患者の死後脳の蓄積を進めると共に、既に得られた試料を用いた神経病理学的な解析を行う。

結果と考察
 福島ブレインバンクでは、双極性障害患者の生前登録を進め、2014年5月までに、県内の5名に加え、県外からも18名の登録を受け、合計23名の双極性障害患者が登録された。これは、生前登録者160名の14.3%を占め、2007年まで(77名中1名、1.2%)に比べ、増加していた。登録の理由は、加藤の著書(47%)、ホームページ(17%)、パンフレット配布(17%)、ネット検索、講演会などであった。登録者は、北海道から九州まで全国に及んでいた。2014年5月現在、5名の双極性障害患者の脳が集積された(集積された48例の10.4%)。がんへの罹患を機に生前登録し、剖検に至ったケースもあった。今後、神経病理学的な検討も進める。
 国立精神・神経医療研究センターでは、リサーチリソースネットワーク(RRN)を基盤として、精神神経疾患患者の脳集積を進めている。これまでに、RRNおよび高齢者ブレインバンクで集積された双極性障害患者13例について、神経病理学的検索との対応付けを行うと共に、高齢者ブレインバンクの剖検例の所見との比較を行った。双極性障害では、対照群に比して、嗜銀顆粒のステージが高いことが確認された。また、若年の双極性障害患者群における嗜銀顆粒の分布は、扁桃体、縫線核、青斑核等に多い傾向が見られた。
 高齢者ブレインバンクでは、生前登録も進めつつある。福島医科大学ブレインバンク検体における神経病理学的診断も担っている。2013年度には新たに双極性障害患者1名の剖検を行った。
 理化学研究所脳科学総合研究センターでは、気分障害モデルマウスにおいて、ミトコンドリアDNA(mtDNA)欠失蓄積に伴い、mtDNAにコードされたシトクロムc酸化酵素(COX)蛋白サブユニットが減少している細胞(COX陰性細胞)を免疫組織化学的に検出する方法を開発した。これらの所見を元に、COX陰性細胞をヒト死後脳で検出する方法の確立を進めた。ミトコンドリア病において、COX陰性細胞が多く蓄積していることを観察した。ヒトの相同部位の解剖学的特徴を明らかにするため、マウスでこの部位の同定に用いられている、抗カルレチニン抗体および抗アセチルコリンエステラーゼ抗体を用いた免疫染色を行って、その解剖学的な特徴付けを進めた。
 今後、これらの検体を用いて、これまでの所見を元に、COX陰性細胞の分布の検索、嗜銀顆粒の所見との比較を行う予定である。しかし、ホルマリン固定期間により、染色性の低下が予想されるため、方法論的な点を確認しながら進めていく予定である。
結論
 双極性障害患者死後脳の蓄積は困難であるが、進んでいる。本年度の研究により、今後、双極性障害の神経病理学的所見として、候補脳部位におけるタウ蓄積およびミトコンドリア機能障害について、検討を進めていくための基礎的知見を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201334006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,500,000円
(2)補助金確定額
16,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,776,907円
人件費・謝金 1,030,344円
旅費 0円
その他 2,892,750円
間接経費 3,800,000円
合計 16,500,001円

備考

備考
端数が生じ、自費にて1円追加することにより会計処理を行ったため。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-