肝炎ウイルス感染者に対する偏見や差別の実態を把握し、その被害の防止のためのガイドラインを作成するための研究

文献情報

文献番号
201333011A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルス感染者に対する偏見や差別の実態を把握し、その被害の防止のためのガイドラインを作成するための研究
課題番号
H23-実用化-肝炎-指定-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
龍岡 資晃(学習院大学  大学院法務研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 戸松 秀典(学習院大学 大学院法務研究科)
  • 山川 洋一郎(古賀総合法律事務所)
  • 山本 晋平(古賀総合法律事務所)
  • 川上 拓一(早稲田大学法学部)
  • 齋藤 政樹(東武練馬中央病院)
  • 北浜 昭夫(大船中央病院)
  • 四柳 宏(東京大学)
  • 田中 純子(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)
  • 米澤 敦子(東京肝臓友の会)
  • 多田羅 浩三(日本公衆衛生協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(肝炎関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 肝炎ウイルス感染者(以下「肝炎患者」という。)に対する偏見や差別の被害を防止するためのガイドラインを作成するために、肝炎患者に対する偏見や差別の実態を把握し、これを医学的・法的観点等から分析検討して、問題とすべき事例について原因・理由を究明し、その被害を防止するための方策を検討して、報告書を作成する。この研究に基づきガイドラインが作成されることを通じて、肝炎患者に対する偏見や差別の被害を防止し、ウイルス性肝炎に関する正しい知識の啓発・普及、肝炎対策の推進にも寄与する。
研究方法
 肝炎患者に対する偏見や差別の実態を把握するために、前年度までに実施した肝炎患者、医療等関係機関、医療従事者、一般生活者、学校教職員に対するアンケート調査及び肝炎患者、拠点病院の肝疾患相談センターの相談員等に対するヒアリング調査に加え、肝炎患者、肝疾患相談センターに対するヒアリング調査を追加実施し、偏見や差別とされる事例について、場所や場面等により類型的に整理して実態の把握に努め、偏見や差別が生じる構造、原因・理由を分析・検討して、医学的・法的観点等から、いわれのない不当なものであるかどうかを検討した。これらの調査・分析等の結果と、本年度追加実施した米国関係を含む海外調査の結果等をも総合し、偏見や差別の被害の防止のため方策を検討した。
結果と考察
 今年度までに実施したアンケート調査、ヒアリング調査等から、相当数の肝炎患者が偏見や差別を感じ、経験していることが窺われる。偏見や差別として挙げられている事例は、いわれのない不当なものからそうでないものまで、場面等により千差万別で様々な態様のものがある。比較的多くの事例で指摘されている医療の場面での、感染防護の方法も、一般には標準予防策として合理的な理由があって必ずしも不当とは言い難いが、過剰と見られる方法や、医療従事者の説明不足・配慮不足が、偏見・差別感を生させている事例も少なくない。
 いわれのない不当な偏見や差別を生じさせる主要な原因として、ウイルス性肝炎に関する知識の欠如ないし不足が、治癒の困難な怖い病気であるというイメージを生み、感染に対する恐怖心から、肝炎患者に対する忌避感を生じ、偏見や差別に繋がっていることを指摘することができる。
 いわれのない不当な偏見や差別の被害を防止するには、こうした要因を排除していくことが重要である。例えば、C型肝炎患者の9割以上は抗ウイルス薬治療でウイルスを排除できること、B型肝炎も抗ウイルス薬でウイルス量を低く抑えることができることを周知し、B型肝炎ワクチンの接種を受けやすい環境を整備するなど医療分野での取組み、そして、一般生活者がこのようなことを理解し、感染予防策を身につけ、肝炎検査を受けやすい環境を作っていくことが望まれる。他国における施策等からも、ウイルス性肝炎の治療薬の開発・治療方法の確立と、ウイルス性肝炎に関する正しい知識の啓発・普及、偏見や差別に関する一般的教育が果たす役割は大きいものと言うことができ、間接的ではあるが、偏見や差別についての苦情・相談、被害の回復に関するシステム・制度の拡充・強化も見逃せない。
結論
 肝炎患者に対する偏見や差別は、様々な場所・場面で様々な態様・内容のものが存在し、医療の場面での標準防護策など合理的な理由があって必ずしも不当とはいえないものも、それが過度であることや、説明不足や配慮不足が肝炎患者の負担となっている場合もある。 
 こうした偏見や差別は、主として肝炎に関する正しい知識の欠如ないし不足に起因し、ウイルス性肝炎に対する恐怖心から肝炎患者に対する忌避的な感情・行動に繋がっていると見られることから、肝炎患者に対する偏見や差別の被害を防止するためには、これらの要因を排除していくことが肝要である。そのためには、ウイルス性肝炎の治療薬の開発・治療方法の確立と共に、ウイルス性肝炎に関する正しい知識の啓発・普及が重要であり、広報活動、学校教育や研修等に効果的な内容と方法を採り入れていく必要がある。
 ガイドラインについては、上記のような観点から、肝炎に関する感染経路と感染予防方法や、治療薬の開発等により早期適切な治療によって相当程度治癒が可能であること等について、対象・分野ごとに検討されるべきであり、特に一般生活者に対しては、感染症に関する基本的なことが分かりやすいものであること、偏見や差別に関する苦情・相談や被害の救済措置等を含むものであることが望ましい。厚生労働省を始め、関係機関・関係者が連携・協力して、患者側の視点にも配意した、体系的で、実効性のあるものが作成され、十分周知されて活用されるように配慮する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201333011B
報告書区分
総合
研究課題名
肝炎ウイルス感染者に対する偏見や差別の実態を把握し、その被害の防止のためのガイドラインを作成するための研究
課題番号
H23-実用化-肝炎-指定-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
龍岡 資晃(学習院大学  大学院法務研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 戸松 秀典(学習院大学 大学院法務研究科)
  • 山川 洋一郎(古賀総合法律事務所)
  • 山本 晋平(古賀総合法律事務所)
  • 川上 拓一(早稲田大学法学部)
  • 齋藤 政樹(東武練馬中央病院)
  • 北浜 昭夫(大船中央病院)
  • 四柳 宏(東京大学)
  • 田中 純子(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)
  • 米澤 敦子(東京肝臓友の会)
  • 多田羅 浩三(日本公衆衛生協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(肝炎関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝炎ウイルス感染者(以下「肝炎患者」という。)に対する偏見や差別の被害を防止するためのガイドラインを作成するために、肝炎患者に対する偏見や差別の実態を把握し、これを医学的・法的観点等から分析検討して、問題とすべき事例について原因・理由を究明し、その被害を防止するための方策を検討して報告書を作成する。この研究に基づきガイドラインが作成されることを通じて、肝炎患者に対する偏見や差別の被害を防止し、ウイルス性肝炎に関する正しい知識の啓発・普及、肝炎対策の推進にも寄与する。
研究方法
肝炎患者に対する偏見や差別の実態を把握するために、肝炎患者(回答数1705人、回答率57.4%。以下同順で掲記)、医療従事者(6671人、57.4%)、一般生活者(6329人、51.9%)、学校教職員(1062人、31.5%)のほか、拠点病院(59箇所、84.3%)、保健所(199箇所、88.4%)、地方自治体(13自治体、76.4%)、弁護士会(23会、44.2%)、法務局(50庁、100%)に対するアンケート調査を、また肝炎患者49人、拠点病院の肝疾患相談センター4箇所の相談員等に対しヒアリング調査を実施し、それらの結果を集計・整理、検討して、偏見や差別とされる事例について医学的・法的観点等から、いわれのない不当なものであるかどうか、それらの原因・理由を分析・検討し、併せて韓国・カンボジア・ベルギー・ルクセンブルク・スウェーデン・フィンランド・ケニア・英国・米国における肝炎患者の置かれている状況やこの問題への対応等をも調査して、これらの調査結果等を総合参酌し、肝炎患者に対する偏見や差別の被害を防止するためのガイドラインを作成する基礎的な考慮要素等について検討した。
結果と考察
上記アンケート調査の結果からは、偏見や差別を経験したとする患者の割合は、10%前後でそれほど高くはないが、その内容・態様は、場所・場面等により、いわれのない不当なものから、例えば、医療の場面で多く挙げられている感染防止のための防護策のように標準予防策として合理的な理由があって必ずしも不当とは言えないものまで、千差万別である。感染防護のための措置であっても、過度のものであったり、説明不足や配慮不足が、偏見・差別感を生じさせ、肝炎患者の精神的な負担となっている場合も少なくない。肝炎患者に対する偏見や差別の要因としては、「差別化となるネガティブの要因」「感情的要因」「関係性排除の要因」が挙げられ、ウイルス性肝炎に関する知識の欠如ないし不足が主要な要因となって、治癒困難な怖い病気であるとのイメージを形成し、感染に対する恐怖心から肝炎患者に対する忌避感を生じさせ、偏見や差別に繋がっていることを指摘することができる。いわれのない不当な偏見や差別の被害を防止するには、こうした要因を排除していくことが肝要である。そのためにはウイルス性肝炎に関する感染経路・感染予防方法、治療方法等についての正しい知識の啓発・普及のための広報活動と教育、ウイルス性肝炎に対する治療薬の開発と治療方法の確立、偏見や差別に関する一般的な教育が重要である。間接的ではあるが偏見や差別についての苦情・相談、被害の回復に関するシステム・制度の拡充・強化も見逃せない。これらのことは他国におけるこの問題に関する実情・取組み等からも窺うことができる。
結論
肝炎患者に対する偏見や差別は、様々な場所・場面で様々な態様・内容のものが存在し、医療の場面での標準防護策など合理的な理由があって必ずしも不当とは言えないものも、それが過度であることや、説明不足や配慮不足が肝炎患者の負担となっている場合もある。こうした偏見や差別は主として肝炎に関する正しい知識の欠如ないし不足に起因し、ウイルス性肝炎に対する恐怖心から肝炎患者に対する忌避的な感情・行動に繋がっていると見られることから、被害を防止するためにはこれらの要因を排除していくことが肝要である。そのためにはウイルス性肝炎の治療薬の開発・治療方法の確立と共に、ウイルス性肝炎に関する正しい知識の啓発・普及が重要であり、広報活動、学校教育や研修等に効果的な内容と方法を採り入れていく必要がある。
ガイドラインの作成に当たっては、上記のような観点から肝炎に関する感染経路と感染予防方法や、治療薬の開発等により早期適切な治療によって相当程度治癒が可能であること等について、対象・分野ごとに検討されるべきであり、特に一般生活者に対しては、感染症に共通する基本的なことを分かりやすいものにすること、偏見や差別に関する苦情・相談や被害の救済措置等を含むものであることが望ましい。厚生労働省を始め、専門の関係機関、関係者等が連携・協力して、患者側の視点にも配意した、体系的で、実効性のあるものが作成され、十分周知されて活用されるように配慮する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201333011C

収支報告書

文献番号
201333011Z