介助者の身体的負担を指標とした移乗介助方法及び移乗介助機器の定量的評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800312A
報告書区分
総括
研究課題名
介助者の身体的負担を指標とした移乗介助方法及び移乗介助機器の定量的評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
井上 剛伸(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山崎信寿(慶應義塾大学理工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,163,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害者プランに示される障害者の社会参加において、重度肢体不自由者に対する介助者の役割は非常に重要である。たとえば、電動車いす等で自立移動を行うためには、ベッドから電動車いすへの移乗が必要である。すなわち、自立した移動を確保するための移乗介助は、非常に重要なファクターとなる。しかし、この移乗介助は介助者にたいして、身体的負担を強いるものであり、介助者の腰痛は大きな問題となっている。さらに、高齢化が進む中で、介助者のマンパワー不足も叫ばれており、腰痛等で介助が継続できなくなることは、貴重な人的資源の損失でもある。そこで本研究では、このように介助者への負担が大きい移乗介助に着目し、各種移乗介助方法における介助者の身体的負担を定量的に評価することを目的とする。今年度はまず、介助動作の現状を把握するためのアンケート調査、および基本的な介助動作に対する計測・分析システムの構築を行った。
研究方法
1.介助動作の現状把握
介助動作の現状把握を行うために、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院の理学療法士および看護婦に対して、アンケート調査を実施した。調査項目は、腰痛に関する事項、移乗介助に関する事項、移乗介助機器に関する事項とした。
2.介助動作の計測・分析システムの開発
一人介助による移乗介助方法に着目し、この動作を介助現場で容易に計測できるシステムの開発を行った。本システムは介助者・被介助者間の接触力を計測する水圧荷重センサ、介助者の手による引張力を計測する引張荷重計、介助者の動作を計測する傾斜計よりなる。計測されたデータから、5リンクの身体剛体リンクモデルを介して、腰部にかかるモーメントが計算される。本システムを用いて、理学療法士2名、初心者2名を被験者として、かかえ上げ型と抱き上げ型の2種類の方法について計測を行った。なお、被介助者役の被験者は身長の高い者と低い者の2名とした。
結果と考察
1.介助動作の現状把握
理学療法士7名、看護婦63名、合計70名から回答が得られた。その結果、84.3%が腰痛経験があることがわかった。原因としては、移乗介助、体位変換介助といった介助動作が多く挙げられた。しかし、腰痛で病院に受診したことがあるものは、38.6%にすぎず、また何らかの腰痛対策をしているものも51.4%とほぼ半数であった。
移乗介助については、1日1回から5回行うものが45.7%、6回から10回行うものが37.1%であった。介助方法は一人介助の方法ではベッド上等をずりながら移乗させる方法がもっとも多く、二人介助では体幹と脚を一人ずつもって移乗させる方法がもっとも多かった。
介助用リフトの使用は一度も使用しないものは35.7%、2回と回答したものが34.3%であった。
2.介助動作の計測・分析システムの開発
計測の結果、かかえ上げ型の方が抱き上げ型よりも大きな腰部モーメントがかかることがわかった。また、腰部モーメントを介助者の身長と被介助者の体重で正規化した値を指標として、各条件での最大値を表した。それによると、初心者および体格の大きい理学療法士については、身長の高い被介助者を介助する方が、身長の低い被介助者を介助するときよりもモーメントが小さかった。これに対し、体格の小さい理学療法士では小さい被介助者を介助したときの方が、大きい被介助者を介助するときよりもモーメントが小さい結果が得られた。
3. 腰痛の現状に関する考察
今回の調査結果から腰痛経験のある介助職員は非常に多いことが明らかになった。しかし、病院に受診したり、腰痛に対する対策を行っている者はさほど多くはなく、あまりひどくはない腰痛が慢性的に起こっていることが示唆された。従って、軽度なうちから治療や対策を行っていくという、職員側の意識の変革も重要な要素として考えられる。
4. 移乗介助動作に関する考察
調査の結果では、二人介助の方法の方が行う人数は多かったが、理学療法士と看護婦で結果を集計したところ、理学療法士では一人介助の方法を行う数が、非常に多いことがわかった。中でもかつぎ上げ型の介助方法を行っているものが多く、抱き上げ型は少ない結果が得られた。介助動作の計測結果では、この2つの方法では、抱き上げ型の方が腰部への負担が小さいことが示された。また、正規化したモーメントの指標と、センサにかかった総荷重をグラフにプロットしたところ、かかえ上げ型は理学療法士群のデータと初心者群のデータが区別できた。これに対し、抱き上げ型は、理学療法士と初心者であまり差がみられなかった。このことより、かかえ上げ型の移乗介助方法は、熟練が必要であることも示唆された。以上より、今後理学療法士の介助動作の改善へ向けての指針となりうる結果が得られた。
5. 介助動作改善への提案
計測結果より、かつぎ上げ型と抱き上げ型では、抱き上げ型の方が腰部への負担が少なく、優れた動作であるといえる。この2つの動作の違いは、腰部から荷重点へのモーメントアームの違いに起因すると考えられる。従って、なるべく体幹を起こし、このモーメントアームを小さくすることが、腰部への負担を軽減する良い移乗動作となる。
このように、より腰部への負担の小さい移乗介助動作を行うには、膝を曲げて腰を十分に低くし、体幹を起こした状態で、被介助者の荷重を受けることが重要であることがわかった。
結論
移乗介助の動作負担の定量的評価を行うために、現状調査と移乗介助動作の計測・分析システムを開発した。調査結果からは、介助職員の間で腰痛経験者が非常に多いことが明らかになり、また理学療法士は一人介助の方法で移乗介助を行うことが多いことが示唆された。介助動作の計測結果からは、一人介助による方法のうち、かかえ上げ型よりも抱き上げ型の方がより腰部への負担が少ないことが示された。今後は、看護婦に多い二人介助の方法を分析していくとともに、介助機器についても評価を行い、さらには新しい機器の開発へとつなげていく予定である。

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