ウイルス性肝疾患に係る各種対策の医療経済評価に関する研究

文献情報

文献番号
201333004A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性肝疾患に係る各種対策の医療経済評価に関する研究
課題番号
H23-実用化-肝炎-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
平尾 智広(香川大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 正木 尚彦(独立行政法人国立国際医療研究センター)
  • 八橋 弘(国立病院機構長崎医療センター)
  • 長谷川 友紀(東邦大学医学部)
  • 池田 俊也(国際医療福祉大学 薬学部)
  • 石田 博(山口大学・医学部)
  • 杉森 裕樹(大東文化大学・スポーツ・健康科学部)
  • 須賀 万智(東京慈恵会医科大学)
  • 赤沢 学(明治薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(肝炎関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型・C型ウイルス性肝炎は、国内最大級の感染症である。我が国においては、ワクチン接種、ウイルス検診、標準的治療が整備され、それぞれ効果を挙げているが、その費用対効果に関する知見はわずかで、生産性損失を含めた「社会の視点による分析」はない。また医療経済評価に必須の疫学情報、費用の情報、効用値の情報も十分とは言えず、他の先進国で一般的に行われている医療技術評価の妨げとなっている。そこで本研究では、B型・C型ウイルス性肝炎に関する諸介入について、社会の視点による費用効果分析を行った。研究は3年計画で、本年度は最終年次に当たる。
研究方法
作業は、B型・C型肝炎の自然史経済モデルの作成、介入の経済モデルの作成、分析に必要な基礎情報の整備(医療費、生産性損失、効用値、診療データの収集)、上記を合わせた費用効果分析からなる。介入は、B 型肝炎のワクチン接種、C 型肝炎のウイルス検診、C 型肝炎の治療を対象とした。
・B型、C型肝炎について、既に作成した自然史モデルを確定させた。
・B 型肝炎のワクチン接種 、C 型肝炎のウイルス検診、C 型肝炎の標準的治療のモデルを確定し、増分費用効果比(ICER)の推定を行った。
・B型肝炎、C型肝炎の各病態について医療費の推定を行った。用いたデータは、都道府県肝疾患診療連携拠点病院および国立国際医療研究センターにて行った患者調査である。
・生産性損失算出方法に対する考え方を整理し推定を行った。用いたデータは、国立病院機構と国立国際医療研究センターで行われた患者アンケート調査、都道府県肝疾患診療連携拠点病院および国立国際医療研究センターにて行った患者調査、賃金センサスである。
・B型肝炎、C型肝炎の各病態について効用値を推定した。
・都道府県肝疾患診療連携拠点病院および国立国際医療研究センターで通院・入院治療を受け、2010年12月~2011年11月の1年間における診療情報、および診療報酬情報が入手可能なB型・C型肝疾患患者を対象に、診療情報、レセプト情報の調査を行った。
結果と考察
【ワクチン】既存の母子感染予防プログラム(セレクティブワクチネーション、SV)と、それに加えてすべての子供に予防接種を行うユニバーサルワクチネーション(SV)を導入した場合の費用対効果を推定した。
割引率3%とした場合のICERは、直接医療費のみを考慮した場合1,664万円、罹病による生産性損失を加えると1,598万円、さらに接種による生産性損失を加えると2,964万円と推定された。全費用のうち、接種に関わる生産性損失、ワクチン接種費用の割合が大きく、施策として他のワクチンとの同時接種、ワクチン接種費用の抑制が考えられた。ワクチン接種費用については、現行の18,474円(1回あたり6,158円)から5,000円~6,500円以下(1回あたり1,670円~2,160円以下)に抑えた場合、費用対効果が良くなる可能性がある。
【検診】2011年度の地域保健・健康増進事業報告(健康増進編)結果を用い、スクリーニング単価を6,000円、HCV抗原精密検査単価を8,700円、HCV核酸増幅検査単価を11,840円、受診率を20%、割引率を3%とした場合のICERは2,413,948円(生産性損失を含まない)、5,775,722円(疾病による生産性損失と検査受診のための生産性損失の両者を含む)であった。
【標準的治療】テラプレビル+ペグインターフェロン(PegIFN)+リバビリン(RBV)の3者併用療法(TT)と、それ以前の標準治療であったPegIFN+RBV療法群(DT48W)と、Late virological responderに対して24週間の追加治療を行う(DT72W)群の費用対効果の比較を行った。TTは、DT48WおよびDT72Wに対して1.9~2.4年の期待余命の延長(割引なし)、3%の割引で1.1~1.3QALYの改善が見込まれ、生涯費用で71万~91万の減少が見込まれた。
結論
B型肝炎について、既存のSV下でUVを導入した場合の費用対効果は優れているとは言えなかった。しかし、接種に関わる生産性損失、及びワクチン接種費用が大きく影響しており、施策として他のワクチンとの同時接種等による接種損失の削減、ワクチン接種費用の抑制が考えられた。C型肝炎スクリーニング検査のICERは、直接医療費のみを考慮した場合245万円、生産性損失を入れると567万円となり、費用対効果に優れていると考えられた。C型肝炎の治療について、TPRは他の治療法に比べて、コストが安く、QALYの改善も大きいと考えられた。B型肝炎の検診、治療について、算出に必要な国内エビデンスが充分ではなく解析に至っていない。今後はB型肝炎の検査、治療等に関するデータの蓄積、疫学データの整備が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201333004B
報告書区分
総合
研究課題名
ウイルス性肝疾患に係る各種対策の医療経済評価に関する研究
課題番号
H23-実用化-肝炎-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
平尾 智広(香川大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 正木 尚彦(独立行政法人国立国際医療研究センター)
  • 八橋 弘(国立病院機構長崎医療センター)
  • 長谷川 友紀(東邦大学医学部)
  • 池田 俊也(国際医療福祉大学 薬学部)
  • 石田 博(山口大学・医学部)
  • 杉森 裕樹(大東文化大学・スポーツ・健康科学部)
  • 須賀 万智(東京慈恵会医科大学)
  • 赤沢 学(明治薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(肝炎関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型・C型ウイルス性肝炎は、国内最大級の感染症である。我が国においては、ワクチン接種、ウイルス検診、標準的治療が整備され、それぞれ効果を挙げているが、その費用対効果に関する知見はわずかで、生産性損失を含めた「社会の視点による分析」はない。また医療経済評価に必須の疫学情報、費用の情報、効用値の情報も十分とは言えず、他の先進国で一般的に行われている医療技術評価の妨げとなっている。そこで本研究では、B型・C型ウイルス性肝炎に関する諸介入について、社会の視点による費用効果分析を行った。
研究方法
作業は、B型・C型肝炎の自然史経済モデルの作成、介入の経済モデルの作成、分析に必要な基礎情報の整備(医療費、生産性損失、効用値、診療データの収集)、上記を合わせた費用効果分析からなる。介入は、B 型肝炎のワクチン接種、C 型肝炎のウイルス検診、C 型肝炎の治療を対象とした。
・B型、C型肝炎について、広範な文献レビューを行い自然史の経済モデル(マルコフモデル)を作成した。
・B 型肝炎のワクチン接種 、C 型肝炎のウイルス検診、C 型肝炎の標準的治療のモデルを作成し、増分費用効果比(ICER)の推定を行った。
・B型肝炎、C型肝炎の各病態について医療費の推定を行った。用いたデータは、都道府県肝疾患診療連携拠点病院および国立国際医療研究センターにて行った患者調査である。
・生産性損失算出方法に対する考え方を整理し推定を行った。用いたデータは、国立病院機構と国立国際医療研究センターで行われた患者アンケート調査、都道府県肝疾患診療連携拠点病院および国立国際医療研究センターにて行った患者調査、賃金センサスである。
・B型肝炎、C型肝炎の各病態について効用値を推定した。
・都道府県肝疾患診療連携拠点病院および国立国際医療研究センターで通院・入院治療を受け、2010年12月~2011年11月の1年間における診療情報、および診療報酬情報が入手可能なB型・C型肝疾患患者を対象に、診療情報、レセプト情報の調査を行った。
結果と考察
【ワクチン】既存の母子感染予防プログラム(セレクティブワクチネーション、SV)と、それに加えてすべての子供に予防接種を行うユニバーサルワクチネーション(UV)を導入した場合の費用対効果を推定した。
割引率3%とした場合のICERは、直接医療費のみを考慮した場合1,664万円、罹病による生産性損失を加えると1,598万円、さらに接種による生産性損失を加えると2,964万円と推定された。全費用のうち、接種に関わる生産性損失、ワクチン接種費用の割合が大きく、施策として他のワクチンとの同時接種、ワクチン接種費用の抑制が考えられた。ワクチン接種費用については、現行の18,474円(1回あたり6,158円)から5,000円~6,500円以下(1回あたり1,670円~2,160円以下)に抑えた場合、費用対効果が良くなる可能性がある。
【検診】2011年度の地域保健・健康増進事業報告(健康増進編)結果を用い、スクリーニング単価を6,000円、HCV抗原精密検査単価を8,700円、HCV核酸増幅検査単価を11,840円、受診率を20%、割引率を3%とした場合のICERは2,413,948円(生産性損失を含まない)、5,775,722円(疾病による生産性損失と検査受診のための生産性損失の両者を含む)であった。
【標準的治療】テラプレビル+ペグインターフェロン(PegIFN)+リバビリン(RBV)の3者併用療法(TT)と、それ以前の標準治療であったPegIFN+RBV療法群(DT48W)と、Late virological responderに対して24週間の追加治療を行う(DT72W)群の費用対効果の比較を行った。TTは、DT48WおよびDT72Wに対して1.9~2.4年の期待余命の延長(割引なし)、3%の割引で1.1~1.3QALYの改善が見込まれ、生涯費用で71万~91万の減少が見込まれた。
結論
B型肝炎について、既存のSV下でUVを導入した場合の費用対効果は優れているとは言えなかった。しかし、接種に関わる生産性損失、及びワクチン接種費用が大きく影響しており、施策として他のワクチンとの同時接種等による接種損失の削減、ワクチン接種費用の抑制が考えられた。C型肝炎スクリーニング検査のICERは、直接医療費のみを考慮した場合245万円、生産性損失を入れると567万円となり、費用対効果に優れていると考えられた。C型肝炎の治療について、TPRは他の治療法に比べて、コストが安く、QALYの改善も大きいと考えられた。B型肝炎の検診、治療について、算出に必要な国内エビデンスが充分ではなく解析に至っていない。今後はB型肝炎の検査、治療等に関するデータの蓄積、疫学データの整備が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201333004C

収支報告書

文献番号
201333004Z