癌治療用組換え麻疹ウイルスの開発

文献情報

文献番号
201332021A
報告書区分
総括
研究課題名
癌治療用組換え麻疹ウイルスの開発
課題番号
H25-実用化(がん)-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
甲斐 知惠子(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 米田 美佐子(東京大学 医科学研究所)
  • 藤堂 具紀(東京大学 医科学研究所)
  • 稲生 靖(東京大学 医科学研究所)
  • 古川 洋一(東京大学 医科学研究所)
  • 長村 文孝(東京大学 医科学研究所)
  • 松田 浩珍(東京農工大学 農学院)
  • 田中 あかね(東京農工大学 農学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(がん関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は麻疹ウイルス野外株(MV-HL)が、乳癌細胞に対して高い殺傷能力を持つこと、細胞侵入には病原性発現に必須のSLAM受容体ではなく、成体組織では胎盤以外では発現しないPVRL4受容体を介することを発見し、SLAM結合部位を欠失させた組換え麻疹ウイルスrMV-SLAMblindを作出した。rMV-SLAMblindは、サルでの安全性も確認され、マウス移植乳癌に対して米国の先行研究であるCD46受容体を標的とした癌治療用麻疹ウイルスよりも高い乳癌細胞殺傷能力を示したことから、競争力の高い有望なシーズと考えられる。本開発研究では、rMV-SLAMblindについて効率の良いウイルス増殖法の確立、マスターウイルスバンクの構築、イヌでの安全性試験、適用範囲試験、受容体の迅速検出法の確立およびイヌでの自家腫瘍症例での試験を経て非臨床POCを確保し、3年以内に医師主導治験につなげることを目的とする。
研究方法
PVRL4遺伝子導入後薬剤選択法により増殖用細胞株を樹立した。ウイルス遺伝子変異についてIon PGM次世代シークエンサーによる解析のための至適条件を決定した。安全性試験については、ビーグル犬にウイルスを接種し、臨床症状の観察、RT-PCR法による排出液および各臓器中のウイルスの有無、病理学的解析を行なった。適用範囲試験では、難治性乳癌由来培養細胞株およびその他の各種癌細胞株についての細胞傷害性を検討した。受容体発現細胞の迅速検出系の確立のため、ヒト乳癌細胞株のスメア標本を用いて条件を検討した。イヌ症例用のため、イヌのPVRL4に対する抗体をウサギへの免疫により作製した。また、イヌの乳癌細胞株でPVRL4発現およびrMV-SLAMblindでの溶解性も検討した。全ての動物実験は、東京大学動物実験規則に従って、医科学研究所動物実験委員会の承認を得た後に、東京大学動物実験マニュアルに従って適正に行った。遺伝子組換え実験は、東京大学遺伝子組み換え委員会の承認後に行った。組換えウイルス作製実験は、文部科学大臣確認を受けた後に行っている。
結果と考察
1)PVRL4を恒常的に発現する細胞株2株を作製した。
2)ウイルス増殖用細胞のGMP対応マスターセルバンクおよびワーキングセルバンクを構築するために使用する装置や細胞培養器具の選定、および現行の指針や通達等の規定にそった手順書の作成を行った。
3)ウイルス遺伝子変異解析:親株のMVのRT-PCR産物でIon PGM次世代シークエンサーの条件を決定後、rMV-SLAMblindの全ゲノム解析を行った。その結果、導入した変異コドンは100%保存されていること、それ以外の新たな突然変異が加わっていないことが確認された。次世代シークエンサーによる解析手法は、感度、費用、簡便性の点で従来法より優れていると示唆された。
4)安全性試験:イヌ6頭にrMV-SLAMblindを接種したところ、症状は何も示さず、尿中および各種臓器からもウイルス遺伝子は検出されなかった。この試験結果は、ヒトの臨床に向けて安全性が高いことを示唆する。また、本計画にあるイヌの自家乳癌症例での非臨床試験にむけての安全性も示す結果となった。
5)適用範囲試験:難治性の乳癌細胞株および乳癌以外の癌細胞でも高い細胞溶解性が認められ、予想以上の効果が得られた。来年度は詳細な解析を行うこととした。
6)受容体発現の迅速検出法の確立: PVRL4発現ヒト乳癌細胞のスメアを用いて免疫染色法の至適条件を得た。また、イヌPVRL4に対する高力価のウサギ抗血清を作出し、イヌ乳癌由来細胞でも染色条件を決定した。これらはヒトおよびイヌ症例での迅速診断法確立のための一手法となる。
7) イヌ乳癌細胞に対する有効性試験:イヌの乳癌由来細胞株でも高い細胞溶解性を確認した。この結果は、イヌ自家腫瘍症例での獣医臨床試験が可能であることを示唆する。
8)イヌ自家乳癌症例での非臨床試験にむけての準備:実施機関での臨床動物試験・研究倫理委員会の発足、規則制定を行った。
9) 規制対応に関する情報収集:腫瘍溶解ウイルスによる新たな癌治療法について、国際的なガイドラインおよび諸外国での第一相試験状況など、最新の情報や各種ガイドラインの収集を行った。
結論
癌治療用麻疹ウイルスrMV-SLAMblindの開発における研究の初年度に計画した増殖用細胞の構築、受容体発現癌細胞の検出法の確立のための条件決定、ウイルス継代による遺伝子変異検法の条件決定、イヌでの安全性試験は計画通りに進んだ。また適用範囲試験では難治性乳癌細胞にも予想以上の効果が認められたことからさらなる有効性も期待できる。その他の準備研究も計画通り進み、全体として本年度計画は順調に進捗した。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201332021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
117,000,000円
(2)補助金確定額
116,977,000円
差引額 [(1)-(2)]
23,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 70,084,799円
人件費・謝金 4,233,326円
旅費 1,184,233円
その他 14,475,429円
間接経費 27,000,000円
合計 116,977,787円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-09-10
更新日
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