希少がんに対するウイルス療法の実用化臨床研究

文献情報

文献番号
201332019A
報告書区分
総括
研究課題名
希少がんに対するウイルス療法の実用化臨床研究
課題番号
H24-実用化(がん)-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
藤堂 具紀(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 先端がん治療分野)
研究分担者(所属機関)
  • 稲生 靖(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 先端がん治療分野)
  • 福原 浩(東京大学医学部附属病院 泌尿器科)
  • 中原 寛和(近畿大学医学部附属病院 歯科口腔外科)
  • 中森 幹人(和歌山県立医科大学医学部 上部消化管外科)
  • 菅原 稔(がん研究会 ゲノムセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(がん関係研究分野)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
142,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの死亡率が増加の一途を辿る中、希少がんや標準治療後に再発して有効治療の選択肢がなくなったがんに対する新規治療法開発のニーズは高い。がん特異的に複製するウイルスをがん細胞に感染させ、ウイルス複製による直接的な殺細胞作用を利用してがんの治癒を図るウイルス療法は、全く新しい概念に基づく治療法であり、遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)は早くから応用が試みられた。本研究は、脳腫瘍の中で最も悪性度が高い膠芽腫を対象とした医師主導治験を実施し、最終的な薬事承認を目指す。本研究で活用するG47Δは、人為的三重変異により高い安全性を保ったまま強い抗がん作用を実現した世界唯一の第三世代がん治療用HSV-1であり、その治療域の広さは、他のがん治療用ウイルスの追随を許していない。G47Δは第二世代HSV-1(G207)を更に改良して治療域を広め、安全性を向上させながらG207の約10倍の抗がん作用を示し、また10倍の濃度の製剤を生産することを可能にした。G47Δは特異的抗腫瘍免疫を強く惹起するため、一箇所のがん病変に対する局所治療が全身に転移したがんを制御する可能性がある。G47Δはまた、がん幹細胞を効率よく殺すことが最近判明した。平成21年より再発膠芽腫を対象としたfirst-in-man臨床研究を開始した。本研究では、研究期間内に膠芽腫を対象とした医師主導治験を開始して、日本発かつ日本初のウイルス療法薬の薬事承認へつなげることを目的とする。また遺伝子組換えHSV-1療法に精通した研究者でチームを組み、膠芽腫以外の難治性がんへの適応拡大を探求する。
研究方法
進行中の臨床研究から得られたデータと経験を基に、我が国初のウイルス療法の医師主導治験を開始し、GCPで臨床データを蓄積する。悪性脳腫瘍を切り口としてG47Δの最終的な薬事承認を目指す。一方、前臨床ではあらゆる固形がんに有効であることが示唆される。本研究の主体となる膠芽腫の臨床試験と並行して、遺伝子組換えHSV-1に精通した研究者でチームを組み、他の希少・難治性がんにも適応を広げて我が国おけるウイルス療法の実用化を目指す。
結果と考察
膠芽腫に対するG47Δの臨床研究に加え、平成25年度からは再燃前立腺癌と再発嗅神経芽細胞腫の臨床研究を開始した。膠芽腫を対象とした医師主導治験に向けてPMDAとの折衝を進め、平成25年度中に事前面談4回、対面助言3回を実施した。生物統計家や医薬品開発専門家を含むチームを組み、標準治療を行ってもほぼ100%死に至る膠芽腫を対象とすることや、単一の施設で実施する予定であるため実施可能性の観点から集積可能な症例数に限界があること、また侵襲的な投与法のためプラセボ群の設定は困難であることなどを考慮し、綿密に練った治験実施計画を作成した。また、継続して膠芽腫以外の難治性がんに対する非臨床試験を実施した。
 希少がんや難治性がん、標準治療後に再発を来したがん難民に対する新しい治療選択肢のニーズは高く、実用性の高い革新的治療法の国内開発が待望される。遺伝子組換えHSV-1を用いたウイルス療法は、遺伝学的背景や分子機構に左右されずあらゆる固形がんに適用できるという汎用性があり、既存の治療法との併用による相乗効果や副作用の低さ、抗腫瘍免疫の誘導など、革新性と実用化ポテンシャルが高い。本研究では、世界最新型の遺伝子組換えHSV-1(G47Δ)を悪性脳腫瘍に臨床応用し、医師主導治験を実施して最終的な薬事承認を目指している。更に国内の研究班を組織し、我が国におけるウイルス療法開発を国際レベルに上げて、他の希少・難治性がんに対しても適応拡大を探求する。手術、放射線治療、薬物療法に限られていたがん治療に、新しく標準となりうる治療ジャンルを導入し、治療の選択肢を増やすことの意義は大きく、がん治療成績の飛躍的向上につながり得る。医療行政上は、治療成績の改善や患者QOLの改善に伴って喪失国民所得を削減することができ、入院・介助患者数減少による医療費削減効果にもつながる。医療産業の面でも、G47Δを基に、遺伝子組換えによってさまざまな機能付加型のがん治療用HSV-1が開発可能で、創薬として発展しうる。ウイルス製剤の開発、生産、品質テストなど我が国の新産業や周辺産業の育成にもつながり得る。
結論
世界最新型の遺伝子組換えHSV-1(G47Δ)を悪性脳腫瘍に臨床応用し、真にアカデミア主体の医師主導治験の実現に向けて前進している。遺伝子組換えHSV-1療法に精通した研究者で、日本初の全国的研究班が組織され、希少がん・難治性がんに対するウイルス療法の臨床・非臨床データが蓄積しつつある。我が国におけるウイルス療法の可及的速やかな普及と実用化を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201332019Z