糖尿病性網膜症患者のための血糖値センサに使用する自動採血装置の開発

文献情報

文献番号
199800310A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性網膜症患者のための血糖値センサに使用する自動採血装置の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
外山 滋(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国における糖尿病患者は600万人程度と推定されているが、それに伴い糖尿病性網膜症や腎症等を併発する患者も多い。糖尿病性網膜症の場合、毎年3000人程度の患者が新たに生じ、総数では3万人はいるのではないかと推察される。糖尿病は血糖値を厳格に管理することでその進行を食い止めることができると言われており、血糖値を家庭レベルで測定するための血糖値センサも国内外の各社から市販されている。
しかし、血糖値の自己管理が必要とされる糖尿病性網膜症患者は従来の市販血糖値センサでは測定結果を自ら知り難い。従来の血糖値センサは指などから穿刺具を用いて血液を出し、その血液をセンサに吸引させることによって血糖値が測定され、その結果が液晶等で表示されるという物である。このままでは糖尿病網膜症によって視覚障害を有するに至った患者にとって使用することは全く不可能なので、我々はこれまでに音声で血糖値を患者に伝える音声化血糖値センサの開発を行ってきた。そして、糖尿病網膜症患者が実際に使用可能であることがわかった。しかし、視力を奪われた糖尿病網膜症患者にとって、血液を穿刺具により出血させ、所定量をセンサに吸引させるという操作は熟練を要する。また、最初から自分には使うことができないものとして、使用することを考えない場合も多い。特に、インシュリン非依存性糖尿病による網膜症患者は、年輩者が多いため測定機器を用いた複雑な操作には慣れにくいということも考慮される必要がある。さらに、センサに十分な量の血液を吸引させることができなかった場合は、正しい血糖値測定を行うことができない。しかし、目が見えないためにセンサに正しく所定量の血液を導入したかどうかがわからないという重大な問題が残っている。
そこで、本研究では採血具とセンサを一体化し採血と測定が一回の動作でできる自動採血装置の開発を目指した。
研究方法
まず、採血機構単独の試作を行った後、採血機構と血糖値センサと音声化機構を備えた装置を試作した。前者の動作については、バネでハンマーを動かすという方式を採用した。後者は、コンプレッサーから送られるエアーを駆動源とし、マイクロプロセッサー制御で、穿刺針による指からの出血、指からの血液の吸引、測定、音声による測定結果の出力を全自動で行う方式を採用した。試作機の評価はアイマスクをした状態で装置を使用することで行った。
結果と考察
まず、採血機構の試作を行い評価した。これは、バネでハンマーを動かし、穿刺針を後方からたたいて針先を一瞬だけ指に挿入するものである。この装置の試作の結果、針と指の間のスペーサーの厚みを変えることで指への針の穿刺深さが調節可能であることがわかった。スペーサーの厚みを順次変えることにより、ほぼ痛みを伴わずに出血できる厚みがあることがわかった。ただし、その場合でもハンマーを駆動する際に大きな音が生じ、同時に指に衝撃が加わるため、実際は痛くないのに無用の恐怖感をもたらす可能性があった。そのため、衝撃を伴わずに針を高速に駆動する方法を別の方法で実現する必要があることがわかった。
次にこの知見をもとに、採血機構付音声化血糖値センサの試作を行った。これは、指から血液を採血しその血液で血糖値を測定し、音声で結果を知らせるという動作を全自動で行う装置である。ただし、穿刺針の駆動、移動、および廃棄、血液の強制吸引、センサチップの移動は全てコンプレッサーから供給されるエアーで駆動した。
試作された装置の使用手順は以下の通りである。まず、使い捨ての針と使い捨て用のセンサチップを装置上面の穴に差し込みセットする。装置にはターンテーブルが内蔵されており、穿刺針はターンテーブルの一方でセットされ、このテーブルを回転させる途上で自動的に指を穿刺し、その後、使用後の針の廃棄を自動的に行う。すなわち、指を装置の所定位置にのせた後、その直下に穿刺針を移動させ、ボタンを押すと針が飛び出て指から血液を出す。その後、さらにテーブルを回転させて使用済みの針を指から離す。続いて、真空式吸入口が上昇して指から血液を吸い出す。吸入口はその後下降し、引き続きセンサチップが指の直下に移動した後、上昇して指に接触し、血液を毛細管現象により吸引する。そして、吸引された血液の血糖値(グルコース濃度)が自動的に測定され、音声にて結果が出力される。使用後のセンサチップは指から離れ、最初にチップを挿入しセットした孔から再度現れる。このチップは患者が手で引き抜き廃棄する。殆どの操作は自動化されており、アイマスクをしたブラインド状態で血糖値の測定が可能であった。
しかし、以下の点でさらに検討を要することがわかった。第一に針を穿刺しても血液が殆ど出ない場合があった。この様な状態では真空吸引でもほとんど出血量を増加させることはできなかった。さらに、装置が大きすぎる(高さ31 cm、幅41cm、奥行き30cm、重量14kg)ため、家庭で据え置きで使用することは可能なものの、携帯化が難しいなどの問題があった。
以上、当初に想定した方針で装置が開発されたが、さらに異なる設計方針での採血法も検討した。すなわち、CCD撮像素子を用いて採血位置や採血量を画像認識し、音声にてセンサチップ先端への指の移動の誘導をしたり、採血のやり直しを促すというものである。しかし、単年度の研究であったため、時間不足と開発費の不足のため予備的試作段階にとどまった。
結論
簡単なボタン操作で指からの採血と血糖値の測定を連続して行う装置を開発した。本装置を用いることにより糖尿病網膜症患者を始めとする視覚障害者が一人で血糖値を測定することが可能と考えられる。しかし、針を穿刺しても血液が十分に出ない場合があったほか、装置が大きすぎるなどの問題が残されたため、今後さらに研究開発を継続する必要性があることが認められた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)