文献情報
文献番号
201332002A
報告書区分
総括
研究課題名
血液検体のゲノム・エピゲノム・トランスクリプトーム解析に基づく、膵がん・肺がん等の高危険度群の捕捉のためのバイオマーカーの同定
課題番号
H23-実用化(がん)-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 輝彦(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 遺伝医学研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 河野 隆志(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
- 土屋 直人(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
- 軒原 浩(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 呼吸器内科)
- 渡辺 俊一(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 呼吸器外科)
- 上野 秀樹(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 肝胆膵内科)
- 片井 均(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 胃外科)
- 森実 千種(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 肝胆膵内科)
- 岩崎 基(独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
- 久保 充明(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
- 伊藤 秀美(愛知がんセンター研究所 疫学予防部)
- 尾野 雅哉(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 創薬臨床研究分野)
- 本田 一文(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 創薬臨床研究分野)
- 浅村 尚生(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 呼吸器外科)
- 小菅 智男(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 副院長)
- 寺崎 哲也(東北大学大学院薬学研究科)
- 大槻 純男(熊本大学大学院生命科学研究部)
- 立川 正憲(東北大学大学院薬学研究科)
- 内田 康雄(東北大学大学院薬学研究科)
- 吉田 優(神戸大学大学院医学研究科)
- 東 健(神戸大学大学院医学研究科)
- 南 博信(神戸大学大学院医学研究科)
- 宮川 治彦(株式会社島津製作所 分析計測事業部)
- 小林 道元(東レ株式会社 先端融合研究所)
- 宮本 顕友(株式会社トランスジェニック神戸研究所)
- 品川 真吾(株式会社トランスジェニック神戸研究所)
- 金田 隆(日本大学松戸歯学部)
- 加藤 仁夫(日本大学松戸歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(がん関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
79,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
難治がんの完治のためには早期診断が必須である。末梢血検体に焦点を絞ったオミックス情報の活用により高危険度群捕捉指標を確立する。それにより持続的な一次・二次予防行動を導き、生涯持続型個別化予防医療導出を目指す。
研究方法
末梢血の多層的オミックス解析を、A)リスク診断系とB)存在診断系に大別し、A)をさらに1)ゲノム(個人の固定発がんリスクとしての多型)、2)エピゲノム(ゲノムへの加齢・生活習慣等の影響を反映する指標としての末梢血DNAのゲノム全体のメチル化レベル)に、B)は3)トランスクリプトーム(血中exosome miRNAプロファイル))、4)プロテオームと5)メタボロームに分ける。各オミックスバイオマーカー情報と、コホート研究等による生活習慣因子等との交互作用の解析結果等を勘案することで、高危険度群を定量的に捕捉するオミックス及び生活習慣情報の複合的な指標を開発する。網羅的解析から抽出される複合診断指標の生物学的意義の解析・説明とともに、前向き研究による検証のため、国立がん研究センター及び研究分担者の機関による末梢血試料の分子疫学コホートやバンク試料等を検証セットとして用いる。
結果と考察
各オミックス解析毎に下記の通り:1)ゲノム解析では、肺腺がん感受性を規定すると考えられる4遺伝子のうちの2座、TERT座・TP63座は、肺腺がんのみならず肺腺腫発生の危険因子と考えられることを示した。膵がんについてはゲノムワイド水準で有意になる遺伝素因の同定に至らず、より大規模なGWASやそのメタ解析、より低頻度・高リスク比の多型・変異の探索などが必要である。2)エピゲノム解析では、JPHCコホート内に設定した膵がん症例対照研究において、末梢血全白血球のゲノム全体のメチロームプロファイルとの顕著な相関を認めたが、白血球分画比の変動などの交絡の影響が示唆された。乳がんの症例対照研究の対照群の女性約400人のDNA試料を用いて、LUMA法によりゲノム全体のメチル化レベルを定量し、有機塩素系化合物の濃度との関連を検討したところ、有機塩素系化合物濃度が低い群において、高メチル化レベルとの関連が観察された。3)トランスクリプトーム解析では、担がん状態を早期に診断する新規のバイオマーカーとしてexosome miRANを複数同定した。これらは、肺がんに特異的、あるいは膵臓がんに特異的なものが存在することから、難治固形がんを診断方法の確立に有用であると考えられた。4)プロテオーム解析では、膵がんの新規マーカーApoAIIC末端のサンドイッチELISAを開発し、優れた感度・特異度を示すことを確認した。JPHCコホート内に設定した膵がんの症例対照研究において、独自に開発したサンドイッチELISA測定キットを用いて、水酸化プロリンalpha-フィブリノーゲンタンパク質濃度測定を行ったところ、中・高値群は低値群に比較し、発症7年未満の症例でオッズ比が有意に上昇しており、発症危険因子または発症前早期診断マーカーとなりうる可能性が示された。血液試料のプロテオミクス解析の技術開発では、QTAP技術に、自動化及びスループット化を導入し、新たな多検体血漿バイオマーカー一斉定量技術を確立した。膵がん病期IIから上昇しているタンパク質を見出し、早期診断マーカーとしての有用性が示された。5)メタボローム解析では、液体クロマトグラフ質量分析計を用いた脂溶性代謝物(脂質代謝物)網羅的解析システムを構築し、膵がん患者に特異的な血清代謝物の変動を明らかにした。これらの結果から、血清メタボロミクスを用いた診断的手法は、膵がん患者をより正確かつ早期に発見できる可能性を持つ有用な方法であることを示した。
結論
上記1)~5)の各種オミックスバイオマーカー情報と、コホート研究等による生活習慣因子等との交互作用の解析結果等を勘案することで、高危険度群を定量的に捕捉するオミックス及び生活習慣情報の複合的な指標が開発可能となる。網羅的解析から抽出される複合診断指標は前向き研究による検証と、指標の生物学的意義の解明・説明が重要である。特に今後、臨床及び検診現場への導入のために、検証および詳細な検討を重ねるためには、膵がんなど、早期診断が困難なために難治性がんとなっているがんの血液試料の確保が研究の隘路となっており、試料収集に関する組織的な取り組みが必須である。本研究の研究者らが進めている分子疫学的住民コホートや患者バイオバンクキング、あるいは内外の利用可能なバイオリソースをさらなる検証セットとしても本研究成果の改訂を重ねて行きたいと考える。
公開日・更新日
公開日
2015-09-07
更新日
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