成年後見制度における精神障害者のための後見人の人材と活動のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800307A
報告書区分
総括
研究課題名
成年後見制度における精神障害者のための後見人の人材と活動のあり方に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
池原 毅和(財産法人全国精神障害者家族会連合会)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤三四郎(埼玉県立精神保健福祉センター)
  • 白石弘巳(東京都立精神医学研究所)
  • 飯村史恵(権利擁護センターステップ)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的の第1点は、地域の社会資源の中から成年後見人の供給可能資源を吟味し、既存あるいは現在生成中の社会資源(自治体の財産保全サービス、権利擁護制度など)を成年後見人の供給資源とし、あるいは、成年後見制度を補完するものとして機能させるためにはどのような条件が必要であるかを明らかにすることにある。単身の精神障害者の増加や介護に当たる家族の高齢化状況の下では親族団体に後見人候補者資源を期待することは困難になり、後見人供給資源はどのような条件を備えるべきかが重要な課題になる。また、精神障害者の地域生活を経済生活の安定的な運営という面から見るとき、収支の予測をたてた計画的な家計の組立とその実行ということが重要になる。それを支えるものとして自治体の財産保全サービスと権利擁護制度が成年後見制度を補完するものとしての重要性をしめることになるので、自治体におけるこれらの制度が精神障害者の家計管理面の援助の条件や留意すべき事項を明らかにする必要がある。
研究の目的の第二は、成年後見人のうち後見人と保佐人は精神保健福祉法上保護者になり、精神障害者のヘルスケアにかかわることになるが、成年後見制度それ自体は身上監護面について十分な規定が置かれるわけではない。そこで、精神障害者が疾病と生活障害を併せ持つという特性を前提にして、身上監護・ヘルスケアの選択について実践的な判断基準たりうるガイドラインを提示することにある。
研究方法
第1に比較制度研究をおこなった。海外文献調査については、カナダアルバータ州成年者援護法(Dependent Adults Act)、ドイツ世話人法、米国カルフォルニア州のConservatorshipとProxy Parents等の文献収集分析調査をおこなった。身上監護面で最も具体性のある基準とマニュアルを提供しているのはカナダアルバータ州のものであり、カナダアルバータ州の成年者援護法については重点的にその運用の実態がどのようになされているかを調査した。
精神障害者の権利侵害の実情を実態調査するためPSWを介して権利侵害についてのアンケート調査を行い、その結果を権利侵害の内容、権利侵害者の類型、期待される社会資源などの視点から分析整理した。また、精神障害者について財産管理サービスを実践している事例10数件及び自治体の実践活動等を調査し実践活動上の問題点、特に本人の決定と援助者の判断とが一致しない場合の意思決定の調整、精神障害者の利用上の問題点を分析した。
結果と考察
カナダアルバータ州の成年者援護法に基づく後見人の業務マニュアル(Public Guardian Manual)によると、アルバータ州の後見実務では、要援護者のうちPsychiatric Disorderが公的後見では16.5%、私的後見では5.3%、Mental Impair.が公的後見では12.3%、私的後見では44.3%であり、最も利用が多いのはDevelopmental Disorder(公的後見で62.5%、私的後見で35.8%)であった。公的後見に付されている者と私的後見人がいる者とを対比すると、公的後見では約40%の者がコミュニティー又はグループホームで生活しているが、私的後見ではその比率は約50%であり私的後見(家族等が後見人になっている)の方が恵まれた環境で生活している者が多いことが窺える。アルバータ州の制度は、財産管理面は信託に委ね、後見人は身上監護面にかかわるので、わが国の制度とは異なるが、身上監護面での配慮事項として最も比率が高いのはヘルスケアについての決定であり、要援護者のうち99.2%の者が当該事項を後見人の決定事項としている。次いで法的問題98.8%、居住場所95.7%、教育訓練60.2%、日々の決定59.5%などとなっている。注目すべき点は、身上監護面の上記の各配慮事項について後見人が決定をする際の判断要素として検討すべき事項が明らかにされている点である。例えばヘルスケアについては、慎重に検討すべき問題点として、「その人が種々の治療がもたらす結果を理解しているか。指示を受け入れそれに従えるか。自身が受けるサービスの質について質問できるるか。」などが列挙されており。また、医師に対する質問事項として、「進言できる治療方法はどのようなものか。処置は診断かそれとも治療を目的とするものか、確立された治療方法かそれとも実験的なものか。どのような危険性があるか。可能性のある利点や得られる結果はどのようなものか。治療をしなかった場合はどのような結果になるか。最小限の選択か。他に代替法方はあるか。代替法方を試みたか。その結果はどのようなものだったか。治療が進められる理由は何か。」 など具体的なチェック項目が示されている。居住場所についても「その者が家庭を維持して行く基本的な能力を持っているか。住む場所について好みを持っているか。地域社会にある利用手段を知っているか。その手段の利用場所を知っていてそれを利用できるか。住宅についてどんな意思決定をしたのか、その決定はその人の最良の利益につながっているか。」など、ある程度の判断要素を示している。わが国の成年後見制度はいわば後見制度の骨格を定めるだけであり、その内容としてどのように後見人が本人の意向や最善の利益を実現していくかは各後見人の資質・判断に委ねられることになる。しかし、意思能力の不十分な精神障害者の援助制度としての成年後見制度が、各後見人の個性や恣意によって運用されることは望ましくない。また、精神保健福祉法改正案では後見人及び保佐人は保護者になるので、ヘルスケアについてどのような関わり方をすべきかの基準を明確にすることが是非とも必要である。こうした観点から、本研究の後見業務の運用マニュアルが示す観点は重要な基準を提供している。今後は、ドイツ、オーストラリア等の資料も対比しながら、わが国の成年後見及び保護者制度において後見人等の活動ガイドラインを具体化する予定である。
第二のアンケート調査については300人のPSWに調査用紙を配布し、91件の回答を得たが、うち有効回答と判断されたのは82件である。疾病分類F2に属するものが最も多く59名、次いでF1、5名、F0及びF3がそれぞれ4名などの順になっている。入院中の者が57名、単身者12名、家族同居6名、その他となっている。今回の調査では成年後見制度に焦点を置いたためか、財産権侵害とされる事例が55件、生活上の問題3件、医療問題2件、その他となっている。権利侵害者になっている者は、親が3件子供が5件なのに対し、同胞が23件、その他の親族が13件であり、親子の直系の核家族から世代が移り同胞又はさらに親等の離れた親族の援助を得ざるを得なくなった時に問題が発生する危険性が高いことを窺わせる。問題を未然に防ぐために期待される機関としては、権利擁護機関等の第三者機関、財産管理センター、成年後見などが多く寄せられている。権利侵害の態様について記述式で回答を得ているので、今後は、権利侵害の具体的内容について成年後見人がどのような役割を果たしうるのかを具体的に検証し、さらに、海外の後見人業務指針に照らし合わせるなどして、ガイドライン作成に役立てることができると考えている。
結論
国会で審議中の成年後見制度(民法の一部を改正する法律案)では、精神障害者の疾病と生活障害を補いながら適切な後見活動をするための準則は示されておらず、このままでは個々の後見人の場当たり的な判断で後見活動が行われないとは言えない。また、それは後見人による本人の権利侵害という事態をもたらす危険もある。カナダ等の後見人マニュアルが提示する配慮事項は、なお精神障害者の特性に十分適合したものとはいいがたいが、後見業務のガイドライン策定に十分役立つものである。権利侵害事例から読みとれる精神障害者権利侵害の特性は、本人が不知であったり容易に周囲から言いくるめられ自己の資産を奪われる事例が特徴的であり、障害年金の管理などについて問題が多く見られた。成年後見制度のみではこの点の保護は十分でないので、財産保全サービス、権利擁護制度が精神障害者の特性を配慮して現実的に利用可能となることが必要である。

公開日・更新日

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