室内環境における準揮発性有機化合物の多経路曝露評価に関する研究

文献情報

文献番号
201329019A
報告書区分
総括
研究課題名
室内環境における準揮発性有機化合物の多経路曝露評価に関する研究
課題番号
H24-化学-指定-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
神野 透人(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部第一室)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 育江(東京都健康安全研究センター 環境保健部)
  • 武内 伸治(北海道立衛生研究所 理化学部)
  • 上村 仁(神奈川県衛生研究所 理化学部)
  • 香川 聡子(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 金 ヒョンテ(早稲田大学 理工学術院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
15,583,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
室内は人が日常生活の大半の時間を過ごす空間であり、揮発性有機化合物への曝露という観点から室内空気は食品・飲料水や大気に匹敵する、極めて重要な曝露媒体であると言える。一方、準揮発性有機化合物 (SVOC) と総称される比較的沸点の高い化合物の曝露についても室内環境中の媒体が重要な役割を担っていることが最近の研究で明らかにされつつある。SVOC の場合にはガス状の他に、大部分が浮遊粒子状物質やハウスダストに分配/吸着した状態で存在し、存在形態に依存して異なる経路 (経気道あるいは経口、経皮) で生体に取り込まれると考えられる。そこで本研究では、室内環境中のSVOCについて、存在形態ごと、換言すれば曝露媒体ごとの濃度を測定し、様々な経路からのSVOC曝露量を正確に評価するための手法を確立することを主要な目的として検討を行った。
研究方法
臭素系難燃剤11化合物、フタル酸エステル系可塑剤・リン酸エステル系可塑剤/難燃剤など54化合物およびネオニコチノイド系・ピレスロイド系殺虫剤23化合物の計88化合物を対象にした。Multi-Nozzle Cascade Impactorによる粒径別採取法を用いて、21家庭の室内空気を10 L/minの流速で24時間採取した (採取量14.4 m3)。室内空気の採取終了後に、PTFE製のサンプリング装置を充電式ハンディクリーナーに接続してハウスダストを採取した。石英フィルター、ODSフィルターおよびハウスダストからアセトンでSVOCを抽出し、GC/MS、GC/MS/MSあるいはLC/MS/MSを用いて定量した。さらに、家庭用品や建材から室内環境へのSVOC 負荷を定量的に評価する目的で、PVC製床材からのSVOC放散、ならびに床に散布した殺虫剤の再放散についてマイクロチャンバー法により検討を行った。
結果と考察
Multi-Nozzle Cascade Impactorによる室内空気中のガス状・粒子状 (>10 μm、2.5~10 μmおよび<2.5 μm) 成分の分別採取法の適用可能性を明らかにするために、地方衛生研究所の協力を得て北海道から九州までの21家庭で室内空気およびハウスダストのサンプリングを実施した。これらの室内環境媒体中の臭素系難燃剤、フタル酸エステル系可塑剤・リン酸エステル系可塑剤/難燃剤およびネオニコチノイド系・ピレスロイド系殺虫剤を定量した。その結果、2,4,6-トリブロモフェノール (最高濃度1.4 ng/m3)、デカブロモジフェニルエーテル (0.95 ng/m3) などの臭素系難燃剤やフタル酸ジブチルをはじめとするフタル酸エステル類、リン酸(2-エチルヘキシル)ジフェニルなどのリン酸トリエステル類が室内空気中から検出され、その多くがPM 2.5と呼ばれる<2.5 μm以下の粒子に吸着した状態で存在していることが明らかになった。したがって、室内空気中のPM 2.5は、物理化学的な性状から推定される以上にSVOCの空気中の最高濃度を増大させるとともに、肺深部にまで到達可能な状態でSVOCを空気中に存在させる、言わばCarrierとしての役割を果たしていることが明らかになった。さらに、ハウスダスト10試料について、顔料由来の異性体を含むPCB 63化合物をGC/HRMSで網羅的に測定した結果、全ての家庭のハウスダストから総PCB濃度として0.013 μg/g dustから0.059 μg/g dustの濃度範囲でPCBが検出され、有機顔料に由来すると考えられる2塩素化体、PCB#11が総PCBの13%~76%を占めることが明らかになった。一方、マイクロチャンバー法によるSVOC放散試験では、PVC製床材からのSVOC 14化合物の放散を評価した結果、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニルがそれぞれ2.1 μg/(m2・h)、0.3 μg/(m2・h) の速度で放散されることが明らかになった。
結論
昨年度確立したMulti-Nozzle Cascade Impactorによる分別採取法を用いて、21家庭の室内空気およびハウスダスト中の難燃剤、可塑剤、殺虫剤など計 88化合物を分析し、種々のSVOCがng/m3からμg/m3のオーダーで室内空気中に存在すること、これらのSVOCが主にPM2.5に吸着した状態で存在していることが明らかになった。今後、本研究で確立、実証したガス状・粒子状SVOCのサンプリング・測定法を用いて地方衛生研究所と協働で全国規模の調査を実施し、シックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会において室内濃度指針値策定の必要性を議論するための曝露情報を取得する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201329019Z