文献情報
文献番号
201328060A
報告書区分
総括
研究課題名
小児における精神疾患治療薬の使用実態の把握と安全性評価に関する薬剤疫学研究に基づく適応外使用是正のための研究
課題番号
H24-医薬-若手-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小原 拓(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「レセプトデータに基づく検討」として、発達・行動・情緒障害を有する本邦の小児患者における、抗精神病薬とその代表的な副作用である高血糖・糖尿病発症との関連、および、ADHD治療薬と脳心血管疾患の関連を、レセプトデータに基づいて検討し、「既存の出生コホートに基づく検討」として、既存の出生コホート研究における小児の医薬品使用状況の実態解明を行う。
研究方法
「レセプトデータに基づく検討」においては、株式会社日本医療データセンターのレセプトデータ等を用いた。国際疾病分類第10版でF80-F89 (心理的発達の障害)およびF90-F98 (小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害)の診断を有する2~18歳のレセプトデータを抽出し、「抗精神病薬と高血糖・糖尿病発症の関連」の検討においては、7,551名を解析対象者とし、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬と脳心血管疾患発症の関連」の検討においては、7,546名を解析対象者とした。抗精神病薬は、WHO-ATC 分類で“非定型抗精神病薬”および“その他の抗精神病薬”に属する全薬剤と定義し、ADHD治療薬は,メチルフェニデートおよびアトモキセチンと定義した。F80-F89/F90-F98の診断を付与された日から1年の間に各対象薬剤を処方されたものを各対象薬剤の服用群とし、処方されなかったものを非服用群と定義した。ICD10分類に基づき、「抗精神病薬と高血糖・糖尿病発症の関連」の検討においては、高血糖・糖尿病発症を血糖上昇(R73)または糖尿病(E11-E14)と定義した。また、「注意欠陥・多動性障害治療薬と脳心血管疾患発症の関連」の検討においては、脳心血管疾患を、虚血性心疾患を示すI20-I25および脳血管疾患を示すI60-I69と定義した。追跡開始日は、各対象薬剤服用群では、各対象薬剤の処方日、非服用群ではF80-F89/ F90-F98の診断を付与された日と定義した。追跡期間は、追跡開始から各アウトカムの初発までとし、発症しなかったものは最終診療月の1日で打ち切りと定義した。各対象薬剤と各アウトカムの発症との関連を、性別およびF80-F89 /F90-98診断時の年齢を補正項目としたCox比例ハザードモデルを用いて解析した。「既存の出生コホートに基づく検討」においては、エコチル宮城ユニットセンター独自の児の薬剤に関する追加調査のデータを用いた。産後12ヶ月を迎える対象者へ薬剤調査票を郵送で送付・回収しデータ収集を行った。薬剤をWHO-ATC分類に基づいて分類した上で集計した。
結果と考察
「レセプトデータに基づく検討」:平均追跡期間2.4±1.7年(中央値2.0年)のうち、高血糖・糖尿病は29例(0.4%)に認められた。性別・年齢で補正後、抗精神病薬服用は、高血糖・糖尿病発症と正に関連する傾向が認められた。観察期間中における抗精神病薬服用の新規開始の有無を補正した場合、抗精神病薬服用による高血糖・糖尿病発症ハザード比(95%信頼区間)は2.57 (0.91 - 7.24)と、同様の傾向が認められた (P = 0.07)。平均追跡期間2.4±1.7年(中央値2.0年)のうち、脳心血管疾患は10例に認められた。性別・年齢で補正後、ADHD治療薬服用と脳心血管疾患発症との間に有意な関連は認められなかった(P=0.2)。観察期間中のADHD治療薬服用の新規開始を補正した場合、ADHD治療薬服用による脳心血管疾患発症ハザード比(95%信頼区間)は4.33 (0.48 - 38.81)と、有意差は認められなかった (P = 0.2)。「既存の出生コホートに基づく検討」:児の薬剤使用状況についてのデータ入力を終えている対象者260名において、産後12ヶ月時点で最も多く使用されている薬剤は、WHO-ATC分類薬剤分類名に基づくと、カルボシステイン(158名、60.8%)、チペピジン(110名、42.3%)、シプロヘプタジン(92名、35.4%)、パラセタモール(80名、30.8%)の順であった。また、神経系に分類される薬剤の使用者は82名(31.5%)であり、その内、精神抑制薬に分類される薬剤は2名(共にジアゼパム)において使用されていた。
結論
本研究の結果、発達・行動・情緒障害の診断を有する日本の小児患者において、抗精神病薬が高血糖・糖尿病発症と関連する傾向が認められ、ADHD治療薬の服用は脳心血管疾患の発症とは関連しない可能性が示唆された。また、本研究によって、本邦では類を見ない規模の児の薬剤使用における安全性評価のための基盤が構築されることが期待されることから、今後、小児における精神疾患治療薬の使用実態の把握と安全性評価に関する薬剤疫学研究に基づく適応外使用是正のための研究が推進されることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2018-06-21
更新日
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