薬剤疫学的安全性情報の情報収集に関する調査研究

文献情報

文献番号
201328047A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤疫学的安全性情報の情報収集に関する調査研究
課題番号
H25-医薬-指定-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 友孝(国立大学法人大阪大学大学院医学系研究科 社会環境医学講座環境医学)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 好規(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 松田 勉(山形大学大学院医学系研究科)
  • 西本 寛(国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部)
  • 松村 泰志(大阪大学医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤疫学的な安全性情報の収集・評価に関する手法の開発を目的として、抗がん剤を例として、我が国における重篤な有害事象の発生頻度を計測する仕組みについて検討した。
研究方法
抗がん剤使用後の重篤な有害事象の発生頻度を網羅的に測定するには、断片的に存在するデータを利用して全国の実態を推定する必要がある。すなわち、臓器別・ステージ別・新規再発別に、抗がん剤使用者数を推計し、それぞれにおける有害事象発生率を当てはめて、全国の件数を推定する必要がある。その際、有害事象発生頻度、抗がん剤使用頻度、患者数を、計測すべき指標として想定した。
有害事象発生頻度については、モデルとして限られた施設での抗がん剤治療の実態に関する基礎的情報収集の方法論を、名古屋大学および大阪大学において検討した。他の情報源として、再審査期間中に企業により実施された使用成績調査等の安全性データ(公開情報)を用い検討した。抗がん剤使用頻度については、2011年の拠点病院院内がん登録全国集計の情報を用いて、ステージ別に化学療法が初回治療として施行された件数を検討した。患者数については、罹患数(地域がん登録)、死亡数(人口動態統計)を利用して推定した。さらに、米国食品医薬品局(FDA)リスク評価・リスク緩和戦略(Risk Evaluation and Mitigation Strategies; REMS)の最近の実施状況に関して調査を行った。
結果と考察
名古屋大学においては、汎用される2種類(ペメトレキセド、アムルビシン)の抗がん剤治療におけるデータの収集を行った。ペメトレキセドについては、Grade 3以上の非血液毒性は少なく、発熱性好中球減少の発生はなかった。Grade 3以上の血液毒性が発生しても、生命予後への悪影響はみられなかった。アムルビシンについては、Grade 3以上の非血液毒性は30~40%発生し(薬剤性肺障害、発熱性好中球減少症)、治療中止につながる血液毒性については、その80%に発熱性好中球減少の合併を認めた。
大阪大学においては、有害事象に対して各抗がん剤の寄与度の概念を導入し、各抗がん剤の副作用発生率を推定する数理モデルを考案した。阪大病院の院内がん登録のデータにおいて2010~11年にがんと診断された患者6676例を対象として、各抗がん剤の血液毒性の推定副作用発生率を求めた。複数病院からのデータ集積を目指し、各病院内で一定処理後に、出力データを集積して副作用発生率を算出するアルゴリズムを考案し、コア部分のシステムを作成した。
企業の使用成績調査等の安全性データを用いて、抗がん剤では「タルセバ錠」、「スーテントカプセル」及び「スプリセル錠」を対象とし、また、関節リウマチ領域の薬剤から「アクテムラ点滴静注」、「ヒュミラ皮下注」及び「オレンシア点滴静注」を対象として検討したところ、安全性データの全国値をある程度精度を担保しながら推定するためには、少なくとも「対象疾患」、「性別」、「年齢」、「体重」、「喫煙歴」、「合併症」、「既往歴」、「原疾患」、「併用療法」、「PS(開始時)」、「投与量」、「転移の有無」などの情報について検討が必要と考えられた。また、間質性肺疾患等の副作用発現頻度が低いことが想定される事象の全国値を正確に推定するためには、ある程度大きな標本が必要となると考えられた。
院内がん登録全国集計データを用いて、血液腫瘍、肺、大腸、胃、乳房について、病期(ステージ)別に化学療法施行例を集計した。それぞれ全体の施行率は、血液腫瘍70.4%、肺がん46.8%、大腸がん27.2%、胃がん25.9%、乳がん36.8%と、実施率そのものに差異を認めた。ステージ別の施行率のパターンもがん種によって異なっていた。
2005年における一年当たりの罹患数は、男379,436人、女267,366人、一日当たりの患者数は、男159,000 人(外来75,200人、入院83,800人)、女126,400 人(外来65,200人、入院61,200人)であった。外来入院比は、男女合計で0.97とほぼ1に近かった。一方、一日当たりの初回治療入院患者数は、男36,679 人、女26,737人、非初回治療入院患者数は、男47,121人、女34,463で、初回/非初回比は、男0.78、女0.78であった。
2011年から2013年に米国FDAによりREMS指定された品目について検討を行った。当該期間にREMSが課された品目は、循環器器管用薬8品目、精神神経用薬7品目、抗悪性腫瘍薬5品目、の順であった。
結論
これらを通じて、抗がん剤による有害事象の発生件数を推定することで、「抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会」の報告書において、今後の課題とされた「基礎的なデータ」を提供することも可能であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201328047Z