ヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインとリスク管理等に関する研究

文献情報

文献番号
201328031A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト用医薬品の環境影響評価ガイドラインとリスク管理等に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-019
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
西村 哲治(帝京平成大学 薬学部薬学科)
研究分担者(所属機関)
  • 鑪迫 典久(国立環境研究所 環境リスクセンター)
  • 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
  • 川元 達彦(兵庫県立健康生活科学研究所 健康科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規に承認されるヒト用の新しい有効成分を含む医薬品の、有効成分そのもの、または代謝されて活性化する代謝産物に関して、販売にともない、直接もしくは間接的に生じる影響を推定し、人の健康と自然環境に生息する生物に対するリスクの軽減を図ることを目的として検討されている環境影響評価ガイドラインの作成に必要な新しい情報の収集を行い、寄与することを目的とする。
研究方法
ヒト用の医薬品のすでに使用されている9成分を対象とし、東京都近郊および関西地域を流れる河川水中の濃度を調査した。また、東京都多摩地域の飲料用井戸水中のヒト用医薬品の実態濃度を調査した。多摩川河川中で検出濃度の高い医薬品成分10種を混合し、藻類、ミジンコ、魚類を用いた短期慢性影響試験を実施し、複合影響を評価した。文献や学会等で報告された情報を収集した。
結果と考察
ヒト用医薬品の成分として用いられる化学物質は、一般化学物質に対して生産量や流通量が少ないことにより環境負荷が比較的低いと考えられること、さらにヒトに対する治療が目的であることを重視する観点から、管理の対象とする化学物質のカテゴリーの中では優先順位は必ずしも高いとはいえない状況であった。しかし、ヒト用の医薬品の成分は、一定量以上ではヒトに対して生理活性をもち、環境生物の多様性を考慮すると、環境生物の中にはヒトよりも感受性が高い生物種が存在する可能性から、ヒトの健康リスクを対象とした現行の医薬品の審査法では、環境生物に対するリスク評価は十分であるとはいえない状況である。したがって、新規に承認されるヒト用新有効成分含有医薬品について、環境影響リスクの評価を実施することが重要であることが明確にされた。
環境影響評価の判断基準となる生態毒性に関する文献情報を収集し、整理を行った。判断基準の要件とする予測無影響濃度に関して、被験生物種や暴露手法等、普遍性のある信頼性の高い値が示されている文献は限られていた。限られた情報からではあるが、抗生物質に対して藻類の感受性が高い傾向がみられた。既に市販されている医薬品成分の共存による影響に関する研究も見られたが、一部の医薬品の間の相互作用の評価にとどまっていた。OECDのテストガイドライン等の情報収集を図り、易分解性試験としてこれまで使用されてきたTG301Eの方法での実施が少なくなってきたことから、TG301Eを除き、新しく提案されたTG310を追加した。
河川水の実態調査の結果、メマンチン、アリピプラゾール、オルメサルタン、イルベサルタ、バルサルタンおよびアトルバスタチンが数十~数百ng/Lの濃度で検出された。アンジオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB)が、河川水や下水処理場の処理水試料から比較的高濃度で検出されることが明らかとなった。ARBの中でも、オルメサルタンおよびバルサルタンの環境実測濃度の最高値は、603 ng/Lおよび871ng/Lで、それぞれの環境予想濃度である160 ng/Lおよび800ng/Lよりも大きくなる場合があることがわかった。地下水中から、対象とした19種類の医薬品類のうち、スルピリド、アセトアミノフェン、アマンタジン、カルバマゼピン、カンデサルタンおよびクロタミトンが数~十ng/Lの濃度で検出される事例があることが明らかとなった。
水生生物に対する医薬品の複合影響を評価するため、多摩川河川中において検出濃度の高い医薬品10種を検出濃度比に基づいて混合し、藻類、ミジンコおよび魚類を用いた短期慢性影響試験を実施した。藻類とミジンコでは、相加作用を仮定したConcentration addition (CA) 法と独立作用を仮定したIndependent action (IA) 法による用量反応曲線がほぼ重なり、藻類ではクロリスロマイシン、ミジンコではジフェンヒドラミンの作用が大きく寄与していると説明できた。実際の混合溶液試験の結果は、藻類では予測値と一致したが、ミジンコでは濃度反応曲線の傾きが予測より緩やかであった。一方、魚類では、IA法よりCA法による予測値の方が大きな影響を示し、実際の混合溶液試験の濃度反応曲線はIA法とCA法による予測曲線の中間に示され、ジフェンヒドラミンとケトプロフェンによる寄与が大きかったと推定された。
結論
最新の情報を収集し、環境影響リスク評価法の操作手順に反映し、ガイドライン案の精査を進めた。ヒト用医薬品の河川水中の環境予想濃度を算出する際には、実際の河川水の状況に合わせて希釈係数を考慮する必要があることが示唆された。地下水中にも数種の医薬品がng/Lの濃度で検出されることが明らかとなった。今回検証した10種の医薬品による水生生物に対する複合影響は、すべての生物試験において、個別の医薬品の影響から予測できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201328031Z